「じゃあ、またね、カイト」
家庭教師としての定められた時間が終わり、荷物をまとめたがくぽは、カイトの額に軽くくちびるを落とすと、笑って背を向ける。
さらりと撫でられた、頭――
チルキルサルキス
「ゃっ、待ってっ!」
「カイト」
「待って、まって…………っ、おでこじゃなくて、ちゃんと………っ」
縋るように言いながら、カイトはがくぽに飛びつく。爪先立って精いっぱいに背伸びし、がくぽのくちびるに。
「ね、せんせ、ちゃんと………おねがぃ………」
「ああ、カイト………」
寂しさに潤む声で甘く強請られて、がくぽは一度は手に持った鞄を床に下ろす。
替わって空いた手で、縋りつくカイトを抱きしめた。顎を掬って捉えると、うっすらと開いたくちびるにくちびるを重ねる。
すぐさまカイトの舌も伸びてきて、どこか懸命に絡められた。
「ん、ん………はっ………ぁ、んちゅ…………っん…………っ」
「……………カイト」
縋りつく体を抱きしめたまま、がくぽは苦い笑いをこぼす。
勉強を教えていたのはカイトの部屋で、シングルとはいえ、きちんとベッドがある。
こんなふうに熱を煽るようなキスをしていると、抱きしめた体を転がして、服を開きそうになる自分を堪えなければならない。
帰る間際なのだから、キスはもっと穏やかに、触れ合うだけで。
そう望みつつも、求められると拒めない。
いや、求められる以上に溺れこんでしまう。
「…………………っぁ、はぁ…………っぅ、…………ぁ、がくぽ、せんせ」
「仕方のない子だな、カイト」
息継ぎのために束の間離れたことすら嫌がるように、カイトは懸命にがくぽにしがみつく。
苦笑しながら、がくぽは潤んで揺らぐカイトの瞳にくちびるを寄せた。寸前で閉じた瞼に触れて、痺れた舌でとろりと舐める。
「こんなキスをしたら、帰れなくなる。君をこの腕から、離せなくなるだろう?」
「は、なしちゃ、やだ…………っ。せんせと、おわかれ、やだ…………っ。泊まってって、いいから………っ」
「まったく………」
年相応以下の駄々っ子と化したカイトに、がくぽは小さくため息をつく。
泊まって、並んで眠るだけで済むと思っているのだろうか。
それとも、傍にいさえすればそれでいいから、並んで眠るだけで我慢しろとでも。
「無理だよ、カイト」
欲に掠れる声でささやき、がくぽは再び、カイトの顎を捉えた。
「――無理だよ、カイト。ご両親がいようがなんだろうが、君が傍らにいて、君を我慢するなんてことは」
だから、帰るよ――
寂しいと、あまりに無邪気に素直に訴える瞳に微笑むと、反駁を紡がれるより先にくちびるを塞ぐ。
オトナの本領を発揮したキスで年下の初心な恋人を潰し、がくぽは後ろ髪を引かれながら部屋を後にした。