まにあるせくす-02-

「え…え、ふぁやっ」

戸惑うカイトの差し出された胸の頂に、がくぽは吸いつく。

「ゃ、やあ………っが、くぽ……がくぽ、そこ、そこ………っんんぅっ」

ねこが水でも飲むような音を立ててしゃぶられ、カイトは瞳を潤ませて震える。背中でまとめられた手をどうにか解くと、がくぽの髪を引っ張った。

「ぁ、や………だめ………っが、くぽ、そこ………だめぇ……っ」

「なにが駄目だ」

「ぁうぅっ」

訊かれながらかじりつかれて、カイトの瞳がさらに潤む。

「カイト。なにが駄目だ?」

「んく……っ」

相変わらず口をつけたまま訊かれ、カイトは首を振った。

「だ……って、あ、頭………わーってなって…おなかが、ぎゅーってなって…………へ、ヘンなる………ひぁっ」

ちゅく、と音を立てて強く吸われ、カイトの瞳から涙がこぼれた。

がくぽは顔を上げると濡れたくちびるを舐め、カイトの下半身へと手をやる。

「……」

「ひ、ふぁっ?!」

そこが形を変えつつあることをきちんと確認し、がくぽはファスナーを下ろした。慌てるカイトの手が押さえるより早く、熱くなりだしているものを取り出す。

「が………がくぽっ」

「触れてみろ」

悲鳴を上げるカイトの手を取ると、がくぽはそこへと導いた。

「ひ、ぁっ、なにっ?!」

「なに……と、言われてもな………」

カイトの上げた悲鳴に、がくぽは軽く肩を落とす。

知識がないのがあまりにもなので薄々そんな気がしていたが、どうも、自分で慰めることすら知らないらしい。

「ここがこうなる意味が、わからぬか?」

「ゃ、あ……なに、なに……?!」

「お主とて男だ。ここに熱が集まる意味を知らぬではないだろう?」

「ゃ、やだ、がくぽ……っ」

がくぽのささやきに、惑乱したカイトはただただ悲鳴を上げる。

逃げようとする手を諸共に掴んで熱くなるものを握らせて、がくぽは軽く扱いた。

「ゃ、あ……っ」

「ここはな、お主が『気持ちいい』と感じると、こうやって熱が集まる。俺がさっき、胸を吸うてやって…」

言いながら、がくぽは再び胸にくちびるを寄せた。つぷんと勃ち上がる突起に、舌を絡めて牙を立てる。

「ひっ」

びくりと震えたカイトが、手の中で熱さと硬さを増す。

「………ほらな。わかるかお主が感じているのは、『気持ちいい』という感覚だ」

「ひ、ぁ……っや、がくぽ……っ」

カイトは涙をこぼして身悶え、がくぽに容赦を乞う。

がくぽは素知らぬ顔で無視すると、カイトの手と諸共に熱を扱き、胸を舐めた。

「ん、ゃ、だめ………がくぽ………っだめぇ………っ」

「ふむ」

それでもしつこくくり返される「だめ」に、がくぽは舌で胸を転がしたまま、わずかに考えた。

カイトの熱を握っていた手を離し、胸を好きなようにしゃぶっていたくちびるも離す。

「ぁ………っ」

唐突に解放されて、カイトは呆然とがくぽを見つめる。がくぽは端然と、カイトを見返した。

「…」

「………ぁ……ぅ……っ」

熱を煽るだけ煽って、放り出された体だ。カイトは顔を歪め、小さく呻いた。

あれほど離してほしかったのに、さっきまでがくぽが触れていた場所のすべてが、じんじんと熱を持って疼く。それは痒いのにも似ているし、痺れているのにも似ている。

「ふ……っ」

胸を濡らす唾液は冷えていくのに、体に集まる熱は一向に冷えない。それどころか、ますます募って苦しい。

離してほしかった――のに。

自分を掴んだままの手が、ゆるりと熱を扱いた。

「ぁ………っがくぽ………っ」

「駄目なのだろう?」

穏やかとすらいえる声で訊かれて、カイトはぐすりと洟を啜った。

ぐすぐすと洟を啜って、結局、白旗を上げる。

