リビングに飾られた、純白の衣装二着。
並んで立って眺めていたがくぽを、カイトはどこか諦めた顔で見上げた。
「あのさ、がくぽ…………俺ってもしかして、未だに女の子だと思われてんの………?」
かいがらさかなのほね、ちょうのはね
「……………」
もしかして、ではなく――そもそも誤解が解けたことがないのだが。
なんとも答えられず、がくぽは対として作られた衣装を眺めた。
純白のタキシードと、――ウェディングドレス。
ご近所のご婦人たちの力作、つまりは手作りだ。デザインに多少の古臭さはあるが、それはそれで味ともいえる。
が、問題はそこではなく。
同居し、入籍もしている二人が、同性だから、という理由で式を挙げていないと知った友人知人ご近所さんが、総がかりで結婚式をプロデュースしてくれることになった。
とはいっても、すべてが素人の手作りの、ささやかなガーデンパーティだ。会場となる庭自体、ご近所の家で、比較的広めなところという。
それでも、結婚式には違いない。
なによりも、親しいひとたちがそうやって自分たちを祝福してくれることが、とてもうれしい。
そのハンドメイド結婚式だが、素人集団の寄せ集めなので、それぞれがそれぞれの特技を活かすことになる。
料理が得意なものは料理を、小物を作ることが得意なものは小物を。
普段からなにかと世話になっている近所の老婦人たちは、もっとも得意とする裁縫の腕を活かして、新郎と新『婦』の衣装を――
作ったら、純白のタキシードとウェディングドレスだったという、淀みない結論。
素人でありながらタキシードとドレスが作れてしまうのだから、侮れない。
などと感心している場合ではない。
同性だから、と確かに言ったはずなのに。
「……………着ないわけには、いかないよねえ。…………でもなあ…………」
諦めきった口調のカイトを見下ろし、がくぽはわずかに瞳を細めた。
ひょいと手を伸ばしてヴェールを取ると、カイトの頭に乗せる。
「っわ……」
慌てたカイトだが、それも一瞬。
すぐに悪戯っぽい表情を浮かべると、わずかに腰を屈めて、殊更に下からがくぽを見つめた。
「似合う?」
「かわいい」
「ぁ、ん………っ」
訊かれて即答し、がくぽはカイトを抱き寄せてくちびるを塞いだ。
ヴェールごと後頭部を押さえ、丹念に口の中を探る。素直に縋りついたカイトは、懸命にがくぽの舌に応じた。
「ん………っは…………ぁ……」
ややしてくちびるが離れると、カイトは足が落ちそうになって、がくぽに支えられてようやく立っている状態だった。
それでも強気に瞳を尖らせ、がくぽの両頬をつまんで軽く引っ張る。
「がくぽ、俺のこといくつだと思ってんの?カワイイって年じゃないんだからね。キレイって言いなさい」
痺れた舌で甘く詰ると、今度はカイトからがくぽのくちびるを塞いだ。