ぐちゅりと音を立てて、太く硬いものを飲みこんだ場所がうねる。
「ん、だって………………」
女妓初め-03-
その後も散々に、いやだやめてだめの攻防をくり返し、それでもどうにかこうにか後ろにがくぽを呑みこんで、ようやくカイトは落ち着きを取り戻した。
逆説的な話だと思う。落ち着かれても、とは思わないでもないが、大人しく快楽を追うようになってくれれば、安堵も覚える。
いやだやめてだめが、感じ過ぎるあまりの恥じらいから出ている言葉だとわかってはいても、行為を強要しているのに変わりはない。
しかも何度も、逃げようとした。
家族から苦情が上がるほどの頻度で体を重ね、しつこく快楽というものを教えたが、カイトは未だに馴染みきらない。
『いつもどおり』の快楽には、どうにか応じられるようになってきたが、ちょっとでも過ぎるとすぐに、こわいと怯えが勝る。
いくらロイドでプログラムの身とはいえ、うたうたうものであるボーカロイドの感情は豊かで、肉体の感度もいい。
感情に引きずられるのが体というものだし、そうそういつもいつも変化のない快楽を与えることも、無理だ。
その日の気分によっては、『落ち着いたセックス』という、矛盾に満ちてはいても、そうとしか表現できないものになることもある。
反対に、激しすぎて意識を失うようなものになることも。
たまにカイトも激するようになったが、ほとんどの場合、好むのは『落ち着いたセックス』だ。
相手であるがくぽがお盛んで、ついつい内容が激しくなるが、本来的に好むのはあまり激することのない、穏やかなものなのだ。
「………………がくぽが、『アイシテル』って、言ったでしょ………………?そしたら、からだ、ヘンになって………………」
「…………ふぅん?」
中に入ったものは冷静さの欠片もない興奮を伝えていたが、がくぽの動きはあくまで緩やかでやさしく、惑乱して疲れきったカイトを慰めるようでもあった。
ここまで来たことで逆説的に落ち着いたカイトは、押しこまれた場所が伝える切ない疼きに震えながらも、拒むことなくがくぽにしがみつく。
「ぁ、ん…………っ」
「普段の言葉が足らぬか?もっと頻繁に言えば………」
「んん………っ」
ねっとりと掻き回されて、カイトは軽く仰け反る。がくぽの腰を挟む腿に力をこめて、当座の答えに変えた。
「………………いっつも、ちゃんといっぱい、言ってもらってるもん………………俺ちゃんと、がくぽが俺のこと『アイシテル』の、ミミタコなんだよ………」
舌足らずな言葉に、納得がいかないがくぽは眉をひそめる。
動きを阻害する足を掴んで軽く開くと、また緩やかに掻き混ぜる動きに戻った。
「だが………………」
「だから、………………ん、俺のからだが、きょぉは、ヘンなの………………ん、ゃ………そこ、ごりごり、だめ………っ」
「………………」
「ぁんん………っ、ごりごり、め、ったらぁ………………」
カイトはだめだと言うが、与えられている感覚は『いつもどおり』なのだろう。先までの拒絶とは比べものにならない、どちらかといえば相手を煽るための甘ったれた拒絶だ。
濡れて詰るくちびるにくちびるを落として唾液を吸ってから、がくぽはわずかに考え、カイトの足を掴み直した。
「カイト」
「ん………?」
「愛している」
「っっ」
「…っ」
ささやいた瞬間に、穏やかな律動にぬかるんでいた場所が、きゅううっと激しく収斂した。
がくぽは咄嗟にくちびるを噛んで堪えたものの、危うく持っていかれるところだった。
衝動が去るのを待って、がくぽはわざとらしくしらっとした声をつくり、頷いた。
「確かに」
「た、たしかに、じゃ、ないもんんんっ!だ、だめって、禁止って、言ったのにっ!」
涙声になったカイトが、掴まれた足をばたつかせて抗議する。
そうされても揺らぐことはないのが、がくぽとカイトの力の差だ。
