誰へのご褒美かわからないなと思いついて、がくぽのくちびるは笑みを刷いた。
白藤宮愛でおう月草君-01-
「ん………っ、は、ぁ………っぅ、ぁんん………っ、ん、せんせ………がくぽ、せんせぇ………っ」
ベッドにころんと横たわったカイトは、下半身になにも身に着けていない。上半身はきちんとシャツを着ているが、ズボンと下着は取り去られて、普段人目に晒すことのないところが露わにされている。
そうやって剥き出しにされた下半身には、がくぽが顔を埋めていた。
引きつって跳ねる足を押さえて殊更に大きく割り開き、曝け出したカイトの下半身を舐めしゃぶっている。
『ご褒美』だ。
「今度の定期テストね。成績が上がったら、『気持ちいいこと』をして上げるよ、カイト」
がくぽは家庭教師として、普段から力を尽くしてカイトに勉強を教えている。カイト自身、がくぽの努力を無為にしまいと、懸命に勉強をしてくれる。
それでも、こういったときにはなにかしら、さらにやる気と発破を掛けるようなことが必要だ。
そんなこんなな思惑のもと、がくぽが甘ったるく提示した『ご褒美』に、カイトは素直に表情を輝かせた。
「ほんと?!………って、きもちい?なにしてくれるの、せんせ?!」
「――気持ちよく」
輝かせたものの、具体性に欠けている『ご褒美』だ。
すぐにきょとんとしたカイトに、がくぽは曖昧な笑みで誑かして、その場を誤魔化した。
年の差あれ、教師と生徒という壁はあれ、カイトとはそれなりの関係を築いてきた。そもそもカイトだとて、そちら方面への好奇心が旺盛な年頃のはず。
だというのにこの恋人、頻繁に無邪気さと無垢さで、欲望に塗れたがくぽの心を挫く。
年上の恋人が『気持ちいいことをして上げる』と言って、本気でまったく心当たりもなさげに首を傾げるとか、がくぽの心中は涙雨のあまり、ちょっとした洪水が起こりそうだ。
そんなふうに誑かされて誤魔化され、曖昧なままにされたニンジン――もとい『ご褒美』だったが、カイトは無邪気で無垢、素直な生徒だった
懸命に定期テストを乗り切り、多少だが、なんとか前回よりも成績を上げることが出来た。
「ね、せんせ!俺がんばったでしょ?やったでしょ?いーこでしょ?!」
きらきらの笑顔で成績表を見せたカイトに、がくぽはとても心が痛んだ――それなりにそれなりのことをしてきたから、今さら初めてもなにもないが、それにしても。
こんな幼気な子を自分はコイビトにしているのだなと、ちょっとした感慨と罪悪感が突き上げたり。
――そうやって心を痛め、感慨と罪悪感に耽っても結局、
「ごほーび!ねっ、ちょぉだい、がくぽせんせ?」
と甘い声で強請られると、あっさりベッドに組み伏せていたりするのが、どうしようもないオトナの性だ。
しかも、事前のリサーチも万全。
本日、カイトの父親は短期の出張に出かけて不在。
母親のほうも、息子のテストがひと段落し、頼りになる家庭教師も来ているからと、久しぶりに友人と会いに出かけて不在――
カイトと二人きりだ。やりたい放題可能。
つくづくと自分はオトナになったのだなと、どうしようもないことを考えつつ、がくぽは『気持ちいいこと』を強請るカイトの下半身を剥き出し、そこに顔を埋めている。
「ん、ぁ、せん、せ………っ、せんせぇ………っ、ぁあぅ、も………も、でる、よぉ………でちゃぅう………っ」
「ああ。いいよ、カイト。我慢しないで、イって」
「んんん………っ」
恥ずかしさと、募る気持ち良さにカイトはじたじたと足を振り回すが、がくぽにとってはかわいい抵抗だ。
しっかり押さえこんで、与える愛撫に応えて素直に濡れていく性器に、さらに夢中になって食らいつく。
確かに、カイトも気持ちがいい。
けれど、こうしてカイトの秘密の場所を舐めしゃぶりたかったのはがくぽで、理由はなんであれそれが存分に赦されているというのは、がくぽにとってもご褒美に違いない。
ご褒美を与えているようで、実のところ、もっとも得をしているのは自分――
そんなカラクリに、がくぽはカイトの足を掴む手に、きゅっと力を込める。
「ぁ、んんっ、ゃ、だめ、だめぇ、せんせ………っ、ゃぁあ、ぃく………っ、いっちゃうぅう………っ」
「ん………」
一際かん高い声を上げて、カイトは陸に揚げられた魚のように痙攣する。がくぽ以外の誰のことも知らない、かわいらしい色形のものから、とっぷりと体液が迸った。
頭を退けようと髪を掴んでいたカイトだが、がくぽは食らいついたまま、離れない。
迸ったものをすべて受け止めると、こくりこくりと咽喉を鳴らして飲みこんだ。
「ふ…………っ」
がくぽは思わず、堪えきれない喘ぎをこぼす。
無邪気で無垢でかわいくて、その幼気さに頻繁にがっくり項垂れる恋人だが、こうしてきちんと愛撫に反応出来る年なのだと、実感できる。
なによりも、カイトの味――
「………濃いね。自分では、あまりしないのかな、カイト?」
「んんん………っ」
