長く垂れる髪、なんて好都合。

あのひ、ねがったことは

「いっっ、んっ」

人気のない廊下。

の、さらに、人目が阻まれる場所。

校内のそんなところばかり詳しくなるな、などと思いつつ、カイトは遠慮なくがくぽの髪を掴んで引っ張り、強引に屈ませると、ちゅっとキスをした。

「カイト……!」

キスはうれしいが、痛いものは痛い。

恨めしげながくぽに、カイトは悪びれもせずに笑った。

「便利だよね」

「便利に使うなそのうちハゲる!」

「それはイヤだな………っ」

がくぽの抗議にわずかに怯みながらも、カイトが掴んだ髪を放すことはない。

指先で弄りながら、上目遣いにがくぽを見た。

「………そーいえばさ。『願掛けしてる』って、言ってたよね。なに、願掛けしてるの?」

「………ああ」

言われて、がくぽは改めてカイトを見た。それから、頭に手をやる。

長い髪を手に取って、眺めた。

「…………そうだな。もう、切ってもいいのかもしれない」

「え、切っちゃうの?!」

「カイト、おまえな……」

心底驚いたようなカイトに、がくぽは呆れた視線を送った。

男子の長髪は、校則違反だ。

そしてカイトは生徒に校則の遵守を説く、生徒会長だ。

そもそもがくぽのことを『問題児』と目を付けた最初だとて、この長髪が原因だというのに。

「だって、すっごくきれいに伸ばしてるのに……って、待って。それってもしかして、願いが叶ったってこと?!え、なに………っんっ」

掴んだ髪を引いて迫るカイトに、がくぽはそっと口づけた。軽く触れて、くちびるをちろりと舐めて離れる。

莞爾と微笑んだ。

「おまえを手に入れた」

「は………って、なにその誤魔化し俺と会うずっと前から、伸ばしてたのにっ!!っわっ!」

喚くカイトを抱きしめ、がくぽは肩口に頭をすり寄せた。

すきなひとが、ほしい。

だれかを、『すき』になりたい。

だれかに、『すき』になってほしい。

そんな願いは少しばかり子供で、とんでもなく乙女めいていて、さすがに口に出すのが躊躇われるけれど。

幼い自分が、涙とともに祈ったあの想いを笑われることは、ひどくいたたまれないけれど――

カイトになら、笑われてもいいか。

なおのこと抗議するカイトのくちびるをくちびるで塞ぎ、がくぽはますますきつく、抱きしめる腕に力を込めた。