「あ、あのっ!これっ!チョコレートですけどっ!ふ、深い意味はないので、受け取ってもらえませんか!」
持っている手まで真っ赤に染めて差し出された、ブランドチョコの包装。
見下ろしたがくぽは、ぶすりとした顔で吐き出した。
「俺は甘いものは、嫌いだ」
ばれんたいんでぃ・きっす
「あのさあ、がくぽ!断り方ってものを、もうちょっと考えようよ!なんなの、『甘いもの嫌いだ』って!」
チョコレートが山ほど入った紙袋(※複数形)を傍らに置いた生徒会長は、がくぽが生徒会室に入ってくるなり叫んだ。
「深い意味はないって言ってたし」
「真に受けるのか」
「受けたふりくらいしなさい!いくつになったの?!」
「……………」
そういう説教は、ありなのだろうか。
がくぽは鼻を鳴らして、女子からの『深い意味はない』前提のチョコレートを山ほどもらったカイトを見据える。
「見ていたのか」
「見てたし聞いてたとも!」
カイトは胸を逸らして、きっぱりと言う。
相変わらず、悪びれるという機能が壊れている。もしかしたら、母親の腹の中に忘れてきているのかもしれない。
「俺はもうね、がくぽのストーカだって、公言してもいいと思う!ちょっとするとすぐ、がくぽが目に入って」
「………」
正確には、がくぽ『の』ストーカではない――がくぽ『が』ストーカだ。
つまりはカイトをストーキングしているがくぽが、視界に入っているだけのこと。
だが主に鷹揚さと、あとは盲目的な愛ゆえに、カイトはストーキングされている自分に気がついていない。
がくぽは一瞬だけ、窓の外の快晴の空を見やり、べ、と舌を出した。一瞬だけ、だ。
しかしそういうことを見逃すカイトでもなく、大きなため息が吐き出された。
「まったくもう……………いくつになったのかな、この子は!そんな子には、お仕置きだべさ!」
腰に手を当てて叫ぶと、カイトはがくぽに背を向けた。自分の鞄を漁って、すぐさま振り返る。
「はい、がくぽ。あーん☆」
「あ?」
お仕置きの前提で呼ばれても、ほとんど反射で開いたがくぽの口に、カイトはことりと小さな塊を落とした。
舌の上で、ほどけ広がる――甘いあまいチョコレート。
ビターではない。スイートだ。
甘い。半端ない。
「っカイトっ!」
口を押さえるがくぽに、カイトは素知らぬ顔で笑った。
その手に、三個入りのブランドチョコレートのパッケージ――空白ひとつが、おそらくがくぽの口の中に。
「甘いもの嫌いなんだっけ、がくぽ?でもまさか、俺からのチョコまで要らないとか、言わないよね?」
「………………っっ」
言わない、というより、言えない。
口の中で蕩け広がるチョコレートより、なおいっそう甘く蕩ける笑顔になったカイトは、つまんだ新しいチョコレートをがくぽの口に運ぶ。
抵抗もできずに受け入れて、がくぽは泣きそうな心地になった。
情けない顔をしているがくぽに、最後のひとつを咥えたカイトは、そのまま顔を近づけてくる。
「甘いもの嫌いでも、バレンタインなんだから。俺と甘いあまい、蕩けるキスしてね?」