「あのね、神威クンのために、早起きしておべんとー作って来たんだww食べて☆」

にっこり笑顔とともにがくぽに差し出された、いかにも女子が好きそうな、ファンシーキュートな柄の布袋。

いちじくにんじん、さんしょに…

ナイショでわくわくな、コイビトとのランチデートの待ち合わせ場所である屋上に向かう、廊下の途上――それぞれの昼食場所に向かおうとする生徒も多数行き交う、この衆人環視の中で。

教師が匙を投げて逃げ出した『問題児』は、がっくりと肩を落とし、懊悩著しいため息を吐いた。

「カイト………………今度は、なんの遊びを思いついた………………?」

衆人環視の廊下、きっらきらに輝く笑顔でがくぽの前に立ち塞がったのは誰あろう、ランチデートの相手、ナイショの恋人であるカイト――生徒会長さまご本人だ。

きっぱり女子向けである、ファンシーキュートな柄の布袋を持っていても、まったく違和感がない逸物だが。

「んだから、俺ががくぽのためにおべんとー作って来たから、食べてって」

「そうか」

逸物らしく、取り囲む輪がどんどん大きくなっていく野次馬にも、カイトはまったく構わない。

きっらきらの笑顔の恋人に、がくぽは頷いた――やにわにカイトを肩に担ぎ上げると、野次馬の輪を睥睨する。

モーセの再現のごとく、音もないままにさっと人ごみが割れ、廊下が開かれた。

しかし開いた道を顧みることもなく、乱暴者で鳴らす『問題児』は、立ち塞がる生徒の壁をわざわざ蹴散らし跳ね飛ばして、その場を離れた。

遠巻きについて来ようとする生徒を撒きつつ、ランチデートの場所を屋上から、さらに人気のない第二校舎の裏庭に変更。

がくぽは校舎の際にある植込みの陰にカイトを下ろすと、向かいに座って渋面を向けた。

「で?」

短く促すとカイトは、布袋に負けず劣らずファンシーな弁当箱を出し、蓋を開いてがくぽへと掲げてみせた。

「だから、おべんとvなんと朝四時に起きて、俺ががくぽのために愛情こめこめ、手作りしました☆」

「嘘だよな?」

即座に訊き返したのは、その弁当の中身があまりに整然として完璧な見た目だったうえ、カイトの指に絆創膏のひとつもなく、まっさらにきれいだったせいだ。

そもそもは、一般的な高校生男子を踏襲して、カイトは料理の一切が出来なかった。

それが、あまりに突然――しかもこれほど、完璧な。

「うん、ウソ☆」

カイトはきらきらしい笑顔のままあっさり言うと、ちょこりと首を傾げた。

「ほんとはふっつーに、朝六時に起きて作りました☆」

「そこが嘘なのか?!」

「ふっふっふっふっふ」

驚愕して叫んだがくぽに、弁当を掲げ持った恋人の笑みは怪しい響きを帯びて、引きつった。

「いつまでも、きのーまでの俺とおんなじだと思うなよ、神威がくぽ……俺はやると言ったら、やる男なんだからね!」

昨日まで――、といえば、週末に祖母の家に料理を習いに行ったと、聞いたような。

しかし一度行っただけで、こうまで完璧に?

とはいえ、これ以上こと細かにつついて恋人の機嫌を損ねるのも、躊躇われる。

がくぽは諦めて弁当を受け取ると、箸を持った。

もはや毒が入っていようが構わないと、勢いよく掻きこみ――

「……………うまい」

呆然としてつぶやくと、引きつっていた恋人の笑顔は、艶やかに咲き開いた。