「……………っ」

予想とまったく違ったうえ、思うに漢字に直せていない。

白藤宮愛でおう月草君-02-

脱力したがくぽにぎゅっとしがみついて、カイトは剥きだしの下半身をすりりと擦り寄せた。

「………せんせ、あのね………えとね俺ね、さっきから、ずっと……ずっと、おしり、うずうずして、あっついの………せんせが、いっぱい舐めて、指でぐちゃぐちゃってしたから………もっともっとーって………」

「わかった、カイト!」

「んんんっ」

言い募るくちびるを、がくぽは慌ててキスで塞いだ。

恐ろしいまでに、無邪気なお子だ――これ以上言われたら、存在もしない、なけなしの理性が焼き切れる。存在していないというのに。

「………えっち、しよう、カイト」

「ん、……ぅんっ!」

完全なる降伏を告げたがくぽに、カイトはきらきら輝く顔で頷く。

さらにきゅうっとしがみつかれつつ、がくぽは思考をフル回転させ、自分の鞄の中身を思い返した。

ローション代わりになるもの――は、ある。

もし持っていなくても、カイトの家だ。そのものはなくても、なにかしら代替品になるものが、どこかしらに必ずある。食用油なり、シャンプーリンスなり、なんなり。

一般家庭というものは、意外に代替品の宝庫だ。もちろん、そのための在庫ではないが。

あとは――

「…………ああ。っと、……」

「せんせ?」

がくぽは堪えることもできず、あからさまに顔をしかめた。珍しくも忌々しげな声の響きに、カイトはわずかに体を離して、心配げにがくぽを見つめる。

きょとりと首を傾げるコイビトに、がくぽは眉を下げ、困ったように笑ってみせた。

「………スキンを、持っていない。今日はそこまで、その、するつもりじゃなかったから………」

「すきん」

きょとんとしたまま、異様に舌足らずにくり返されて、がくぽは微妙にカイトから目線を逸らした。

この口調は、わかっていない。

ジェネレーションギャップなのか、それとも――と考え出すと、悩ましいことこのうえなくなる。ほとんど被害妄想のレベルだ。

それというのもこれというのも、あまりにもカイトが、普段から無邪気過ぎるせいだ。

「………あー。ゴム。つまり……」

「あ。ああっ、うんうんうんっ!!」

どう説明したものかと天を仰いだがくぽの様子に、さすがに状況から、カイトもものを察してくれた。

一般に、男性用避妊具と言われる――

もちろん、用途は避妊に限らない。性病予防の観点からも、装着しての行為が望ましい。

カイトは男なので避妊の必要はないし、不特定多数との交渉を持つこともないから、病気に罹る確率も低い。

そうであっても、がくぽは出来るだけ付けるようにしていた。

体内に他人の体液を注がれることで、発熱したり腹を壊したりすることもあると聞いているからだ。

個人差はあるようだし、事後にすぐ始末すればいいとはいうが、本人の体調との兼ね合いもあるだろう。

確実でないなら、安全策を取る。

カイトは性欲処理の相手ではなく、愛おしみ大切にしたい相手だ。欲望に負けてしまうにしても、負け方は選びたい。

あとはもう一点、実用レベルの話がある。

がくぽにとっては微妙に窮屈でも、未だ馴染まず狭くきついカイトの中では、ないよりはあるほうが、動きが断然スムースになる。肌同士の摩擦力が減るからだ。

つまりは、双方が等しく快楽を得るために欠かせない小道具。

「………ないの?」

「ああ。だから………」

今日は別のやり方で、と提案しようとしたがくぽに、カイトはこれ以上なくうれしそうに笑った。

「じゃあがくぽせんせの、そのまんまおなかの中、いれるんだぁ………おなかの中にがくぽせんせのせーえき、いっぱい………」

「………っか、い」

ちょっとした衝撃で、がくぽはカイトの上に頽れかけた。

――一度も、いわゆる『ナマ入れ中出し』をしたことがないとは言わない。そういう潔癖さと堪え性がなかったことは、確かに自分の落ち度だ。

だからといって。

