「……ん…………?」
鈍い覚醒の感覚のなか、降り注ぐなにか、やわらかく甘いもの。
くすぐったいような、体の奥がもぞつくような、不思議で熱っぽい感触。
Snowman in the Lover's arms-01-
一度ぎゅっと強く瞼を閉じてから、がくぽはそっと瞳を開いた。
「…………カイ……」
「ん……」
「…………」
「ん」
まだ夜中で、しかも馴染んだ家の中でないことは、空気感ですぐにわかった。そもそも家の中に、常夜灯を灯すような部屋はない。
どこだ、と瞬間的に考えてから、思い出した。
悪天候の影響で交通機関が止まり、帰れなくなったカイトを求めて、猛吹雪の中の強行軍の末に、ホテルまで辿りついた。
そして無事に再会し、泊まる部屋に行ってシャワーを浴びて人心地をつけ、ようやく数日ぶりに恋人を抱きしめたところで、――寝落ちた。
聖夜だ。
外国においてはどうでも、日本においての聖夜とは、恋人同士の甘い語らいのためのものと決まっている。
その聖夜に、とりあえず恋人の顔を見て、抱きしめて、寝落ちた――
長い片恋の末に、ようやく手に入れた愛しい相手だ。
そのひととの、恋人として迎える、初めての聖夜に。
まさかの寝落ち。
自分の不甲斐なさに落涙しかけたがくぽのくちびるに、その愛しい恋人のくちびるが触れた。
「ん…………んん」
「ん、ふ…………っカイ、ん」
「んん」
すぐさま舌が差し入れられて、がくぽの口の中を焦れったく舐める。少しばかり遠慮気味に、けれど堪えきれない熱を伝えて。
「カイト」
「ん…………だって……」
寝起きにいいパンチ具合の衝撃に、がくぽは抱きしめていた体からわずかに顔を離した。
覗きこむと、常夜灯の仄明かりの中にも隠し切れない熱情をこめて、見返される。
「がくぽだーって、思ったら…………がまん、できなくなっちゃった……」
「っ」
欲にもつれる舌で、言葉はとろりと甘く吐き出される。
瞳を見開くがくぽに、カイトは仄かな羞恥を見せて顔を伏せた。
「だって……ここ数日、直接会ってなかったし…………その前だって、イベント前に体力落としたらだめだからって、あんまりさわってなくって……」
「…………」
去年のクリスマスを経て、がくぽは痛烈に学習していた。
クリスマス前に、「恋人の語らい」は厳禁だ。そこで溜まる欲求不満のストレス値もなにもかも、パワーに変えなければ、クリスマスは乗り切れない。
それだけハードに仕事を詰め込まれるのが、この家における「クリスマス」なのだ。
ましてやクリスマスの最後に、わずかでも恋人同士の時間を取ってもらえた今年は、決して倒れられないと――
軽いキスとハグだけで、ここ一週間。
恋人になってからというもの、そんな軽い触れ合いだけで一週間を過ごしたことなどない。
いいフラストレーション具合だった。二年目にもなるとやっぱり、パワーが違うね、とスタッフに感心されるほどに。
すべてがすべて、単なる欲求不満だったのだが。
凝視するがくぽを、カイトは熱っぽく潤む瞳で見返す。
「も、ね……がくぽのにおいとか、感触とか…………抱きしめられてることとか、全部ぜんぶ……」
「…………」
すり、と擦り寄せられる体は、カイトが言葉以上に熱を持っていることを雄弁に表している。
思わず手を伸ばし、がくぽは熱を吐きこぼすカイトのくちびるを撫でた。
「ん」
ぴくんと震えてから、カイトは教えたとおり、くちびるを開いて指を咥えこむ。舌で絡めて中に招いて、ねこがじゃれるように、軽く牙を立てた。
「ん…………と、ね、…………がくぽ」
「ああ」
咥えられる指が感じる熱とやわらかさに瞳を細めたがくぽに、カイトはとろりと舌を出す。
口の中から指を押し出すと、その手を取って指先に口づけた。
「おれ、ね…………も、…………」
「っ」
ささやきながら、カイトは取った手を自分の体に這わせて下へと招く。手は躊躇いもなくがくぽの手を誘って、ズボンの中へ。
軽く強張ったがくぽの指を、カイトは強引に自分の中へと呑みこませた。
「……っからだ、うずうずして、がくぽが、ほしい……よぉ…………っ」
「カイ…………っ」
「んんっ」
言葉にならず、がくぽはカイトに伸し掛かるとくちびるを塞いだ。招き入れられた指はそのまま、蕩けてひくつく場所を探る。
「ふ、んん…………ぁ、ぁあ、んんっ」
数日ぶりでも、カイトのそこは熱く蕩けてがくぽの指を呑みこんでいる。
くちびるは触れ合わせたまま舌だけ抜いて、がくぽは潤むカイトをつくづくと眺めた。
「……触りもよらぬうちから、こうまで蕩かせるとは…………いったいいつから、こうなっていた?」
「ふぁ、んんん……っ」
中を探る指を増やし、がくぽはカイトのくちびるを舐める。そのまま辿って、赤くはなってもまだ冷たい耳朶を口に含んだ。
「ぁ、あ……がくっ…………ふ、ぁあっ」
「とろとろだぞ、カイト。これ以上、前戯も要らぬほどだ。すぐさま押し込んでやろうか…………」
