法を遵守し、規制し取り締まる側でありながら、今にも下着が覗きそうな丈の、ぴったりしたスカート。
しかもさらに脇スリットまで入って、太ももで留められたガーターは完全に見えていた。
お色気犯罪で摘発ものの『婦警』さんは、腰から警棒を抜くと、微妙な太さと形状のそれの先っぽに、ちゅっとミダラかわいくキス。
くるんと回すと、畳に正座するがくぽにびしっと突きつけた。
「よぉぎしゃ:がくぽせんせー☆じょしこーせーとナースさんへのインコー罪で、タイホしちゃいます♪」
Under Arrest
「ふっ」
がくぽは正座をしたまま、完全にナナメを向いて笑った。
それも一瞬ですぐに真顔に戻ると、がくぽの部屋に押し込んで来た、お色気犯罪なミニスカポリスをきっと睨み据える。
「で、カイト。今度はなんだ。どこの一日婦警さんを依頼された。それとも、どこの署の新しい婦警の制服広告だ。さもなければ、今度は誰の新曲衣装だ?!」
矢継ぎ早に候補を上げたがくぽに、ミニスカポリスこと、またもや女装コスプレ中のカイトは、反省皆無の顔でにっこり笑った。
「どれも違いまーす♪………今のとこだけど。えっとね、マスターの趣味だって」
まぁあすたぁああああああああ!!!
がくぽは叫んだ。あらん限りの力を振り絞り、思いきり。
しかしあまりの答えに、声にならなかった。実際には、がっくりと畳に手をついて項垂れたのが精いっぱい。
図らずも土下座状態だ。タイホしちゃうぞ☆と言っている婦警さんに、お縄を頂戴しようとしているがごとく、両手を差し出して。
カイトは構わず、言葉を続ける。
「んっとね、趣味的にこの衣装をどぉおっしても使いたいから、これでイケる仕事を、大急ぎで作るって。でもとりあえずその前に、イメージが間違ってないか確認させてくださいって」
「……っ………っっ」
がくぽは土下座状態のまま、とんとんと力なく畳を叩いた。
仕事は選びたい。
選びたいが、選ぶ余地がない。
あまりに少なすぎるゆえではなく、マスターの教育方針によって。
仕事を選ぶなぞ、下の下の仕業。たとえ大物や重鎮と呼ばれるようになろうとも、仕事を選り好みするなぞ、入って三日目の新人にももとる。
――カイトは素直に真っ正直に、そのマスターの教えまま、どんな仕事もこなす。
どんな仕事もだ。
「まあ、言ってもミクの仕事なんだけど。俺はその場のノリでなんとなく、付き合い?」
「付き合いが良過ぎるわ!!」
まだあったオチどころに、がくぽはがばりと体を起こして叫んだ。
叫んでから、ぎょっと目を見開く。
土下座で世を儚んでいるうちに、カイトがごく目の前に、へちゃんと座りこんでいた。
思わず身を引いたがくぽににっこり笑うと、きちんとグロスまで塗られたかわいらしいくちびるを尖らせて、顔を寄せてくる。
ちゅっと軽くキスをすると、カイトはほんのりと目元を染め、呆然と見入るがくぽに手を伸ばした。
放り出されている両手首を、きゅっと掴む。
「がくぽせんせー、タイホ☆………っ、え、あれ?」
「あ?」
得意げに告げたカイトだったが、すぐにその顔は不可解に落ちた。驚いたように、目線を移す。
事態に追いついていけないがくぽは、カイトが目をやったまま、『タイホ』されてしまった自分の手首へと視線を追わせた。
カイトがきゅっと握っている以外、特に変わりのない、いつもの手だ。
「カイト?」
「え、ほそぃ………」
「……なに?」
呆然とつぶやかれた言葉は不可解で、がくぽはようやく、回転率の落ちていた思考を動かし始めた。
カイトに掴まれたままの手首を、目の高さにまで持ち上げる。
「カイト?」
なにかおかしいところでもあるのかと検分しつつ声をかけたがくぽに、相変わらずきゅっと手首を掴んだままのカイトは、戸惑いに瞳を揺らした。
「がくぽの、手首………。思ってたより、細い」
「………思っていたより?どれだけ太いと思われていたのだ?」
確かにがくぽの体の全体は、カイトより筋肉質で、多少太く大きい。しかしやはり、芸能特化型ロイドだ。体のすべてが、労働型ロイドなどよりずっと、細く華奢に造られている。
今さらな感があって、多少呆れを含んだがくぽの問いだったが、カイトは掴んだ手首を見つめたままだ。
親指と中指が、『こんにちは』できる。思っていたよりではなく、思っていた以上に、細い。
「だって、がくぽ………いっつも、俺のことだって軽く抱っこしちゃうし。リンちゃんとかレンくんのことだって、簡単に持ち上げたり、押さえこんだり………」
「ああ………」
カイトが言いたいのは、普段見せられているがくぽの『力技』から考えると、この手首は細すぎるということなのだろう。
あんなにもすごいことを軽々やってのけるのだから、きっと筋肉ばりばりで、とても太いと――なんとなく思っていたら、まったく反対で、華奢だった。
