「会長!お返しはいらないですから、受け取ってください!!」
「うん、ありがと!!」
――というやり取りがくり返された結果、学校直前の道から校門に辿りつくまでに、生徒会長の手にはすでに、紙袋が三つ。
さすがは、愛され型の生徒会長。
予想を覆すことのない、バレンタイン・モーニング。
ヒトクチメ
「ずいぶん貰ったものだな」
「うん!しばらくおやつに困らないよねー♪」
冷たく言うがくぽがたっぷりと込めた皮肉をさらっと流し、カイトはほくほくとうれしそうに笑う。
カイトが甘いもの好きであることは、がくぽも知っているが、もちろん学内にも知れ渡っている。調理実習などでお菓子を作れば、会長のスイーツ好きを知る女生徒がやはり、大挙して訪れる。
恋人に、とまで望むか望まないかは別としても、愛され型の生徒会長の笑顔を見たいと思う相手は、多い。
しかしいいか――猛省を促したい。
がくぽという!コイビトがいる前で!他の女子から!!チョコレートを貰っているのだが!!
いくら今日がバレンタインとはいえ、そしてがくぽとの仲が秘密とはいえ――
「っても、今日のおやつには出来ないんだけどねー」
「なぜだ?」
いつも以上に険しい顔で睨みを利かせる『狂犬』に気がつかず、カイトは苦笑して紙袋を揺らす。
「この中身は、学校ではこれ以上、ぜったいに触れないの。ヘタに開けたり食べたりするとそれで、『一番に食べたから、誰それが本命なのかも』とか、『何回も触ってるから、誰それが』って」
「………はっ」
短く吐き出しつつ、がくぽは軽く天を仰いだ。
モテる男にも、なんとやら――しかし本当に面倒な騒ぎを嫌うなら、そもそも受け取らなければいい。
いつものあの笑顔で、『大好きなひとがヤキモチ妬いちゃうから』とでも言えば――一時的に騒ぎにはなるだろうが、イベントごとにやきもきする人数が、大幅に減る。
『しばらくおやつに困らない』という動機だけで、女子の心もがくぽの心も翻弄して――ワルイオトコだ。
「カイト」
「ん?」
紙袋の扱いに苦労しながら靴を履き替えたカイトのくちびるに、ことりと当たるもの。
繋がる先にがくぽがいるせいで、なにがと考えることもなく、カイトは素直に口を開いて受け入れた。
きょとんとしながら口をもごつかせていたカイトの瞳が、徐々に徐々に見開かれる。
「ぁくほ、こぇ………っ」
「美味いだろう」
素っ気なく言うと、がくぽはカイトを置いて、すたすたと教室へ向かった。
手には、ブランドメーカのチョコレートの空き箱。
その小ささに、お値段とおいしさと、余りある愛情をぎゅうっと詰めて――
バレンタイン、モテモテ恋人の口の中に、いちばんのり。