「なんだよ、がくぽまで……」
カミナリが怖いのか、とからかおうとしたレンの口が、リンの手に塞がれた。
「むが?」
「しーーーーーっっ!!」
「…」
険しい顔で言われて、レンはわずかにげんなりとする。
春中雷音
兄同士はまさに、今が春だ。冬が長かった反動か元々の性格か、どこでもそこでもべたつく。
そのべたつく兄たちを――より正確を期すなら、甘く蕩けたカイトを――鑑賞することが、最近の姉妹たちの、最大の娯楽だった。
レンはそこまで、突き抜けられない。
男同士で云々というより、おにぃちゃん――レンが『兄』と呼ぶのはカイトだけだ――が、がくぽに取られてしまったような気がして、面白くないのだ。
反抗期を気取っていても、甘えたなレンだ。
たくさんいる姉は決して甘いとはいえないので、甘いおにぃちゃんは貴重な存在なのだ。
「…っ」
「レン?」
拗ねた顔でぷいと横を向いたレンに、リンが首を傾げる。
甘えたのレンだが、怖い姉たちは甘えさせてくれない。
そしてリンには、甘えたくない。
リンはレンのお姫さまだ。レンはリンの王子様だ。
王子様がお姫さまに甘えるなんて、そんなのおかしい。
そう思うから、リンには甘えたくない。甘えない――
「…レン?」
「なんでもねえよ」
そっぽを向いたと思ったら、今度は胸元に顔を擦りつけてきたレンに、リンはきょときょとと首を傾げる。
ねこか犬が甘えるしぐさにも似ている。けれどそんなこと、部屋の外では滅多にやらないのに。
相方がいきなり雷が怖くなったとしたら、それも唐突で不思議だし――
リンは首を傾げながらも、レンの頭を抱くと、よしよしと撫でてやった。
甘えているわけじゃない。
レンは不機嫌に考える。
甘えているわけじゃないんだから、そんな扱いは不本意だ。
不本意、だけど――
「…」
「うふ、くすぐったいよ」
さらに擦りつくと、耳元でリンが笑った。
図らずも、兄二人も同じような体勢を取っていたのだが、リンの胸に埋まったレンの知るところではない。
ぴか、と雷光が目を刺して、リンの鎖骨が陰影もくっきりと浮かび上がった。
なにを考えることもなく、レンは浮き上がる鎖骨に歯を立てた。