カイトの戸惑いの原因がわかり、がくぽのくちびるは苦笑を刷いた。掴まれたまま、じっと見つめられる手首をわずかに振る。
「手首でやっているわけではないからな。ここに負荷なぞかからん」
「そうなの?」
きょとんとして、カイトは顔を上げる。不思議そうな光を宿すカイトの瞳に、がくぽは苦笑を深めた。
「むしろ、ここに負荷がかかるようなやり方では、なにもできん。俺のやるあれこれは、筋力に頼ったものではなく、あくまでも力学に基づいたものゆえ」
「り、………りき、がくっ」
「………」
がくぽはそっと顔を逸らし、思わず吹き出しかけた己を堪えた。
手首を掴んだままなのだが、カイトは表情を引きつらせて、仰け反っている。なにか小難しい話が展開される予感に、完全に怯えている風情だ。
どうにか笑いを治めてから、がくぽは穏やかにカイトを見た。
「難しいことはない。………そうだな。お主とて、『てこの原理』くらいは、知っていよう?」
「て、てこの、………原理?えっと、えと、あれ………?♪してん、りきてん、さようてーん♪?」
「それだ」
なにかしらの科学系の子供番組でも、観たことがあるらしい。単なる言葉ではなく、節をつけてうたったカイトに、がくぽは多少の不安は抱きつつも、頷く。
「大層重いものでも、力のかかる場所を考えてやれば、ほんの小さな力で動かすことができる。それが『てこの原理』の概要であろう?俺がやるあれこれも、結局はそれの応用だ。力の流れる方向を見定めて、逆らわずに助けてやる。もしくは、無理のない方向へと持って行く。それだけだ」
「………えええ?なんかすっごくカンタンそうに、難しいこと言ってない?」
「まあ、多少の修練が必要なことは認めるが………」
言いながら、がくぽはカイトが掴んだままの手首を軽く捻った。
なんの気なしに動かしただけのようなのに、カイトの手はあっさりと外れ、がくぽの手首は自由を取り戻す。
「え?」
――カイトは、離そうとしていなかった。がくぽも、特に離そうと力を入れた素振りはなかった。
なのにがくぽが腕を捻った途端、カイトの指は勝手に開いた。
空白となった手を呆然と見つめるカイトに、がくぽは自由になった手首を軽く振る。
「無理のない方向だ、カイト。お主が力をかけるのと戦えば、力がいる。しかしかけている力と戦わず、逃がして流せば、こうして己の思うようにできる」
「だからそれ、ぜっったいっ!難しいったら!」
呆然としたあまりにうっかり涙目となるカイトに、がくぽは多少眉をひそめつつ、首を横に振った。
「そうは言うが、リン殿もやっていることだぞ」
「ふえ?!リンちゃん?!」
ぎょっとした顔で後ろを振り向くカイトだが、もちろんそこに末の妹はいない。
がくぽはわずかにくちびるを笑ませて、とん、と畳を叩いた。
「カイト、リン殿とレン殿は、生殖器が違うだけの体だ。筋力設定はほとんど変わらぬ。それは知っていよう?だが、リン殿が軽々とレン殿を持ち上げたり振り回したりするのに対し、レン殿はリン殿を持ち上げるのも時の運、振り回すのも時の運だ。この違いはなにか、わかるか?」
「え?えと………リンちゃんのほうが、器用だから、じゃないの?」
講義態勢に入ったがくぽに、カイトは思わず、正座になって背筋を伸ばした。スカートが短いうえにスリットがばりっと入っているので、いくら男のカイトでも、太もものむちっとした感が割り増しされる。
しかしふたりしてそこは流し、カイトは生徒らしくおどおどと答え、がくぽは先生らしく鷹揚に笑って頷いた。
「そうだ。リン殿のほうが、『器用』だからだ。リン殿には、己が『女』であるという意識がある。女=力弱いものという前提で動くゆえ、力仕事をするときには、筋力のみに頼らぬ。力学を応用し、最小の力で最大の効果を生み出せるよう、常に計算している。結果、リン殿は無理難題と思われることも、難なくこなしてしまう」
「ふえ………」
末の妹が無邪気な顔の下で、常に計算をしていたという事実に、カイトの瞳はまん丸く見開かれる。
がくぽは笑ったまま、再びとん、と畳を叩いた。
「対して、レン殿だ。レン殿は反対に、己が『男』=『力強いもの』であるという前提で動く。ゆえに力学はほとんど無視して、筋力のみに頼る。『鏡音』の筋力設定は、大したことはない。ない筋力のみに頼った結果、レン殿にかかる負荷は増し、大抵の無理難題が、無理難題だと確認して終わる」
その副産物としてレンが得たのが、『ヘタレン』の称号だ。愛でられる『ショタっ子』の地位だ。
まったくめでたくない。少なくとも、レンにとっては。
わかっていても教えてやらない下の兄は、カイトに対してはやさしく、カラクリを説く。
