昼過ぎから降り出した雨は、放課後となり下校時刻となっても、下界をしとどに濡らした。
愛逢傘
「がーくーぽっ。はいっ!」
「……………………なんだ、その手……………」
昇降口の庇の下に立って、満面の笑みで手を差し出したカイトに、がくぽはうっそりと訊く。
実のところ、求められていることは訊かないでもわかっている――わかっているが、しかし。
「カサ!持ってるでしょ?」
案の定だった。
昨日にしろ今朝にしろ、天気予報での降水確率は低かった。傘を持たずに家を出た人間のほうが、圧倒的なはず。
もしも備えていたとしたら、ずいぶん用心深い。もしくは、几帳面だ。
「がーくーぽー♪」
――しかし負けるのは、いつでもがくぽだった。
項垂れながら、がくぽはぺちゃんこの鞄を漁り、折り畳み傘を取り出す。自棄になったように、差し出されたカイトの手に渡した。
「んじゃ、仲良く相合傘して帰ろうねー?」
「カイト……………」
ぱさりと傘を広げて笑ったカイトに、がくぽはさらに項垂れた。
学校だ。
下校時刻――雨だったとはいえ、部活動もあった。委員会もあったし、生徒会は揉める事案もなく、通常閉店。
生徒にしろ教師にしろ、まだ人の姿も多いというのに。
「さすがに、そこまでは許容しない」
硬い声音と表情で言ったがくぽに、開いた傘の柄を肩に預けたカイトは、ちょこりと首を傾げた。
「それはつまり、なにかな?がくぽは俺が、『問題児』を脅して傘を召し上げ、ひとり悠々と帰った、恐怖の生徒会長だという噂を広めたいと」
「カイト」
「会長の犬は濡れてしょぼんと帰りましたと、明日の俺にご報告が上がるような事態にしたいと」
「カイト!」
がくぽの声は、悲鳴じみていた。
カイトの声も口調も明るいが、これはあからさまに脅しだ。
がくぽが、カイトの悪評になるような行いを、もっとも恐れているとわかっていて――
「はいはい、じゃあいっしょに帰ろうねー☆」
「……カイト」
勝利の笑みを浮かべて手を伸ばしたカイトを避け、がくぽはひたすらに硬い声と表情で名前を呼ぶ。
乞われていることがわからないわけではないから、カイトはため息をつき、差し伸べた手を招くように振った。
「他の誰かならともかく、がくぽだよ?意味わかる、My Doggy?」
「……………」
悪戯っぽい呼びかけに、がくぽは瞳を見張り、それから軽く天を仰いだ。
「所詮は『犬』か……………」
周囲のがくぽに対する認識は、『生徒会長の飼い(狂)犬』だ。実際は、コイビトなのだが。
もちろん公けにできる関係ではないから知る者は少なく、『犬だから』で受け入れられてしまうと微妙な心地になるが、――そのことで、存在のすべてが許容されるというのなら。
「仕方ない。大人しくリードに繋がれてやろう」
「よしよし、いーこ!」
少しも仕方なさそうでなく、笑って手を伸ばしたがくぽに、カイトもまた、笑って腕を絡めた。