She Sing A Song

昼間の暑さが夢の如く、みしみしと冷え込む砂漠の夜。

肺を凍らせ、死に至らしめる冷たい空気から少しでも逃れんと、着られるだけのものを着込んで火の傍に座り込み、白く濁る息を吐いて――

差し出された熱い茶の入った椀を虚ろに受け取り、私は今、耳にしたように思ったうたごえを探し、月明かりに宝石の如く光る砂原を見回した。

うたごえ――

ここ以外に火の気もなく、砂原の真ん中で、耳にしようはずもないもの。

昼ならのどが焼かれ、夜なら凍る、何処に在っても無いはずのもの。

しかし、歌い手は存外近くに見つかった。

私たちが天幕を張った、砂に呑まれた街跡の、おそらくは中心部、鐘楼であったろうと思われる、崩れかけの建物の上。

夜の闇にも分かる薄衣が、さやかな風にはためき、今は月色に染まる長い髪の毛が、細いからだにまつわりつく。

腕に竪琴を抱き、うたう声は娘特有の儚いもの――

「シンガーだよ。ずっとうたってる」

茶の鍋を掻き混ぜる壮年の男が、呟くように教えてくれた。

「こころのなかをからっぽにして、なにも考えないために」

私は男から娘へ、視線を移す。

娘はここに隊商の一団が居ることも知らぬ風情で、竪琴をつま弾きながら、細い声でうたう。

ゆるやかに。

けれど、決して止むことはなく。

「あの娘は、この世のいっさいを否定するために、ああしてうたうことのなかに沈んでいるのだよ。だれの声も聞かず、だれの姿も見ず、だれとも言葉を交わすことなく」

娘の声を聞かず、娘の姿を見ず、娘と言葉も交わさぬまま、男は呟く。

私はのどは使わずに。

くちびるだけ、娘に唱和してみた。