「ふぁあっ」
熱っぽくささやきながら、がくぽは執拗にカイトの中を探る。
カイトはきゅ、と太ももを締めて、間に挟まるがくぽの腕を押さえ込んだ。
「カイト」
「ん、ん…………すぐ、すぐ……ほしーよぉ…………がくぽの、はやくいれて、おなか、かきまわしてほしーよぉ…………っ」
「…………ふ」
堪えきれず、がくぽは淫蕩な笑みで表情を崩した。
それこそ、同居している家族から苦情が上がるほどの頻度で、情を交わしている二人だ。
しかしそうまでしていても、カイトはいつまで経っても行為に慣れない風情で、たどたどしく、教師の顔を窺う生徒のように、そっとがくぽに触れて求める。
それが、こうまであからさまに、淫らがましく――
この一週間の禁欲が報われて、余りある。
どう味わおうかと、がくぽはくちびるを舐めながら考えた。
が、今日はその少しの間も、カイトにとっては堪えられなかったらしい。
「がくぽ…………っ」
「っと?」
切ない声を上げると、カイトはがくぽの体を跳ね飛ばした。自分と入れ替えてベッドに転がし、その腰に跨る。
「じらしたら、いや…………っ」
「…………ふぅん?」
「からだ、あっつくって、ヘンになりそーなのに…………っ」
「…………」
実際、疼きは苦しいほどなのだろう。表情は熱に蕩けて甘いが、そこには歪みも見える。
「ん……んん…………」
「……ふ」
がくぽの体に倒れこんできたカイトは、そのままローブを肌蹴ると、あらわにした胸に口づけた。ぬめる舌が肌を辿り、吸いついて咬み痕を残す。
興奮に震える手がくちびるとともにがくぽの肌を撫で、じれったさを訴えて爪を立てた。
「……」
「ん、ぁ…………っは、ぁぅっ」
カイトのしたいようにさせていたがくぽは、ちろりとくちびるを舐めると、ひっくり返された衝撃で抜けた指を再び、熱く蕩ける場所に差しこんだ。
びくりと震えたカイトに構わず、中を探る。
「が……がく…………っ、ほし…………ね、ぁ…………もぉ……」
「ふ……」
かりり、と胸に爪を立てて強請られ、がくぽは堪えきれずに笑う。
腹に押しつけられているカイトのものも十分に熱を持っているし、指を呑みこんだ場所は蕩けてうねり、今か今かとがくぽを待ち望んでいる。
言葉だけでなく、全身で待ち切れないと訴えられて、しかしがくぽは己を急き立てることはしなかった。
ちろりとくちびるを舐めるとわずかに体を起こして、十分に熱を持ったカイトの耳朶に口づける。
「そう急くな……思う存分に堪能したい」
「ふぇ…………っ」
笑いながらのささやきに、カイトはひくりと引きつって、がくぽの肌に爪を立てた。
潤む瞳で恨みがましくがくぽを見つめ、下半身へと手を伸ばす。余裕そうな顔をしていても、きちんと熱を持って勃ち上がっているがくぽのものを、やんわりと掴んだ。
「ふ……っ」
きゅ、と手に力を入れたうえで先端を撫でられ、がくぽはびくりと竦んだ。
そのがくぽを見つめ、カイトはくすんと鼻を鳴らす。
「いじわるぅ…………っ」
「……」
詰られて、がくぽはこくりと咽喉を鳴らした。
こんな詰りならば、ずっとずっと聞いていたい。
耳もこころも蕩けて、もっと責められたくなる。
その欲望のまま、がくぽは焦らすようにカイトの後ろだけを指で解きほぐした。
「ぁ…………っも…………ぉっ」
「……っ」
じれったさのあまりに直接がくぽの熱を高めていたカイトは、我慢の緒が切れて小さく叫んだ。
体を起こすと、下半身をずらす。
カイトの手に応えて、がくぽのものは十分な熱と質量を持っている。
それでも、カイトを蕩かすためならいくらでも堪えてみせるから、困るのだ。
「カイト」
「いじわる…しないで……」
「……っ」
体をずらしてがくぽの指を抜いたカイトは、そのまま、腰を浮かせる。手に持ったがくぽのものを、自分からひくつく場所に宛がった。
それでも呑みこませる前に、ちらりとがくぽへ視線を流す。
がくぽの瞳が痛いほどにそこを凝視しているのを確認すると、カイトのくちびるはわずかに綻んだ。
手に余るがくぽのものをさらに撫でて、びくりと跳ねたのを少しずつ腰を落とすことで、呑みこんでいく。
「ん…………っ、んふぁ……ぁ…………う」
「ふ…………っ」
がくぽは手を伸ばし、震えるカイトの腰に添えた。呑みこんでいくものの質量に崩れかける体を支え、奥まで押しこむ。
「ぁ…………ふ…………っ……ふぁあ……ぁ………はい……った…ぁ…………」
「ああ」
「ん………がくぽの…………おなか……………いっぱい…………」
ぶるりと震えたカイトは、精を吐き出さないまでも、軽い絶頂状態らしい。がくぽのものを熱くやわらかく受け入れた場所が、ひくついてうねり、絞り上げるように動く。
すぐにも腰を突き上げたいのを堪えて、がくぽはカイトの足を撫でた。
「まだ早いぞ、カイト。『腹いっぱい』には、これからするのだから」