左手の婚約者:04
「…あきと、気持ちよかった…?」
訊く剛の欲望は、まだ勃ち上がっている。むしろ、成長したようにすら見える。
剛にとっては理不尽な命令ではなく、うれしいご奉仕だったのだとそれでもわかる。
明人は唾液を飲みこむと、詰襟を脱ぎ捨てた。ワイシャツの首元を緩める。
きょとん、と見つめる無防備な剛を、再びベッドに押し倒した。
「あきと」
「いいよね、しても?」
言葉こそ疑問形だったが、明人は有無を言わせずに剛の下半身を探った。無防備に開かれた足の間から、薄い双丘を割って中に入りこむ。
小さな蕾を押すと、剛のくちびるから細い悲鳴が上がった。
「あ、きと」
「ここに、入れても、いいよね」
指を突っ込もうとして、辛うじて思い出した。
そもそもは排泄器であって女性器でなはないここは濡れない。なにか潤滑剤になるものが必要だ。
だが、自分の部屋にそんなものはないし、取りに行く間も惜しい。
剛を傷つけたくはないが、放り出していくのも嫌だ。
「つーくん、なんか、クリーム系持ってない?」
期待もせずに訊いた明人に、剛は訳が分からない顔でしばらく考え。
「ハンドクリーム、で、よかったら…」
「どこ?」
「鞄の、巾着の中…」
身を翻し、明人は床に放り出してあった剛の鞄を拾い上げた。鞄の取っ手に結び付けられた和布の巾着を開くと、数種類の錠剤とともに、小さなハンドクリームが出てきた。
踊りをやっているために、手荒れに気を遣う剛ならではの持ち物だ。
「明人」
どうするの、と不安そうに見つめる剛の目の前で、ハンドクリームをたっぷりと指に乗せる。
閉じかけていた剛の足の間に体を割りこませて開くと、小さな蕾にクリームを塗りこんでいった。
「ひぁっ?!」
冷たいのだろう、剛は竦み上がる。逃げかかった体を引きずり戻し、明人は惜しげもなくクリームを使って狭い蕾を開いていった。固く閉じたそこを揉みほぐすように、丹念にクリームを塗りこみ、指を蠢かす。
沸騰する頭を抱えながら、明人は懸命に剛の中を探った。
知識によれば、確か、あるはずなのだ。気持ちよくなれるポイントが、このどこかに。
神経を尖らせて探っていると、わずかに感触の違う部分を見つけた。しこりのようなそこを押すと、剛が大きく仰け反る。
「んぁあ…ぃやぁ…っ」
びくびくと震えながら、剛は甘い悲鳴を上げた。剛の欲望は萎えていない。
言葉より雄弁に、明人の行為を悦んでいる。
それと悟って、明人はそこを重点的に攻めながら、中をほぐしていった。
たっぷりのクリームで潤っているために、指を抜き差しするたびにじゅぷじゅぷと派手な水音が上がる。
「あきとぉ…」
「いいよね」
つぶやいて、指を抜いた。
明人のつーくんと繋がるのだと、想像しただけで勃ち上がっていた欲望を掴む。ここにも念のためにクリームを塗ると、小さく蠢くそこに宛がった。
「ぁ…」
狭いそこに押しこんでいくと、剛の細い体がしなる。
指よりよほど太いものを入れるのだから、いくらほぐしても、やらないよりましな程度なのだ。
口の中よりよほどきつく締め上げられて、明人は小さく呻いた。追い出そうとする粘膜の動きが、堪らなく気持ちいい。
「あきと、が…はぃって、る…っ」
つらそうにというより、ひどく悦んでいる声で、剛が言った。
細い手が伸びて、明人の体を抱く。ワイシャツ越しに、きゅ、と爪が立てられた。
「あきと、が、おれのなか…に」
「そぉだよ。入れたよ、僕の。つーくんの中に…入っちゃったよ」
熱い声で言われると、ますます追い立てられてしまう。明人は自分も剛を抱きしめて、思うままに激しく腰を動かした。腹の間で、剛のものがこねくり回される、その感触も気持ちいい。
