おまえの母親を愛していると告げられた。
昔から、亡くなった今でも、ずっと。
想いは変わらず、愛し続けるのは彼女だけなのだと。
He said...-04-
戸惑いはあったし、不思議でもあった。
一樹にとって母親は『母親』で、だれかほかの男が、女性として扱う対象だと思えなかった。
あんなの女じゃない、と思っていたわけではない。美人でやさしくて、自慢の母親だった。
だからうまく言えないが――母親は、『母親』なのだ。
母親を愛している男は、父親だけで。
――それもまた、ずいぶん不自然な話だと、思いはしても、やはり想像力の限界で。
母親は、『母親』。
「美紗緒さんを、愛している」
言った、トオルはどこまでも真剣だった。
嘘かどうかなんて、すぐわかる――それだけの付き合いがあったし、それだけの絆もあった。
戸惑って、不思議で。
けれど、安心もした。
トオルはトオルだ。
自分の欲望の赴くままに、忠実に、いっそ健気なほどにひたすらに。
トオルは信じられる。
捻くれたことを言っても、無茶苦茶なことをやっても、莫迦みたいに本能に素直だから。
だから――
「ひぅっ」
悲鳴を上げて竦み上がる一樹を、トオルはやさしく撫でる。
でもだめだ。
今は、そんなやさしい手の感触ひとつ、辿られる肌の感触ひとつ、すべてが敏感に尖って、痛いほどに痺れている。
「ゃあぅう………っ」
「かわいい声を上げるな」
過ぎる快楽に泣きべそを掻いた一樹に、トオルがどこか呆れたように言う。
「なけなしの理性が切れるだろう」
「ふぁあ………っ、ひぅ………っっ」
言いながら、肌を撫でられて。
理性なんて、とっくに切れているだろうと言いたい。
こんなふうに、自分に触れている時点で。
顔こそ母親似でも、確かに男である自分の体を暴いている時点で、理性など語るもおこがましい。
「とぉる……っ」
泣き声で呼ぶ。
呼ぶけれど、どうして呼んでいるのかはわからない。
やめてほしい、わけではない。
どうかしているけれど――やめてほしくて、呼ぶわけではない。
でも、先へと進みたいわけでもない。
「とぉるぅ………」
「………まったく」
呼び続けると、ため息が応えた。
やさしく撫でていた手が、わずかに力を増して。
「切れたぞ、理性」
「……?」
なんの宣言だろうと疑問符を飛ばす体が、開かれた。
「どこまでかわいらしいんだ、おまえ?」
呆れ果てた、と言わんばかりの、莫迦にしたような口調で、吐き出された言葉は、そちらこそ、呆れ果てるような莫迦っぷりだった。