あまり触れることのないものへと視線をやっていたカイトだが、この問いにははっと正気に返ったような顔になった。

伸し掛かるがくぽの花色の瞳を見つめると、ふるりと首を横に振る。

「やじゃない………へーき。ぅうん………ぅれしい」

最後の一言はさすがに目を伏せ、恥じらいながらこぼしたカイトに、がくぽは肩を落とした。

対して、がくぽとカイトの手に包まれたものといえば――

あふたーこーくこーら-後編-

「っあ、びくって、なったっ」

「そうだな。お主がかわいいことをすると、これは覿面に反応するぞ」

「かわいーこと………かわいー………。かわいー……………?」

やけっぱちながくぽの言葉に、カイトは生真面目に首を傾げる。

がくぽはカイトが導き出す答えを待つことなく、包んだ手を動かした。

「っぁっ、あ………っ、あ…………っ、ふぁんっ!」

「カイト、声!」

「ん、んんんっん…………っも、だって、ぁ………っ」

愛撫しているのは、がくぽのものだ。カイトのものには触れていない。

扱きながら同時に、カイトのどこかしらに悪戯をしているわけでもない。

だというのにカイトは、まるで自分が愛撫を施されているかのような甘い声で啼く。

慌てたがくぽに制止されて束の間くちびるを噛んだが、すぐに堪えきれない甘い声が迸った。

「………俺のだぞ?」

「っも、だって…………あっつくって、びくびくってして…………ぁ、がくぽの、だって、思うと…………っふっぁ、また、ほら、びくってっ」

「…………だから言うたであろうが。お主がかわいいことをすると、覿面に反応すると」

快楽の涙に濡れながら、手に握るものを吃驚の目で見つめるカイトに聞こえるかどうかという声で、がくぽはぼやく。

ひとのものを握りながら、そんなにあんあん言うなど――かわいい以外の、なんだと。

がくぽは瞳を細め、わずかに腰を落とした。

「っひぁ………っんくっ」

カイトはどうにかこうにか自力で、迸りかけた声を飲み込んだ。

こくこくといろいろなものを飲み下してから、がくぽを恐る恐ると見上げる。

「がくぽ………」

「このままでは辛かろう?」

「ぅ………」

腰を落としたがくぽは、ひとりでに兆していたカイトのものを己のものと諸共に掴んでいた。

「触れもせぬで、俺のものを扱いていただけで、こうとはな………」

「ぅ…………っ」

すでに色を刷いていたが、ふわふわほわほわと、カイトはさらに朱に染まっていく。興奮ではない。羞恥ゆえだ。

「がくぽ………っ」

「かわいい」

「んっ」

責めるような訴えるような微妙な声で呼ばれて、がくぽは笑いながらカイトの額にくちびるを落とした。

ぴくんと跳ねて、瞬間的に瞼を落としたカイトが次の言葉を継ぐより先に、互いのものを握り合わせた手を動かし始める。

「が、がくぽ………っ、がくぽ、だめ………っ、ん、これ、きもちぃ………っゃあん、きもちぃ、の………っ声、こえ………っ」

「俺の肩に咬みつけ。キスよりは多少、楽に堪えられる……」

「や……………っっ」

ふるると首を振ったカイトは、がくぽの肩に咬みつかず、己のくちびるに牙を立てた。

「カイト」

責めるように呼びながら手を止めたがくぽを、カイトは快楽とは違う涙の滲む瞳で見つめる。

「………がくぽに、いたいことするの、や…………」

「…………」

掠れながら吐き出された言葉に、がくぽは軽く天を仰いだ。

どこか傷ついたような光を宿していたカイトの瞳が見開かれ、触れ合う下半身へと視線が落ちる。

「び、びくってっ」

「だから、お主がかわいいと…………」

すでに嘆くようながくぽの声だ。

カイトは驚きに瞳を見開いたまま、がくぽへと視線を戻した。

「かわいいって」

「大体無節操だぞ、俺は。お主に関してだが」

「な、なんでもいーの?」

「なんでも良くはない。お主がいい」

「じゃ、なくて…………っぁあんっぁ、だ、だから、手………めっ、だめって…………っ!」

一度は止めた手が再び動きだし、カイトはかん高い声で啼く。

あと残る方法といえば――気が進まない方法だ。

「カイト。………ほら」

「ん……?」

