「ふぁっ、広っ!」
アパートメントの部屋に入った途端、カイトは歓声を上げた。
きみ、いといとしひと
ぱたた、と走りこんだ部屋は、日本で言えば2LDK。
ただし、外国サイズ――一部屋の広さが違う。
そのうえ今はまだ、段ボールを積んだだけで大した家具も置いておらず、なおのこと広く感じる。
「こんないーとこ、高くない?」
「大したことない」
部屋に走りこんで、すぐさま窓を開けて外の景色を確認しつつ訊いたカイトに、がくぽは肩を竦めた。
「おまえに言われたとおり、俺の頭の良さを存分に活かして稼いだからな。軽いものだ」
「………」
ゆっくりと歩み寄りながら言うと、カイトは微妙な表情でがくぽを見上げた。
その顔を、がくぽはしらっと見返す。
しばらくじっと見つめ合ったが、ややしてカイトが小さく吹き出した。
「そぉだよね。がくぽはこれから、がっこー行きながら俺のこと養わないといけないし。これくらい、軽くこなさないとだよね?」
「そうだとも」
からかうようなカイトの言葉に、がくぽはやはり、しらっと頷く。
――高校卒業したら、俺はがくぽのヒモになるから、いっぱい稼いで養って?
願ってもない申し出に、ここぞとばかりに外国の大学を選び、カイトを連れて家を出てきた。
本気出した神威がくぽこわい、と――周囲の誰もに、呆れられながら。
カイトはますます悪戯っぽく表情を輝かせ、がくぽを殊更に上目遣いで見つめた。
「これからよろしくね、『ご主人様』?」
「…………カイト?」
ふっと眉をひそめて見返したがくぽに、カイトは笑いながら首を傾げてみせる。
「そうでしょ、『ご主人様』。俺はこれからがくぽのヒモで、がくぽに養ってもらうんだから。これからはがくぽが、俺の『ご主人様』☆」
「…………………カイト」
がくぽは真剣な顔になると、愉しそうに謳い上げるカイトの手を取った。
翳ることなく明るく輝く瞳を、じっと覗き込む。
「いいか、カイト。ヒモというのは一見、相手に金を稼いでもらって養ってもらう、寄生のように見えるかもしれない。しかし、精神的な話は違う」
きょとんとして見上げるカイトに、がくぽは屈んで顔を近づけた。
その声が、熱を持つ。
「実際のところ、主導権を持つのはヒモのほうだ。ヒモは相手に寄生しているのではなく、相手をコントロール下において、己の欲しいものを欲しいままに貢がせている。つまり、主はヒモ。そして稼ぐほうは、その下僕」
「がくぽ」
「いや、犬だ。犬でいい。カイト、おまえが俺のヒモである以上、おまえは俺の絶対の主だ。飼い主だ。ぜひにも貢がせてくれ」
「…………………………がくぽ」
熱をこめて迫られて、カイトは視線を横に流した。
そのくちびるから、はふ、と小さなため息がこぼれる。
「君、ほんっとーに…………………………根っから、『犬』なんだね……………」