女妓初め-02-

「まあ、そこは深く考えるな」

「そーだけど………ん…っ」

複雑そうなカイトのくちびるに、がくぽはくちびるを落とす。触れると、口を開いて迎えるように教えた。

去年一年――まるまる一年ではないにしても――かけて、この無知なコイビトに、小さなことから大きなことまで、ひとつひとつ教えてきた。

とはいえがくぽがやらせたくないこともあるから、すべてのことを教えたわけでもない。

だからカイトが知っていて、出来ることは、ある意味がくぽが好むことばかりだとも言える。

知っていること出来ることもそうだし、触れたときの応じ方から、身の動きまで。

がくぽが一から教えて仕込んだ、がくぽ色の恋人。

がくぽ色に染まりながら――

「んん……ふっ」

「ああ、ほら……舌を逃がすな。出せ」

「ん、ぅ……っ」

あまりに経験がなく、そのうえ恥じらいがちな性格だから、教えたといってもまだ、きちんと飲み込めていないところも多い。

そうやって出てくる未熟なところや、覚束ないところまでも含めて、触れれば触れるだけ愛おしさが募る。

がくぽに染められたことで、新たに浮かび上がるカイトの色。

がくぽの色だけに染まるのではなく、新たに染め替えて目を醒ますような、カイトの色――

「カイト」

「ん……」

「愛している」

「……っっ」

思わずこぼすと、蕩けかけていたカイトはぱっちりと瞳を見開き、真っ赤に染まった。

顔のみならず首からうなじから、そしておそらく未だにパジャマに隠れた肌のすべてまで。

「……お主が、愛おしい」

「ぅ………っ?!え、ぁ、あ……っえと、がくぽっ?!」

古風な侍気質のがくぽだが、普段から積極的に、カイトに愛をささやく。

愛していると言うのもあまり躊躇わないし、カイトにしてもそうだ。

大好き、と常に言う。

気持ちは伝えるようにしなければ、と心がけているわけではなく、ふとした瞬間に、口をついて出てしまうから仕方がない。

そのせいで家族からは、「朝のアイサツは『おはよー』だよ、おにぃちゃんたち」などとツッコまれているが、それはそれ。

わかっていても、相手を見た瞬間に口をついて出るのだ。

だから、今さら愛をつぶやかれたところで、そうまで恥らうでもない。

はずだが、つぶやくがくぽの瞳が宿す、いつになく真摯な光と込められた想いに、カイトは真っ赤に染まって、緊張のドツボに叩き落された。

そうでなくても日々、男前だと見惚れている相手なのに、こうしてさらにときめき度が上がっているときに、そんな真摯な告白。

「ぁ、う……っがく、が……んんぅっ」

自分も言わなきゃ、と焦るカイトが言葉にする前に、がくぽはさっさと行為の続きに戻ってしまう。

ぷちぷちと淀みなく、器用にボタンが外されて、過剰に赤く染まった肌が曝け出される。

その中でも一際赤く染まる飾りを指でつままれて、カイトは腰を跳ね上げた。

「ゃっ!!」

叫ぶと、慌てて体を反し、がくぽの下から出ようともがく。

「こら、カイト」

しかし逃してくれる相手でもなく、肩を掴まれてあっさりと体の下に戻されてしまった。

「ゃ、やだ……やだやだやだっ」

「なにが厭だ。こら、暴れるな……カイト!」

「やだぁ……っ」

カイトは肌蹴られたパジャマを掻き合わせ、必死になって体を隠す。耳まで真っ赤に染まっているのはともかく、逸らした瞳には涙が溜まっている。

ここ最近になく抵抗され、がくぽは困り果てて、体の下の恋人を見た。

急に、がくぽのことが嫌になった、というのではないだろう。――ないといい。

とにかく、なにかしらのことがあって、急激に恥ずかしさが募ったのだろうとは予測がつく。つくがしかし、往生する。

ここまで嫌がるものを無理強いするのも気が引けるが、がくぽの体はすでに火が点いている。止まれと言われても、ブレーキは壊れかけしかない。

「………カイト」

「ふ、ぁ、……っひぁっ」

仕方がないので、がくぽはすでに熱くなっている自分を、カイトの太ももに擦りつけた。

まだ布地越しだが、何度も触れ合った熱だ。その意味も本来の感触も十分に想起させるはずで、ついでに甘えモードに入ってしまえば、そうそうカイトに拒めもしない。

甘えるのも大好きだが、おにぃちゃんらしく、甘やかすのも大好きなのがカイト、がくぽの恋人だ。

甘えると、大抵の無理が通る。

そうやって、ずいぶんと無理を通してきたが、甘えられるのがうれしいと、カイトが嫌がる素振りもない――から余計、がくぽに歯止めがかからない。

ここらへんの悪循環はおいおい考えるとして、今は今だ。