「リン殿だけではない。ミク殿も、メイコ殿も同じだ。時として彼女らは、易々と男の我らに並ぶであろう?とはいえ、筋力設定を弄られているわけではない。あくまでも力学の応用のうえだ」
「そんなに、違うの………」
「ああ、違う。まあ、言葉にすると難しいが、要するに、対象とするものは今、右に進みたいのか左に進みたいのか、前か後ろか、そう考えるのが初めだな。前に進みたいというものを後ろに転がそうとすれば、反発が働いて余計な力がいる。しかし前に進みたいというものの背中を押してやれば、労無くして、前へとつっ転がせる。すべてはその応用だ。相手が逆らうことは………ん?」
「んむっ」
「………」
説明の途中で、カイトは唐突にがくぽの両脇に手を突っこんで来た。瞬間的にきょとんとしたがくぽだが、すぐに察する。
「持ち上げたいのか、俺を?」
「え、だって………今の話聞いたら、なんか、やってみたくなるもん………。リンちゃんって結構、自分と同じかちょっと重いくらいのものなら、持ち上げちゃうでしょ?だったら俺もがくぽのこと、持ち上げられるかなーって」
「まあ。………できないことはなかろうが」
「んむーーーーっっ」
唸りながら、カイトはがくぽに埋まる。持ち上げようとしているのだが、どう考えても抱きついているようだ。
筋力ではなく、力学、力の流れを使うことだと教えたのだが、まだきちんと理解できていないらしい。
「………ふむ」
正座していたカイトはがくぽへと身を乗り出し、その胸に埋まったことで、きゅっと締まった小さくかわいいお尻を突き出したような形になっている。
ぴったりしたスカートなうえ、生地もあまり厚くないらしい。下着の形が浮き出て、殊更に扇情的だ。
「カイト、一寸、手本を見せてやる」
「え?っぁ、ふゃっ?!」
がくぽに肩を叩かれたと思ったら、カイトの天地はあっという間にひっくり返っていた。
一瞬の間に、畳にころんと転がされて、がくぽが伸し掛かっている。
無理やりに体を反された感がなかった。持ち上げようとしていたがくぽが軽く体を浮かせて、カイトは思わずいっしょに伸び上がり――気がついたら、ころん、だ。
「わかったか?お主が行きたいと言った方向に、逆らわず持って行ってやる。それだけで、こうだ。体がどこか、痛んだか?」
「ぅうん、ぜんぜん………。え?じゃあ今の、がくぽって力………」
「ほとんど使っておらん。俺からすれば、ちょっと動いたら、お主が勝手に転がったも同じだ」
「ぅっわぁ………やっぱり、魔法……!」
諦めたような、感動したような顔で見上げるカイトに、がくぽは生真面目な表情で首を横に振る。
「魔法ではない。れきとした科学だ。誰にもできる。今のを思い出しながら、今度はこのまま、俺のことをひっくり返してみろ」
「あ、ぅんっ………う、え?ちょ、がくぽ……?!」
素直に頷いたカイトだったが、その顔はすぐに歪んだ。慌てて、伸し掛かるがくぽの胸元を掴む。
ほとんど穿いている意味をなさない、カイトの短いスカートの中に、がくぽは遠慮も躊躇いもなく手を突っこんでいた。
もちろん、突っこむだけで終わるわけもない。際どいところが掴まれ、揉まれ、突き立てられる。
「や、ちょ……っぁ?!めっ、だめ………っさわ……っゃ、あ……っひゃんっ!」
かわいい声を上げながらじたじたもがくカイトに、がくぽはしらっとした笑みを浮かべた。
スカートの中に手を突っこんだまま顔を落とすと、赤く染まる耳朶にくちびるを寄せる。
「ほら、カイト………いや、婦警だったか、今は?まあ、なんでも良いがな……。早う、俺のことを転がして逃げぬと、女子校生にナースと続き、お主まで『がくぽせんせー』の餌食となるぞ?」
悪戯に吹き込まれる言葉に、カイトはがくぽにしがみついたまま、涙目で首を振った。目元や頬、耳朶のみならず、曝け出された太ももに至るまで、すべての肌が朱を刷いていく。
今、手を突っこまれているのは、カイトの弱点が集まった究極の場所だ。そして『がくぽせんせー』は、なにがいちばんカイトに効くか、熟知している。
「ぁ、あ……っぁんんっ、ゃあ……っ。ぅ、うそうそうそ、ぃやぁんっ、むりぃ………っがく、がくぽ、手……っ手ぇ離し………ぁ、そん、そんなとこ、触られてたら、なんにもできな………っぁあんっ」
抵抗らしい抵抗ももはやできないまま、カイトは快楽に溺れて仰け反り、甘く啼く。
がくぽは器用にも、下を探りながら上着にも手を掛けた。
「できぬなら、俺に食われるぞ、婦警。逮捕しに来て、容疑者に食われては立つ瀬もなかろう。頑張れ」
「ゃああっ、んっ!ぁ、がくぽぉ、きもちい………っぃい………っ」
非常に白々しく応援したがくぽの下で、すでに蕩けてしまったお色気犯罪な婦警さんは、むしろ自分から下半身を擦りつけてきた。