「………カイト。もしかして私は、君に一からセーフセックスについて教えたほうが良い……?」

「えなにせんせ、おべんきょなのえっ今?!」

項垂れてつぶやいたがくぽに、カイトはぎょっと瞳を見張る。

もごもごと口を動かすばかりで、上手く言葉にならないがくぽをしばし見つめていたが、そこからなにかしらの余計なことを読み取ったらしい。

一瞬は驚愕に強張った表情が、甘く蕩けた。

「………えっちな、おべんきょ?」

「あああ、もう、君って子は…………!」

「ふゃぁ、んぁあっ?!」

えっち『の』お勉強ではある。意図するところは、まったく違うが。

終わったらきちんと一から教えようと、無意味極まりないことを決意して、がくぽはカイトを抱き締めた。

カイトの無邪気さは、堪え性のないオトナには、酷だ。無慈悲とすら、言い換えられる。

煽られて誘われて、仕様がない。

だというのに、本人にはまったくその意識はないというところが、優秀な拷問吏への適性を窺わせる。これほど愛らしいというのに。

「ん、せんせ、ぃた………ぁん」

骨が軋むほどにきつく抱き締められて、カイトは甘ったるい悲鳴を上げた。甘過ぎて、さらに痛くしろと強請られているような気分にすらなる。

もちろん、そんなことはない。カイトはひたすらにやさしく、甘やかされることが好きだ。

「ちょっと、いい子にね、カイト………?」

「せんせ?」

それでもしばらく軋ませてからカイトを離し、がくぽは体を起こすと、傍の床に放り出していた自分の鞄を軽く漁った。

ハンドクリームを取り出すと、これまでの口淫で十分に解れている場所に、指を滑らせる。

「ぁっ、ひゃんっ」

カイトは可愛らしい悲鳴を上げて、身を竦ませる。動きに合わせて、男を受け入れることを知った窄まりが、きゅっと締まった。

「カイト……」

「ん、へーき、びっくりしただけ………」

窺うようながくぽに笑い、カイトは体を解く。

がくぽは慎重に感触を確かめるようにしながら、もう片手でクリームの蓋を開けて、中身を絞り出す。期待と緊張にひくつく粘膜に、入念に塗りこんだ。

がくぽの本音を言うなら、まだまだたっぷりと、舌とくちびるで舐め回し、愛して蕩かしてやりたい。

それだけでもカイトが受け入れられるようになればこれ以上はないというものだが、まだそこまでの体ではない。

しかも微妙な話をすると、時間の問題もあった。

あまり長丁場にしてしまうと、さすがにカイトの母親が帰って来る時間になる。

なのでそこはおいおいの愉しみとして、今は押し込まれるクリームの感触に悶えるカイトの姿を愉しむ。

男を受け入れるのとはまた違う微妙な異物感に、カイトは総毛立ちながら、幼いしぐさで指を咬んだ。

「っぁ、あ、んんっ、つめ……つめた、せんせ………っ、んっ、や、せんせぇ………っ」

「すぐに馴染む。あったかくなるよ、カイト………」

身を竦ませつつも、カイトは蕩けた悲鳴を上げる。

うっとりと瞳を細めて聴き入りながら、がくぽはクリームの冷たさを補って余りある、熱っぽい声でささやいた。

「君の中が、こんなに熱いんだから………」

「っぁ、んんっ、んっ………っ」

吐息とともにささやいて、がくぽは差し入れた指でぐちゃぐちゃと中を掻き回す。言ったとおり、すでにクリームに冷たさはない。

温くなって粘膜と絡み合い、わずかな指の抜き差しにも、羞恥心を煽る水音を立てる。

「せんせ…………せんせ、ぐちゃぐちゃ、もぉいいのぉ…………っおれ、おれ、へーきだから………っ」

恥ずかしさのあまりにじたじたもがくカイトを易々と押さえこみ、がくぽはわざと音を立てて、指を抜き差しする。

「平気とは、とても思えないんだけどね、カイト………こんなにきつく、私の指に食らいついて、締め付けて………」

「ひゃんっ!!」

からかいながら、がくぽの指がある一角を押す。これまでになく腰を跳ね上げさせ、かん高い悲鳴をこぼして、カイトはいっそうじたじたともがいた。