がくぽはカイトの太ももに熱と硬さを持ったものを擦りつけ、殊更に蕩けた甘え声で、途中で止まれない自分を主張した。

「カイト………どうしても、厭か……?」

「ぅ、ひ…、ぁ、や……や、だめ、だめ………だめ、がくぽ……っがく、ひっ」

「………」

意味不明な拒絶が続き、次の方策を考えるべきかとがくぽが眉をひそめたところで、体の下のカイトがひとつ跳ね、がくがくと痙攣をくり返した。

「ぁ………は、はぅ……ふ、ぅ……」

「………」

しばらく凝然と、喘ぐカイトを見下ろしていたがくぽだが、ややしてそっと片手を移動させた。気づかれないように運んで、カイトの腰に触れる。

ぴくりと跳ねたところで一息にズボンを下ろし、逃げる間を与えずにそこに手をやった。

「ゃぁあ………っ」

「………………………………………イったか………………」

「ぅ、ひぅう……っ」

呆然としたままつぶやいたがくぽの言葉に、濡れそぼる性器を掴まれたカイトは身を竦める。

触れられもせず、全体に大した愛撫を受けたわけでもないのに、ひとりで勝手に極まってしまった。

恥ずかしいし申し訳ないし、いたたまれないことこのうえない。

「ぅ、ふぇ……ぅぇえ、ぐすっ」

「ああ、よしよし………泣くな、泣くな…………大丈夫だ、怒りも呆れもせん。だから泣くな………」

泣かれるほうが、よほど堪える。

いたたまれなさの余りに泣き出してしまったカイトの頭を撫で、額にキスを落として、がくぽは弱りきった声で宥めた。

カイトはしゃくり上げながら、伸し掛かりつつあやしてくれるがくぽの体に腕を回し、しがみつく。

「か、からだ……からだ、ね………からだ、ヘンなの………ちょ、ちょっとがくぽがさわっただけで、びりびりーって………でんき走ったみたいに、びりびりーって………………っ」

「ああ、よしよし………………」

「ぅ、ぇえ、おれ、おれ………なんで、こんな………こんな、えっちなの、ゃだぁ……………っ」

「………………」

惑乱したあまりのひどく幼い口調で、カイトは愚図る。

宥めつつ、がくぽはそっと、一度は離した下半身をカイトへと押しつけた。

ぴくりと跳ねて口を噤んだカイトを正視するのは辛かったが、目を逸らしていると、慰めのための方便を言われたと思われる。

カイトほどではないが、一応は恥じらいの持ち合わせもあるがくぽは、気まずい顔で可哀想な泣き顔と対した。

「………………………俺は、お主が………、えっち、で………………一向に構わんが」

「………………………」

ぐり、と押しつけられる場所は、がくぽがまったく萎えていないことを教えている。

いや、萎えていないどころか、さらに猛ったことを。

口を噤んだのみならず、わずかに身を引いたカイトの無意識の動きに気がつきつつ、がくぽは知らぬふりで下半身を押しつけた。

「いつも言っているが、お主が……えっち、なのは、俺に対してだけであろう俺に触れられると、いつになく………………ああその、えっち、になってしまうのは、俺にとってはむしろ、うれしいだけだ」

「………」

ぐすす、と、カイトは盛大に洟を啜った。

啜って、無意識で逃げた体を、がくぽへと戻す。

ぎゅっとしがみついて、押しつけられるがくぽの下半身にも、自分から足を擦りつけた。

「ん………………っ」

自分でした行為でも、肌が尖っているのは未だになのだろう。

ぶるりと震えてから、がくぽの手に掴まれたまま、また熱を持ち出している場所を訴えるように、揺らした。

「えっち、でも、いい?」

「いや」

訊かれて、がくぽは真顔で首を横に振った。

潤んで見つめるカイトをしっかりと見返し、言い切る。

「えっちが、いい」

「………………」

カイトはわずかにくちびるを尖らせ、拗ねたような瞳になった。

わかっている。一見、拗ねたようでも、これはカイトの恥じらいの表情だ。それもこと、『えっち』なものに関してのときのみ見せる。

つまりこれは、がくぽだけがもっとも見る表情で、がくぽだけに見せる表情でもある。

「………………カイト」

見惚れて、がくぽのくちびるはぽつりと言葉をこぼした。

「愛している」

「ぅ………………っ」

ささやきに、カイトは再び真っ赤に染まり、さらに拗ねた顔になった。

なって、一度がくぽから顔を逸らし、それから戻ると、ぎゅうっとしがみつく。

首を絞めるようにがくぽを引き寄せると、覗く耳朶にくちびるを押しつけた。

「きょぉは、『アイシテル』禁止」

「っなに?」

くすぐられて背筋を震わせつつ、がくぽは瞳を見開く。

不可解過ぎる禁止条項に反駁しようとしたが、それより先に、カイトのくちびるにくちびるを塞がれていた。