「や、さわって………っじんじんして、くるしいよぉ………っもっといっぱい、舐めて咬んでほしいよぉ………っっ」

愚図る声に、がくぽはにっこりと笑った。片手をカイトのものに戻すと、拙く扱く手に添える。

「ぁ、ふぁあっ」

がくぽの手だ、と意識しただけで、そこに集まる熱は激しさを増す。

ぶるりと震えたカイトの胸に、がくぽはくちびるを寄せた。

「気持ちいいか、カイト?」

ころんとした突起を舐めながら訊くと、カイトは泣きながら頷いた。

「ん、ん…………っきもち、い………っきもち、い………っぁあっ」

素直に吐いたご褒美とばかりにきつく握られ、先端に指が割り入れられる。胸を甘噛みされて、カイトは堪えきれずに精を吐き出した。

「ぁ……あ………」

放出の余韻に呆然とするカイトの額に、瞼に、がくぽはキスを落とす。こぼれた涙を啜って、跡を辿って耳朶に口づけた。

「お主が俺の手で悶え、気持ちよいと啼いている様を見るのは、なにより愉しい。どうせ『入れる』なら、そうやって身も心も蕩かしたお主の中に、押しこむのが良い」

「ふぇ……っ」

カイトはびくりと震え、がくぽを見る。

がくぽは微笑んで、カイトの濡れた手を取った。口元へ運ぶと、まとわりつくものをべろりと舐める。

「が、がくぽ………っ」

「お主の体のすべてを、隈なく舐めて辿りたい。どこもかしこもすべてにキスを落として、味わいたい」

「……っ」

カイトが腕の中で、びくりと竦む。がくぽは笑ったまま、怯えたように瞳を見張るカイトを見つめた。

「厭か?」

「ん……っ」

問いに、カイトはくちびるを引き結ぶ。その顔が羞恥と惑乱に歪んで、瞳が逸らされた。

「ぜ、ぜんぶ………舐める、の?」

「ああ」

「ぜんぶ?」

「全部だ」

問いにきっぱり答えながら、がくぽは吐き出したばかりで、しんなりと萎れるものを撫でた。辿ってカイトのスラックスと下着をあっさりと抜き去り、全身を曝け出させる。

羞恥に縮んで体を隠そうとするのを開き、揺れる瞳を覗きこんだ。

「すべて、どこもかしこも。お主の体で、俺の知らぬところがあるのは、赦せぬ」

「……っ」

「俺が愛してやっていない場所があることも、赦せぬ」

「あ、あい……っ」

カイトはくちびるを空転させ、そうでなくても赤かった体を、ますます朱に染めた。

がくぽは微笑んで、カイトの頬にキスを落とす。

「お主のことを愛していると、体の隈なく、すべてに刻むために、触れるのだ。お主がふと思い出したときに、どこもかしこも俺に愛されているのだと、安心するように」

「………っ」

瞳を見開いて、カイトはがくぽを見つめた。微笑み返して、がくぽはカイトの体に手を這わせる。

「ぁ………っ」

「俺が触れて、上げるお主の声は気持ちがいい証だ。気持ちがいいとさえずり啼くお主の声は、これ以上なく俺を悦ばせる」

「へ………ヘン、じゃないなんか、かん高くって………」

カイトは両手で口を覆い、がくぽを窺うように見る。

その手を口から離して、がくぽは晒されたくちびるに軽く口づけた。ちろりと舐めて、顎に咬みつく。

「気持ちよさに体が堪えきれずに上げる悲鳴が、嬌声だ。悲鳴なのだから、かん高くもなる。だが、あくまでも気持ちよさにこぼれる声だ――俺の耳は蕩けるばかりで、おかしいと笑う理由などない」

「………きもち、い……」

カイトは呆然とつぶやき、話している間にも撫でられる体を見る。

さっきほど激しく感覚を追われないが、どこもかしこもじんとした痺れが走る。それが「気持ちいい」のかどうか、正直なところ、よくわからない。

わからない、けれど。

「………がくぽが、俺のこと、アイシテルってことなら…………ぜんぶ、なめても……………いー………かな………?」

覚束ない許諾の言葉に、がくぽは華やかに笑った。