がくぽはカイトの足を掴み直して抑えこみ、身を屈ませて耳朶にくちびるをつけた。
「そうは言うが、俺はお主に愛をささやきたい。それこそ、溺れるほどに」
「きょ、きょぉだけっ!きょぉだけ、だから……っ」
耳朶をくすぐりながらささやかれ、その内容の不穏さにも慌てて、カイトは暴れる。
伸し掛かって完全に抑えこみ、がくぽはさらに腰を押しこんだ。
「ぁぅうっ」
「つれないことを言うな、カイト」
殊更に低く甘くささやき、がくぽはカイトの腰にぐいぐいと己を押しこんでいった。滅多になく深いところまで繋がったところで、吹きこむ。
「今日だからこそ、余計に言いたいのだろう――愛していると」
「んっ、ゃぁあっ………………っ」
「………………」
がくぽを押し包む場所が、激しく収斂し、うねり、蠢いて締め上げる。
気づかれないように歯を食いしばって衝動に耐え、なんとか動きが治まったところで、がくぽはぼそりとつぶやいた。
「イったな」
「ひぅううぅう~っっ」
「………………………よしよし、泣くな。最中に泣かれると、ますます虐めたくなる」
「ふぇええ………………っっ」
退路もなく活路も見出せない形で道を塞がれ、カイトはがくぽを締め上げて愚図り、洟を啜った。
「いじわるぅ………っ」
「だから、そう煽るなというのに………」
言いながら、がくぽは身を起こし、力を失ったカイトの足を抱え上げた。
腹の上にしどけなく垂れるものは、白濁した液体に濡れそぼって、カイトがまた、刺激もよらずに達してしまったと示している。
ちろりとくちびるを舐めて過ぎる激情を堪えると、がくぽは穏やかさを捨ててカイトへと己を打ちこんだ。
「ぁっ、ぁああっ、ゃ、も、………………っイったばっか………っめ、だめ、ぁ、がく………っがくぽっ、おれ、イったばっか………っっ」
「ああ、いい具合だ」
「ゃぁあ、ちがぅうっ」
悲鳴のような声を上げるカイトだが、ある意味これは『いつものこと』だ。
未だに猟奇さを失わないコイビトは、忍耐に忍耐を重ね、カイトをさんざんに啼かせて喘がせ、達したあとでないと、己の快楽を追求しない。
カイトがそうやって身も世もなく悶える姿が、なによりの自分の快楽だ、とは言う。
しかし大体いつもがそういう形なので、カイトは達したあとの敏感に尖った体を責められることが、『普通のこと』になりつつあった。
快楽が過ぎて、本来ならば嫌だが、『いつものこと』だ。
そうとなると、慣れも出てくる。拒絶にも、それほど力はない。
「ぁ、も、がく………がくぽっ………………イって………ぉねが、イって………………ぉなかのなか、出して……ね、ぉねが………っ」
「欲しいか?」
腹の中にあるものは、最高潮に興奮していると隠しようもなく告げているのに、問う声はあまりに落ち着いている。
カイトは洟を啜り、声と同じように冷静さを宿す相手の瞳を睨みつけた。
「ほしー………………もんっ…………がくぽ、ぉなかのなか………………出して、いっぱいに、して………」
「………………」
「ぁ、………っそーやって、ぐちゃぐちゃになった、ぉなか………………また、かきまわして、………ずっと、ずっと………」
強いた『おねだり』を愉しそうに見ていたがくぽの顔が、徐々に歪む。
堪えきれない欲情に染まって、ご馳走を前にした獣のような瞳でカイトを見つめた。
激しく突き上げられて揺れながら、カイトはそんな恋人の変化をつぶさに眺め、くちびるを綻ばせる。
ようやく、一矢報いた。
そんな場合ではないが安堵がこみ上げて、カイトは微笑んでがくぽへと手を伸ばした。
「がくぽ、だいすき………………っ」
「っっ」
意識することなく、素直な心情の吐露としてこぼれた言葉に、がくぽは呻いた。
押しこまれた腹の奥、飛沫が散って灼かれる感触がする。
満たされていく腹に心まで満たされて、カイトもまた、立て続けに極めた。