「ぁあ、はぁ、ふぁあんっ」
「つーくん…つーくん…っ」
耳元で、剛が甘く啼く。
明人は小さいころに戻ったように一心に剛の名前を呼び、堪らない気持ちのままに折れそうな首に歯を立てた。
「ひぁ、ぁあうっ」
「…っ」
一際高い声を上げ、剛の欲望が爆ぜた。同時に、奥がぎゅ、と絞まる。搾り上げられるように、明人は中へ精を放っていた。
口でやられたときより余程脱力して、明人は剛の上に身を倒した。甘えるように顔をすり寄せる。
達くと同時に落ちた剛の腕がそろそろと上がって、そんな明人の背中を撫でた。
「…あきと」
掠れた声が、忙しない呼吸の合間に明人の名をつぶやく。咳きこむ音が続いて、それから熱い息が吐き出される。
「すき」
吹きこまれる告白に、明人は小さく震えた。ゆっくりと身を起こす。
剛の瞳が不安そうに、そんな明人を見つめた。
「…きもちい?」
「…んっ」
未だ繋がったままだったそこをゆるりと擦り上げると、剛はひどく大げさに震えた。まだ感覚が尖っているのだろう。
「つーくん…僕とヤって、きもちい?」
「ぁ、んっ、んんっ、ゃ、だめっ」
軽く抜き差しするたびに、剛の口から悲鳴が上がる。縋るものを探すように揺らぐ手を取って、明人はその指先にてろりと舌を這わせた。
「僕が気持ちいいのはね、つーくんだからだよ。大好きなつーくんだから、こんなに気持ちいいの。
つーくんは?気持ちいい?気持ちいいのはなんで?」
「ぁ、んっ、…っあきと、だからっ。だいすきな、あきと、だからっ。だから、きもち、いーのっ」
「うん」
頷き、明人は悶える剛を抱きしめた。
昔は、抱きしめているというよりはしがみついていると言ったほうが近かった。
この人をきちんと抱きくるんでやれるようになりたいと、大きくおおきくなるんだと、それだけを念じて生きてきた。
年の差は埋められなくても、今、こうして腕の中にすっぽりと抱きくるめる。
それは自分が大きくなったばかりではなくて、この人があまりにも華奢なせいもあるのだけれど。
「いじわるして、怒った、つーくん?」
すっかり怒りが解け、訊いた明人は、怒ったと言われたら、傷ついたと言われたら、土下座でもなんでもするつもりだった。
根っから下僕体質と言われても仕方がない。
手酷い扱いにあれほど怒っても、薄情な素振りにどんなに憎しみが募っても、結局は好きの気持ちが勝ってしまうのだ。
今ここに、傍に存在してくれることがすべてで、その間に自分が受けた痛みも悲しみも全部、どうでもいい。
ちょっと考えていたようだった剛は、明人の背に回した手に力をこめた。開かれた足に力を込めて体を締めつけ、明人にしがみつく。
「…俺は、明人に抱いてもらうために帰ってきたんだから…」
「…え?」
密やかに囁かれた言葉に、明人の思考が止まる。ワイシャツ越しに、剛が爪を立てた。
「明人と、セックスできる体になるために、がんばったんだから…っ」
「…」
「…ぁんっ?!ぁ、ぉっきくなった…っ?」
思考が追いつくより先に、体のほうが素直に反応した。
硬くなったのに敏感に反応して、きゅ、と締めつけられて、ますます切なさが増す。
「…うれしいんだ、つーくん?」
耳に吹きこむと、全身でぎゅううと抱きつかれた。
「そう、だよ。
意地悪、されても、こうやって、してくれたら、うれしいんだからっ」
昔に戻ったように高飛車に言われ、明人は笑った。
緩く腰を動かす。
「ぁ、ふ」
「僕もうれしい。つーくんが、僕で悦んでくれて」
「んっ」
「もっと悦ばせてあげるね?」
「ぁ、ああっ」
ほとんど自分本位に動いた一度目を反省し、明人は今度は剛をとことんまで啼かせるために腰を動かしだした。