喜悦を含みながらからかうがくぽの言葉に、カイトは興奮とは別の意味で顔を赤くして横を向く。ベッドに半ば顔を埋めると、ぐすんと洟を啜った。
「がくぽせんせの、えっち………」
「………」
詰られて、どうしようもなくときめいた。
自分がこうまで『えっち』になるのはカイトが相手だからだと、十分理解できるまで教えてやりたい。もちろん言葉だけでなく、手取り足取り、実践で。
「………えっちな私は、嫌い?」
くちびるについた体液の残滓をちろりと舐めつつ訊いたがくぽに、カイトはきゅうっと身を固くした。シーツを掴んで無残に皺を寄せ、だけでは足らないとばかりに割り開かれた足も閉じようと蠢かせる。
がくぽはまだ、カイトの足の間に体を挟んでいる。閉じようとしたところで、そう易々とは赦されない。
カイトは潤む瞳で、おねだりをするときのように甘ったるくがくぽを見つめた。
「…………だいすき」
ぽつんと、つぶやく。
「………えっちなせんせ、だいすき………がくぽせんせに、えっちなことされるの、だいすき…………」
「………………………」
がくぽは軽く、天を仰いだ。
恋人は無邪気で、無垢だ。
それは性的な知識がないということとも同義になるが、時として、驚くほど奔放に強請る由縁にもなる。
性的なこと=ヒメゴトという図式が、成り立っていないのだ。
おかげで頻繁に、ヨゴレた大人であるがくぽが煽られて仕方がない。
相手は自分より年下だし、まだまだ教師と生徒という表向きの関係も終わらない。手加減するべきだし、辛抱強く待つべきだ、と――
思う端から、もうひとつの脳みそを格納する原始の場所が、欲望のままに突っ走ることを激しく要求してくる。
つくづくと、男などというものは厄介で、面倒だ。
「ね、せんせ………」
年上の恋人の懊悩などさっぱり察してくれないカイトは、おねだりに甘く染まったまま、天を仰ぐがくぽを見つめる。
「あのね、あのね……せんせ、せんせの、………いれて?俺の、おなかのなか………」
「っカイト」
「すっごくえっちなこと、して………せんせ?」
察して欲しい、この懊悩――どこまで、オトナの忍耐を試してくれる気なのだろう。
束の間息を呑んだがくぽは、いつもは見せないやや乱暴なしぐさで、がしがしと頭を掻いた。
「カイト………それじゃあ、君のご褒美にならない。私のご褒美だよ、完全に」
いくら考えようとも、もはやそれ以上の言葉もない。
確かに恋人同士となって、それなりに身体的な接触も持っているが、カイトの体はまだ、がくぽに馴染みきっていない。
がくぽは懸命に気を遣っているが、挿入に対してはまだ、広げられる痛みのほうが強いはずだ。こうして舐められて撫でられるだけが、もっとも快楽に浸れる方法のはず。
白旗を振ったがくぽに、しかしカイトはとろんと甘く蕩けて笑った。
「うん。せんせに、俺からごほーび上げる………だって、俺のせーせき上がったの、俺のせいだけじゃないもん………せんせが、俺に教えてくれて、せんせががんばってくれたからだもん………だから、ね?せんせにも、ごほーび、上げる………」
「………カイト」
言葉に詰まって、がくぽはくちびるを引き結んだ。
大人として取るべき態度――を、今さら言うのも白々しいが、それでも考える。
逡巡し、躊躇うがくぽに、蕩けていたカイトは微妙に不安そうな顔になって、しゅんと首を傾げた。
「………それとも、俺じゃ、ごほーびにならない……?おれとえっちするの、がくぽせんせにとって、ごほーびじゃない………?」
「そんなわけないだろう!これ以上、望むべくもなく、最高のご褒美だよ!!」
――ついうっかり、本音が駄々漏れた。
しかしがくぽが建前を取り戻すより先に、安堵したカイトが笑い解ける。手が伸びて、がくぽの首に回った。
「ね、じゃ、きまり。……せんせ、して……?せんせの、俺のおなかにいれて……えっち、して……?」
「……………カイト」
がくぽは大人で、カイトは子供だ。子供と言い切るには微妙なお年頃だとしても、子供だ。とりあえず。
そしてがくぽは教師で、カイトは生徒だ。家庭教師だろうがなんだろうが、教師は教師。教え子は教え子。
大人であり、教師であるがくぽには取るべき態度というものがある。守るべき規範が。
たとえ、今さらに過ぎるとしても。
「………その、カイト。だから……最高のご褒美だから、ね?今回、私はそこまで労って貰えるほどのことを、したとは………ええと」
「せんせ」
いつもの明朗さをすっかり失くして、しどもどと言い訳を連ねるがくぽに、カイトは無邪気に瞳を瞬かせる。
視線を合わせようとしないがくぽをきょとんとして見つめてから、そっと顔を寄せた。
ちゅっと、音を立ててがくぽのくちびるにくちびるをぶつける。
「んっ」
「………せんせ?せんせ、えとね、俺、そーいうの、なんていうか、知ってる………」
「っ」
ぎくりと強張ったがくぽに、手塩に掛けた教え子はきらきらと輝く笑みを浮かべた。
「ケンソン、でしょ?」