ハニー・ロージィ
マスターの部屋の扉がうっすらと開いているのを見つけ、がくぽは傍らのカイトを促した。
「カイト殿、マスターは帰っているのではないか?」
「あ、ほんとだ!もう寝ちゃったかな?!」
にらめっこをしていた楽譜から顔を上げたカイトは、小走りでマスターの部屋の前へ行く。
ノックもせずに扉を開き、顔を突っこんだ。
「ま………………っ、ととっ」
声を上げかけて慌てて口を塞いだカイトに、追いついたがくぽは小さく笑った。
仕事から帰って来て、疲れて寝ているマスターを起こすと、もれなくこの家に燦然と輝く『家長』からゲンコツと正座とお説教を食らう。
姉妹に溺愛されるカイトだが、そこは容赦して貰えない。
「寝ていた、っんっ?!」
「しぃいいいいっっ!!」
部屋に顔を突っこんで問いかけようとしたところで、カイトに口を塞がれた。
しばらくその恰好で凝固し、がくぽは口を塞がれたまま、戸惑う瞳をカイトへと向ける。
マスターのベッドにその主は不在で、代わりにメイコが横たわっていた。
それも、マスターの枕をぎゅうっと抱きしめた格好で。
カイトとがくぽが入っても無反応のところを見ると、寝ていると思しいが――
「ここんとこ、年末で忙しくって、マスターとあんまり会えてないでしょ?」
小さな声でのカイトの説明に、がくぽは瞳を細めた。
さも当然とカイトが説明するからには、これは『いつものこと』なのだろう。
――意外にかわいらしい一面が。
思いかけたがくぽに、カイトは生真面目に続けた。
「見たのばれたら、エルボードロップ入れられるよ」
「っっ」
がくぽは慌てて首を引っ込め、さらにカイトを抱き寄せて部屋から出す。
そのうえで、部屋の扉を静かにきっちりと閉めた。
かわいいのかかわいくないのか、わからない。
疲れ果てて肩に懐いたがくぽの頭を、カイトは笑いながら撫でてやった。