再び手を止め、のみならず体も起こしたがくぽは、未だに着ていた羽織を脱いだ。

そのうえで極力やわらかな声と表情を意識し、カイトの口元に羽織の袖を当てる。

「これなら俺は痛くない。咬め」

「ん………」

あてられた布を、カイトは素直に咥える。きょろんとした無邪気な瞳が見上げてきて、そのあまりの無垢さに思わず、がくぽは苦い笑いをこぼした。

顔を落とすと、塞がれている口からずれて、瞼にこめかみにと、雨のように口づけを落とす。

「ん………」

「いい子にな」

「んん………んんっ」

誑かす言葉を吹きこんで、がくぽは己のものとカイトのものを掴み直した。添えられたカイトの手ともども、ふたりのものを擦り合わせ、絡めて扱く。

「んー………っんん………っ」

きゅっと羽織を噛みしめるカイトは、苦しそうに瞼も落とす。

その表情にすら煽られる己を嘲笑いながら、がくぽは募る欲求を止められず、手を動かした。

「ん……っん、んぁ……っ」

「ああ、イくかいいぞ、俺も………」

「ぁ………っ」

キスを強請りたくなったのか、カイトは舌で羽織を押し出した。堪えられないあえかな声をこぼしながら、呼ぶように舌が突き出される。

がくぽは強請られるまま、顔を落とし――

「ほんっと貴女っていうひとはっいいから手を離し――ここまで来たら、逃げやしないんだからっ……」

「ボクに言うこと聞かせたいなら、セールスでボクのこと抜いてからって言ってるでしょーほら、早くはやく、こっちこっちぃ☆」

「っ!!」

「………っ」

扉はきっちり閉めている。しかし廊下を歩く少女たちのはしゃぐ声は、静かだったその場にやたらと大きく響いた。

ミクは明るい少女だが、それにしても声の張りが違う。

おそらくあれは、気遣いの表れだ――兄たち二人が、ちょっとまずい声や音を立てていても、自分の騒音で掻き消すための。

そして会話からの推測だが、ルカは手を引かれて、思わぬところで立ち止まったり、あらぬ扉を開かないように、それとなく規制され、誘導されている。

普段、なんだかんだと自儘に振る舞い、がくぽから悪魔認定を受けているミクだが、それはそれなりに気も遣えば、思いやることもする少女だ。

あとで彼女が食べたがっていたポロネギ入りのビーフシチューを作ってやろうと、微妙な感謝の表明を考えつつ、がくぽは濡れそぼった指を口に運んだ。

ちゅるりと、啜る。

「ふぇ………っ」

「気にするな、カイト………驚いたのだろう限界だったのだし、問題ないゆえ」

「んくぅ………っ」

がくぽの指を濡らしたのは、少女たちの声に驚いた瞬間に放ってしまったカイトのものだ。

恥ずかしさといたたまれなさに盛大に瞳を潤ませたカイトは、もそもそとがくぽの羽織を招きよせ、再び口に押しつけてきゅううっと咬みしめる。

そのまま、ぐすぐすと洟を啜った。

「カイト……大丈夫、大丈夫だから」

「むー………っ」

がくぽの羽織をがむがむ咬んで、カイトは恨みがましい瞳を寄越す。軽く腰が振られて、がくぽは未だに達していない己のものに気を遣った。

「………あー。まあ」

適当につぶやきつつ、耳を澄ませる。

おそらくもう部屋に入っただろうが、少女たちのはしゃぐ声は未だに聞こえる。部屋の近さにも由来するだろう。がくぽの部屋より、カイトの部屋のほうがわずかに、ミクの部屋に近い。

「カイト、少しな」

「ん……ん、んんっ?!」

がくぽの体を挟んでいた足を強引に持ち上げられ、大きく腰を浮かすような姿勢を取らされて、カイトはぎょっと瞳を見張る。

がくぽは開いていたカイトの足を閉じると、その太ももの間に己を挟みこんだ。現実に引き戻されて微妙な空気になっているものを、なめらかな肌で擦り上げる。

「ん……っんーっんーっ!」

「カイト、少し……っ、少し、ゆえ………っ」

「ん、んんん……っ!」

太ももの間をがくぽのものが行き来するという、初めての光景にカイトは信じられないように瞳を見張って、くぐもった悲鳴を上げる。

宥める言葉を吐きだしつつ、詐欺や誑かしの『少し』ではなく、字義通りの『少し』の時間で、がくぽは限界に達した。中には入れていないが、カイトの肌だ。萎えかけたとしても、復活は容易い。

