名残り往き
くちびるを重ねて、触れ合うだけで離れることはない。
反射で開くくちびるから舌が伸びて、同じく伸ばされた相手の舌と絡み合って。
「ん……………っ、ふ、……………んぁ」
「せんせ…………っ」
抱き締めた相手がこぼす鼻声の甘さに、がくぽは体を離すことができない。
今日の授業も滞りなく終わって、カイトの帰る時間だ。いくら男であっても、あまり夜遅くに歩き回るのは無用心だし、早く帰れるように気を遣うべきだ。
そう思っても、触れるくちびるの甘さに、抱きしめた体から伝わる熱に、仄かに香る体臭に、我慢が利かない。
「せんせぇ………っ」
「っ、あ、んんっ」
年上であっても、カイトはがくぽより小柄で、華奢だ。インドア派らしく、筋肉の付きも大したことがない。
がくぽが力づくで動けば、抵抗も出来ずに、されるがままとなる。
部屋から出て行こうとしたカイトを捕まえてキスに溺れこんだがくぽは、扉口に立っていた体を強引に反し、諸共にベッドに倒れこんだ。
「がくぽ…………っ」
「ちょっとだけ……………あと、もう少しだけ……………っ」
「ぁ、んんっ、ん……………っ、こら、ぁ、………………っ」
家には母親がいるし、父親もそろそろ帰っている時間だ。
だから、カイトの服を剥いでどうこうとまでするつもりはない。ないが、せめてキスだけは、思う存分にしたい。
腕の中でびくびくと跳ねる体を、爪を立てる指を、上がる甘いあまい鼻声を――次に会うまでの分、補給したい。
「……………ん、もっ。……………あんまり遅くなると、おかーさん、来るよっ」
「…………わかってますけど……」
「んっ………わかってないでしょが、もぉっ」
詰られながらも伸し掛かったまま、体を起こすことがないがくぽに、カイトはぷくんと頬を膨らませてみせる。
自由にならない体をもぞつかせて、押しつけられる熱の感触を示してやった。
「せんせ………っ」
「こんなにしちゃって、……………あとちょっとでなんか、終われないでしょ、これ以上やったら」
「ぅ……………っ」
年上の恋人の言うことは、まったくもっともだ。
その正しさには反論も思い浮かばないし、どこかで思い切らないといけないこともわかる。
未練たらしいケジメのない男は嫌われるよと、たまに冗談半分で言われるが、おそらくそれはカイトの本音だ。
項垂れるがくぽの額に、カイトはちゅっとくちびるをぶつける。
「ね?離して…………」
離さないでと、反転して聞こえる甘い声で言うカイトを恨みがましく見つめ、がくぽはのろのろと体を起こした。
その体が、軽くベッドに転がされる。
「先生っ?!」
「ん、そっこーそくめつ☆」
転がしたがくぽの足元に座ったカイトは笑って言うと、ちろりと舌を這わせ、くちびるを軽く湿した。がくぽの下半身、張り詰める場所をさらりと撫でて、その指をちゅぷりと舐める。
「ヘンに未練が残らないよぉに、せんせが一瞬で、天国にイかせてアゲル☆だからいーこに、バイバイしてね?」