「カイト先生、今度は………」
「んーっ」
「先生?」
呼びかけられて、カイトは眉をひそめた。
Like to say "I love you"
街中の、ファストフード店だ。混み合っていてすぐ傍にも他人がいるが、イヤホンで耳を塞いでいるか、連れとの会話に夢中になっているか。
他人の会話にわざわざ聞き耳を立てているような相手は、いない。
一応ちらりと周囲の状況を確認してから、カイトは戸惑うがくぽに首を傾げてみせた。
聞こえる程度に、声を潜める。
「あのさぁ、がくぽ。思うに今って、デート中だよね?」
「で、……………っ、ぁ、はいっ」
そう、休日の今日、二人で外で落ち合ったのは、家庭教師とその生徒という関係からではない。
密やかながら熱烈に愛し合う恋人同士として、休日を共に楽しむべく――
指摘に途端に真っ赤になった、かわいい年下の少年を見つめ、カイトはくちびるを尖らせた。
「つまり俺は今、『せんせ』じゃなくて、コイビトでしょ?せんせって呼ぶの、やめない?『カイト』って、呼び捨てにしてよ」
「か…………っ、…………ですか。えっと、はい、…………そうです、よね」
真っ赤になって同意しつつも、どこか口に出しづらそうながくぽは、ひどく礼儀正しい少年だ。
いくら恋人であっても、年上のカイトを呼び捨てにするのは抵抗があるだろう。
それくらいの妥協はできるカイトなので、椅子の背に凭れると、にっこりと笑った。
「いーよ、別に。『カイトさん』でも。『せんせ』じゃなければ………」
「カイト」
「っっ?!!」
言いかける途中で、必死で勇気を振り絞っていたがくぽが、吐き出した。
「…………カイト」
もう一度、確かめるように呼んでから、向かいの席に座る年上の恋人へと、照れ笑いを浮かべる。
「こ、こんな感じで………………え?あれ?先生?」
いつの間にかテーブルにべたっと懐いていたカイトは、息も絶え絶えの様子で片手を挙げた。
「か……………神威がくぽくん……………………せんせーのいっしょーのお願い、聞いてもらえますか…………」
「え、先生?ちょ、どうし……?!」
短い髪から覗くカイトの耳は、これ以上なく赤く染まっている。
瞳を見開いて戸惑うがくぽに、カイトは顔を俯せたまま、挙げた手をきゅっと握った。
「やっぱり、せんせー呼びでお願いします………………ムリ。ちょぉムリ。ときめき過ぎて、しんぞー死ぬる…………っっ!!!」