「ぁ、あ、も………とけちゃ………っっとけちゃぅよぉお………っ」

寝台に四つん這いとなったカイトは泣きながら、腰を悶えさせて叫ぶ。

泣くのは、苦しいからだ。

気持ち良過ぎて、苦しい。

伴侶がたまさかその気になると、カイトは常に熱に翻弄され、気持ちよさに喘ぎ啼くだけのものにされたが――

しょちぴるり

第4部-第27話

「とけちゃ……っおしり、とけちゃぁ………っ」

「そうですね。とろとろです………すでに溶けているかもしれませんね」

「ゃぁあん………っ」

滾る雄を押しこむがくぽは、崩れる腰をしっかりと支え、しらりと告げる。

そこに押し込まれることには、いい加減馴れたはずだ。今さら未知の感覚だのと、あるはずがない。たとえ付き合いの年数が少なくとも、それは回数の少なさには繋がらない。

だというのに、がくぽが与える感覚は未知も同然で、カイトは馴れることもなく蕩かされる。

調節しない限りは熱を持たない体のはずなのに、熱い。

それこそ、火に炙られた砂糖菓子のように蕩け落ちそうだ。

「も………がくぽ、もぉ………ぉねがぁ………っ」

「お願いですかあなたの願いならなんでも叶えますが、カイト………なにが願いです?」

「っぁあ、いじわる……っ」

詰るカイトの腕が、堪え切れずに折れる。上半身をぺしゃんと布団に埋めて、カイトはぐすりと洟を啜った。

掲げられて揺さぶられる腰が、熱源だ。崩れたことで角度が変わったのか、これ以上などないと思ったはずなのに、また痺れが走る。

「………虐めていると言われるのは、心外です」

「んっ、も………んんんっ、んぅっ」

カイトの詰りはまっとうだったのだが、背後から貫く伴侶は覿面に拗ねた。

彼はカイトをひたすらに愛おしみ、守りたい。

与えるのは痛みではなく、心地よさと蕩けるような快楽だけだ。

拗ねたがくぽは布団に埋まるカイトを抱き上げると膝に乗せ、彼にとっては謂れもない詰りをこぼすくちびるを塞いだ。

「ふ、か……っ、ふかぃ……っ」

「ええ。重みが掛かりますから………気持ちいいですか締めつけて、食いちぎられそうですよ」

「ぁ、あ………っ」

奥深くを抉られるカイトは、惑乱して頭を振る。がくぽは抱えた手でカイトの胸を弄り、じんとした痺れとともに尖る場所をつまんでこねくり回した。

「ゃあ………っ」

「………っふ、ぅ………っ」

一段ときつくなった締めつけに、さすがにがくぽも呻く。それでも手を離すことはなく、真っ平らなそこにつぷりと勃つ、愛らしい突起をぴんと弾いた。

「ひ、ゃん………っっ」

「………っ」

びくんと震えたカイトはそのまま痙攣をくり返し、腹の中のがくぽのこともうねって絞り上げる。

何度目とも知れない極みに達したカイトだが、がくぽは堪えて吐き出さない。

痙攣が治まってぐったりと凭れたカイトは、結合部へと目をやった。すでに暗闇だが、カイトの目には関係ない。見ようと思えばなんでも、つぶさに見える。

がくぽの雄は力を失うことなく、これ以上なくカイトの秘所を押し広げて入っている。

「………っもぉっ」

ぐすんと洟を啜ると、カイトは胸を弄るがくぽの手に手を重ねた。きゅっと掴むと、首を巡らせてがくぽを睨む。

「ちょぉだい………っっおなかのなか、がくぽの………っがくぽのせーえき、おなかのなかに出して………っちゃんとおなかいっぱいに、してよぉ………っ」

「………」

涙目で強請るカイトに、がくぽは軽く瞳を見張った。なし崩しに行為になだれ込んだので、灯心もない。光るたまごには羽織を掛けて厳重に『目隠し』しているし、光源らしい光源はない。

