時間になったら起こしてやるよ、と約束して、お疲れの相棒をプライヴェート・エリアに放りこんだ。
仕事がとかなんとか愚図るのをキスであやして宥め、あとは不在の管理人を気取らせないように、舞い込む仕事を片端から片づけて。
気がつけば起こすと約束した時間になっていたから、オラトリオはプライヴェート・エリアに向かった。
wake up kiss
大きなベッドに埋まるように横たわるオラクルを見下ろし、ほんの少しだけオラトリオも考える――起こすのがかわいそうだ、と。
実際のところはオラクルの場合、起こさないほうが、かわいそうだ。
オラトリオと違って、眠ることにあまり意義を見出していない。だから、寝ることに抵抗する。
それでも休むことによって、負荷が減ることも確かで――
「………とはいえ、なあ」
眠るオラクルの顔は無邪気で、妙に幼い。
かわいいからずっと眺めていたい子煩悩パパの気持ちが――
「わかったら問題だっつの」
自分の思考に一応のツッコミを入れ、オラトリオはベッドに膝を乗せた。
眠りこむオラクルへ顔を寄せ、頬にくちびるを落とす。
そのままキスは、瞼に、額に、こめかみに。
「起きろ、オラクル」
触れた場所からプログラムへと直接語りかけ、揺さぶる。
出来る限りやさしく、穏やかに。
やわらかに揺らしながら、降らせるキスの雨。
自分にとって、目覚めの瞬間ほどに不快な時間もないから――その不快さを、少しでもやわらげるための、苦肉の策。
オラクルにとって目覚めが不快ではなくても、自分からのキスで起こされるなら、そこから不快に落ちることもあるまい。
そう判断してのキスの雨に、オラクルはわずかにくすぐったそうに眉をひそめた。
「ぅ………ん」
「オラクル」
「ん………」
小さく呻いたくちびるにも、軽く触れるだけのキスを落とす。
震えながら開いた瞼にも、キス。
「……」
オラクルは瞳を眇めると、オラトリオを見つめた。
「おはよーさん…………オラクル?」
「……」
せっかく開いた瞳を、オラクルはまた閉じてしまう。
オラトリオはほんの少しだけ瞳を瞬かせ、眠ってはいなくても瞼を閉じたままのオラクルを眺めた。
それからまた身を倒し、降らせるキス。
「オラクル」
「ん……」
だんだんとキスがいたずらな場所に落ちだして、オラクルは再び瞳を開く。
「オラトリオ……」
「おはよーさん」
再度告げて、オラクルのくちびるに軽く触れる。
キスを受けたオラクルは、手を伸ばすとオラトリオの首に掛けた。
動きを止められて、オラトリオは笑ってオラクルを見つめる。
なにかしら不機嫌そうなオラクルは、笑うオラトリオを睨むように見て、その頬を軽くつねった。
「どうしてぎりぎりの時間なんだ」
「あ?」
それは出来る限り寝かしておいてやろうという、親切心だ。
だいたいにして、予定の時間よりもそんなに早く起きて、どうしようというのだろう。
きょとんとするオラトリオに、オラクルはますます強く頬をつねる。
「痛ぇって」
「こんな起こし方されたら、からだが疼くだろう…………なのに時間ぎりぎりじゃあ、出来ることも出来ない」
「……」
拗ねて吐き出された言葉に、オラトリオは瞬間的に天を仰いだ。
そうか、疼いちゃうのか。
なにやら深いところにその言葉を刻みつけ、オラクルを見下ろす。
「…………どうする?」
訊くと、オラクルはきりっとオラトリオを見た。
「一瞬で済ませる」
「色気がねえ………こともないような、あるような………」
世界一を誇る超演算能力を持つ<ORACLE>であればこそ可能な宣言に、オラトリオはわずかに悩んでから、不貞腐れたままのオラクルを抱きしめた。