ぱたた、と軽い足取りで廊下を歩いていたリンは、リビングの扉の前を見て、ちょこんと首を傾げた。
「ミク姉?なにしてるの?」
「うん」
「…………」
かみかみじごじご
リビングの扉の前にはミクがいて、なぜか正座していた。
これが、リビングに背を向けているというなら、まだわかる。悪さをして正座で反省の刑だ。
だがミクは、リビングのほうを向いて正座していた。
覗き――にしては、悄然と項垂れて、力ない。
口を噤んだリンは、そっとミクに近づいた。
案の定、わずかに開いていた扉の隙間から、リビングの中を覗き込む。
きゃっきゃうふふの天国。
「…………」
「…………」
リンはミクの隣に腰を下ろすと、やはり正座となった。
そして沈黙しばらく。
「リン、遅い…………。ミク姉?リンも。…………二人してなにやってんだよ」
ちょっと行って来ると言って、部屋を出たリンがなかなか戻らないと探しに来たレンは、リビングの前廊下を見て、きょとんと瞳を見張った。
姉妹二人で反省正座――は、よくあることとはいえ。
方向がおかしい。リビング外向きではなく、内向き。
「…………」
レンはそっと足音を忍ばせて、リビングの前に行った。
案の定、うっすら開いていた扉の隙間から、中を覗き込む。
きゃっきゃうふふの乱。
「……………」
「……………」
「……………」
どっぷりと沈黙に浸かりきったレンは、リンを通り過ぎてミクの隣に座った。
ミクを挟んでリンとレンが並び、きちんと正座した年少組三人は、そろって項垂れた。
「仲がいーのはね。いーことだよね。アイシアッテルってことだよね」
「いーことなんだけど、リビングでオトナ四人がくんずほぐれつって、ナニがあったのかなー………」
「リビングなんだよな。家族がふっつーに集まる場所だよな。そこで昼間からオトナ四人で」
ぼそぼそもそもそと力なく言い合い、三人は頭を寄せ合うと、隙間からリビングを覗き込んだ。
兄二人が人目を忘れて、いちゃいちゃきゃっきゃしてしまうのはいつものこととして、どうしてそこに、マスターとメイコまで混ざっているのだろう。
いや、混ざっているといっても、四人でナニをしているわけではなく、カイトとがくぽ、マスターとメイコと、別々だ。
別々だが、同じリビング。
そこで、――
「「「乱交のあるご家庭…………」」」
姉妹と弟の意見は頻繁に食い違うが、今回はぴったり合った。うれしくない。
突き合わせていた頭を離すと、三人はきゃっきゃうふふなオトナの楽園と化したリビングの前で、しばらく正座で項垂れていた。