がくぽの目には、カイトの表情も姿もつぶさには見えないが――

「もう少し………あなたが言葉もなくなるほど、蕩けてから」

「ゃあん………っっ!!」

どんな状態だと、カイトは震え上がった。

今でもほとんど、言葉などない。そうでなくとも拙い言葉だが、そのうえに舌も回らず、思考も働かない。

もはやまともに、話も出来ないというのに。

「ぉねが………っぉねがぁ、がくぽ………っちょぉだ………っぁんっ、おなかに………おしりとけちゃうまえにぃ………っちょぉだぁ………っ」

「っつ………ぅ、ふ………っ」

背後から抱えるがくぽは、懸命に腰を揺らめかせるカイトの耳朶に吐息をこぼす。体だけでなく、吐息も熱い。

カイトは性懲りもなく感じて震え、ぼろりと涙をこぼした。

苦しい。

気持ち良過ぎて――がくぽの熱に溶かされる、痛みと紙一重の快楽に。

すでにこころは溶けて、繋がれた。

形があるのはわかるが、体も溶けているとしか思えない。

どこもかしこも熱く、重く甘く痺れて、自由にならない。これ以上の快楽などもはやないと思うのに、がくぽは平然と与える。

罪滅ぼしですからと、嘯きながら。

あなたが私を疑うことが金輪際ないように、身に染ませて差し上げますと。

「もぉ、むりぃ………っ」

「………っふ………っ」

カイトの悲鳴まがいの嬌声とともに、がくぽが呻いた。カイトはひくりと引きつり、次いで大きく仰け反る。

待望のものが、腹に注ぎ込まれる感触。

熱さに、腹の中が灼け爛れるような――溺れるように、幸福だ。

幸福に溺れて苦しくて、くるしくて――

「ぁ、はぁ………っ」

「………っ」

崩れるカイトの体を支えてくれながら、背後のがくぽが舌打ちを堪えたような気がした。

億劫な視線を投げたカイトに、がくぽは渋面で吐き出す。

「堪え性が足らない……私としたことが………」

「………」

十分だと、カイトは呆れて視線を外した。

この一度を受けるまでに、カイトが何度、極みを味わわされたかと思っているのか、この男。

そんなことを言いだしたら、カイトはどうなるのだ。すでに少なくとも、――少なくとも。

「……………………………………いっぱい?」

追い込まれる快楽に記憶が飛んでいるだけでもなく、カイトは広げた手のひらを眺めてつぶやいた。数は苦手なのだ。言葉以上に、数を数えることはむつかしい。

カイトは消沈して、体を倒した。

カイトの望むまま、寝台に体を戻してくれたがくぽは、硬さを失わないものをずるりと抜き出す。

暗闇でも、カイトの視界にはつぶさに見える。

粘液と自分で吹き出したものとに、いやらしく濡れてそそり立つものが。

こくりと、カイトの咽喉が鳴った。

カイトのものとは、違う。神と人間だからという差に因らず、それは『善きもの』であるがくぽのものでありながら、凶器という言葉がふさわしい。

カイトの体をとろとろに蕩けさせ、正体を失くさせてしまう、こわいこわい凶器だ。

「ん………」

「かい………カイト?!」

もそもそと動いたカイトに、なにかを察知したがくぽは腰を引いた。しかし怠く蕩けていたとは思えない素早さでもって、カイトはがくぽの腰にしがみつき、そそり立つものへと顔を寄せる。

「カイト、ま………っ」

「んぷっ」

制止の言葉を聞かず、カイトは濡れるものを口に含んだ。無理やりに咽喉奥まで押し込み、舌を絡めてぬかるみを舐め取りながら、抜き出す。

「んん………っふ、ん、んちゅ……んく、んー………っ」

「………カイト」

吐き出したばかりとは思えない硬度を持ったがくぽの雄からは、少し刺激すればすぐに次が滲む。

カイトは夢中になってしゃぶり、啜って飲みこんだ。

がくぽは軽く天を仰ぐと、強張っていた体から力を抜いた。

カイトは口づけのとき、唾液を与えられるのが好きだ。同じように、口でがくぽのものをしゃぶり、その精を飲みこむことも好きだ。

本来的に食事が必要なく、水すらも口にしないカイトだが――

おなかがすいたからちょぉだいと、愛らしく強請ってはがくぽを含む。

剣の主であり、生涯の伴侶でもある相手にこんなことは言いたくないが、もしかするとカイトは悪食なのかもしれない。

自分の鍋料理を見るたびに幼馴染みがこぼす感想をカイトに抱きながら、がくぽは下半身に埋まる小さな頭をやわらかに撫でた。

「カイト。………出しますよ。飲みますか?」

「ん………っ、のむ………っ」

念のために訊いたがくぽに、口を離さないまま、カイトはくぐもった声で応えた。わかっていても言って欲しくて訊いてしまうから、がくぽは己を嗤う。

カイトが悪食だとしたら、そうしたのはがくぽだ。がくぽの、咎だ――

「………出しますよ」

「んー………っ」

撫でる頭を軽く押さえたがくぽに、カイトは素直に沈み、誘うようにちゅうっと吸う。

今度は理屈をつけて堪えることなく、がくぽはカイトの口の中へと欲望を吐き出した。

「ん……っ、ん、ん………っ」

咽喉を鳴らして、カイトはがくぽの精を飲みこむ。

吹き出すものが止まっても、さらに口をつけて最後までちゅぅっと吸い上げ、ようやく離れた。

「………機嫌は直りましたか?」

「ん……っ」

体を起こしたものの、ぺちゃぺちゃと濡れる指を舐めて名残を惜しむカイトに、がくぽは微笑んで訊く。

淫らがましく、はしたない所作だ。

なによりも、性器から抜き出したものを口に含むなど、本来であればがくぽの好むところではない。

カイトの普段の振る舞いが幼く無邪気であればあるだけ、落差は激しく――

疼く自分が抑えられないから、がくぽは腰を浮かせ、指を舐めるカイトを寝台に転がす。

暗闇に表情はつぶさに見えなくても、南の海を宿した瞳は輝いているような気がした。

無垢な光を宿して煌めき、がくぽを純粋に慕って見上げているような。

見えなくても構わずに微笑みかけ、がくぽはカイトの足を開く。

「さて、今度こそ――あなたがもう、こんなおいたが出来ないほど、蕩けて言葉がなくなるまで、して差し上げます。どうあっても、私というものの忍耐と愛情を、身に染みていただかなければなりませんからね!」

物は言いようだと。

後日、カイトはキヨテルに語り、キヨテルはそうでしょうと空涙を拭き、がくぽは力いっぱい微笑んで、カイトを寝台に連れ戻した。

そんなことを数回くり返し、冬の最初の日にたまごは割れて、待望の子供を生みだし――