突き入れた瞬間にがくぽのものから欲望が吹き出し、カイトの全身に散る。

「ん……っんんっ、んー………っっ」

「………っ」

まるで腹の中に吹き出されたかのように、カイトは呻いて痙攣する。

そのさまを眺めつつ、がくぽは間歇的に吹き出すものすべてでカイトの体を汚し、落ち着いたところでようやく、足を放してやった。

くたんと力なく落ちた足を漫然と見送りつつ、多少疲れてカイトの上へと伸し掛かる。潰さないように気は遣ったが、軽く伸びた。

「ん………ぁ…くぽ」

舌で羽織を押し出したカイトに甘く呼ばれて、がくぽは笑う。

唾液で濡れそぼるカイトのくちびるにちゅっと吸いついてから、揺らぐ瞳にもくちびるを寄せた。

「大丈夫、案ずるな………今日はこれで終いだ。さすがにこれ以上、お主に無理を掛ける気はない」

「………」

「とはいえ、惨状だな。風呂に入らねば………ん?」

くたんと力なく落ちていたカイトの足が持ち上がり、再びがくぽの体を挟みこんだ。

きょとりとするがくぽの首に、カイトは腕も回す。

そうやって、ぎゅううっと力いっぱい、全身でしがみついた。

「カイト」

痛い苦しい、どうした――

諸々の問いを込めて呼ばれても、カイトは力を緩めなかった。むしろさらにきつく、擦りつく。

「………なきゃ、………だもん」

ぽそりと、ささやかれる言葉。

聞き取れずに身じろいだがくぽに、カイトはきゅっと爪を立てた。

「えっち、してくれなきゃ………やだもん………っ」

「………………」

がくぽは可能性を検討した。

つまり、幻聴だ。そうでなければ、ロイドにあってあるまじきことながら、夢。

そんなに自分に都合のいいことばかりあってはいけないと、無闇な自制に走るがくぽにしがみついたままのカイトは、ぐすんと大きく洟を啜った。

「えっちしてくれるまで、離してあげないんだから、がくぽ……っ」

言って、宣言通りにしがみつく全身に力を込める。

痛い。

正直、さすがに痛い――が。

その痛みを補ってあまりある熱が、体に募って、別の痛みを呼び起こす。

「がくぽ………」

「………」

えっちしてして、したいのと、滅多になく淫らがましいおねだりモードに入っているカイトを放って、がくぽはしばらく思考を転がした。

ややしてカイトの体の下に手を入れると、しがみつかれたまま起き上がる。膝の上に乗せると、涙目で見つめるカイトに微笑みかけた。

「せめても、場所を移動しようかここは、あまりにミク殿の部屋に近いゆえ………俺の部屋にでも」

「………がくぽ」

「そうでなければ、風呂場でもまあ、………声は響くが、離れているといえば離れているな。ああ、脱衣所あたりなら、声も響かないし、すぐに風呂に入れるし、一石二鳥か」

「………」

涙を散らしながら瞳を瞬かせるカイトの背を撫で、がくぽはくちびるを寄せた。汚れたままの肌に舌を這わせ、なめらかさと甘さ、時折混じるものの味を堪能する。

「ん………っん、ん………っ………がく………っぅ………っ」

「どうする移動しても良いと言うなら、運んでやる。今度は担ぐのではなく、大事に大事に腕に抱えて運んで――それから、お主が求めるだけ存分に、腹の中に俺をやるぞ」

「ぁ、は………っっ」

肌を辿りながらささやかれ、カイトはぶるりと震える。がくぽの肌にきゅっと爪が立って一瞬後、カイトの体から力が抜けた。

「カイト?」

「………いく」

ことんとがくぽの胸に凭れてつぶやき、カイトは窺うような上目になった。

ちゅっとがくぽの顎にキスをして、ベッドの上、枕元を指差す。

「……がくぽの、持っていっても、いいそれで、また噛んでても………」

一つ屋根の下に変わりはないから、ある程度の声対策は必要だろう。

そうとはいえ、多少痛ましさは感じて眉をひそめたがくぽだが、カイトは枕元から引き寄せた羽織を、はむんとうれしそうに咥えた。

「め?」

「…………気に入ったか」

「ん」

がくぽの問いに、カイトは羽織を咥えたまま、はにかんだ笑みで頷く。

わずかに天を仰いで、がくぽは耳を澄ませた。

少女たちの声は、まだ聞こえる。しかし、多少は静かになった。

そして、かわいいカイトに覿面に反応する無節操な自分は――

「多少、しつこくヤるぞ、カイト」

今さらな宣言を落とすと、がくぽは羽織を咥えたままのカイトを抱いて立ち上がった。