いつも和やかに緩んでいる顔をきりっと引き締め、キヨテルは首を横に振った。
「いえ、なにか誤解があるようですが………私は特に、男の娘萌えとかは、持っていません。ちっちゃければ、なんでもいいです」
はっきりきっぱりと、言い切る。
くま×りす→しましま論争
レンは首まで真っ赤に染まって拳を固めてぶるぶると震え、リンのほうは大きな瞳をさらに大きく見張った。
「えええっ、そうなのぉっ?!リン、せんせーはぜったい、男の娘とか好きなんだと思ってた!」
「だから誤解です、リンちゃん」
あくまでも真顔で、キヨテルは答える。
「私にとって重要なのは性別ではなく、属性でもなく、大きさ、いえ、年齢です。規定値を超えれば、スク水だろうが体操服だろうが、まったく萌えません。萌えるのはあくまでも、『ちっちゃい』ことが前提です。逆に言って、『ちっちゃい』のであれば、巨乳もナースもありです」
「おとこまえに言い切ればいいってもんじゃねぇんだよっ、このばかせんっ!ただの節操なしじゃねえかっ!!」
はきはきと言うキヨテルに、我慢の限界に達したレンが叫ぶ。
リンのほうは、今さらキヨテルのアレさ加減になどツッコまない。労力の無駄だ。
ただ、がっくりと肩を落とした。
「えー…………ざんねんー……………リン、せんせーのことコーフンさせようと思って、すっごいガンバったのにぃ………」
キヨテルのほうは、あまりにもがっかりとした様子のリンに、困ったように頭を掻いた。
いつも明るく無邪気なリンだ。お気に入りの彼女を、落胆させたいわけではない。
しかし自分に嘘はつけない――まったくもってつこうとしないからこその、あれやこれやな現在の位置だが。
「ええと、なんだか失望させてすみません………」
男の娘に萌えないことで、謝る教師。
疑問もなくぺこりと頭を下げてから、キヨテルはふと思い至った顔で、リンとレンを見た。
「あ、でもですね、そういう観点から言って……」
「ほら、見て。気合い入れてちゃんと」
「ひぎゃぁっ!!」
キヨテルの言葉を聞かず、リンは傍らのレンの『スカート』をめくり上げた。めくられたレンは全身を真っ赤に染めて、慌ててスカートを押さえる。
伝統的な生徒会主催のイベントである、男子生徒女装コンテストの最中だ。
イベント主催側である生徒会役員の男子は出場するしないに関わらず、女装することが義務づけられている。
なんだってこんなばかばかしい、と逃げようとしたレンだが、燃え上がった双子の姉に押し切られた。
そんなこんなで現在、レンは女子の制服姿だ。スカートもきっちり短い。
いつもは無造作に括っている髪にも櫛が通されて、かわいいピンで留められている。
特に化粧をしたということもないのだが、そうやったうえでリンと並ぶと、双子の姉妹にしか見えなかった。
完璧に女の子だ。
真っ赤になってスカートの裾を押さえる様などは――
「え、ちょっと待ってください…………!今、ちらっとなにか」
「ゃ、やだやだやだやだぁっ!」
どこか困惑した風情だったキヨテルが、慌てて身を乗り出してきた。レンはスカートを押さえ、涙目で後退さる。
その弟を無慈悲に掴み、くるりと反転させると、リンはお尻からスカートをめくった。
「今日のために、おにゅーのぱんつ買ったの!」
「ゃぁああああっ!!」
悲鳴を上げてレンは尻もちをつき、無慈悲な姉の手から逃れると、スカートの裾を懸命に押さえた。
「し、しましま……」
「リンのと色違いのおそろいなんだよー、ほら」
「なんと………!」
「り、リンっ!!」
本物の少女であるリンのほうは無邪気に、べろりとスカートをまくって、下着を見せる。それから後ろを向き、またべろりとまくるとお尻を見せた。
「リンはくまさんでねー、レンはりすさんなの!」
「なるほど………!」
オレンジと白のしましまぱんつのお尻には、大きなくまさんのアップリケがある。
レンは黄色と白のしましまに、りすさんぱんつだった。もちろん、おんなのこ用だ。
キヨテルは腕を組み、感慨深そうに頷いた。
「私はろりしょたの下着は、白一色に限ると思っていましたが………アップリケですか。動物さんアップリケは、白下着より萌えるかもしれませんね………!!しましまもありだと思わされます」
「ま、まじめに考察すんなぁっ!」
尻もちをついたままのレンが、真っ赤な顔で怒鳴る。
リンはその傍らにしゃがみこみ、恨みがましそうにキヨテルを見上げた。
「それもこれも、せんせーが男の娘に萌えると思ったから、ぱんつも手を抜かないでガンバったのにぃ…………萌えないなんて………」
恨み言が最初に戻り、キヨテルははたと思い出して双子の前に膝をついた。
中世の騎士もかくやというきりりと引き締まった表情で、リンとレンの手を取る。
「大丈夫です。さっきも言いかけましたが……あなたたちは私のストライクゾーンど真ん中です。どんな格好をしても、萌えます。萌え上がります。それが気合いを入れておめかししてくれたとなれば、興奮最高潮です」
言い切って、キヨテルは力強く頷いた。握った手に、ぐ、と力をこめる。
「かわいいですよ、レンくん………間違いなくいちばんです。リンちゃんと並べて、今すぐ食べちゃいたいです」
「せんせー…………」
「………っ」
リンとレンは無駄におとこまえな顔のキヨテルを、うっとりと見つめた。
その小さな体がほとんど同時に腰を浮かせると、膝をつくキヨテルの首に抱きつく。
「せんせーって、ほんとヘンタイで、ダメダメなんだからぁ………っ」
「そ、そんなこと言われても、ちっともうれしくなんかないんだからな、ばかせん……っ。でも、どーしてもっていうなら、もっかいだけ、ぱんつみせてやる………っ」
***
「放っておいていいのか」
手持無沙汰そうながくぽに訊かれ、司会の合間にステージ脇に引っ込んで来たカイトは、頷いた。
「大丈夫。一般生徒には見えない場所だから。音も響かないし」
「そういう問題なのか、生徒会長………」
力なく項垂れるがくぽに、今にも下着の覗きそうな短いスカートを閃かせ、会長は微笑んだ。
「それ以外に、なにか問題があるの?」