なんの躊躇いもなく、がくぽは足を舐める。
草履で擦れて、赤くなった場所を。
The moon's in a fit-02-
「………がくぽ」
「痛いか?」
「…………はい」
押し殺した声で呼ぶカイトに、がくぽは平素と変わらない声で訊く。
頷いてから、カイトは顔を背け、浴衣の胸元を懸命に握りしめた。
ぬめる舌が、足を這う。傷口を舐められて走る痛みが、電気でも通されたように体に痺れを呼ぶ。
「ぁ………っ」
「………痛いか、カイト?」
もう一度、どこか愉しげに訊かれて、カイトは胸元で握る手に力を込めた。くちびるが空転し、舌が覗く。
「………旦那様……っ」
「ん?………別のところが、『痛く』なりでもしたか?」
「ぁ………っん………っ」
悪戯に訊きながら、がくぽの指がカイトの浴衣の袷に潜りこむ。際どいところを撫でられて、堪えることも出来ず、カイトは大きく震えた。
「………外、です……旦那様……」
「そうだな」
「っ」
カイトの言葉に、がくぽが返した声はいつもと変わりがなかった。落ち着いていて、穏やかな自信に満ちている。
瞬間的に瞳を見開いたカイトだが、彼はひどく残念な感じに、旦那様のことを信頼していた。
そもそも、自分に世間的な常識が欠けていることを、自覚だけはしている。
対して、旦那様が世間的な常識に詳しく、うるさい性質だということも、疑っていなかった。
その旦那様が、外でこういう行為に及ぶということは――
「ぁ………ぅっ、ふ………っ」
「……」
下着の上から爪で掻かれて、カイトは震える。
くちびるが文句でも制止でもなく、甘い声だけをこぼすようになったことに、がくぽは少しだけ瞳を細めた。
「………まあしかし、こんな明かりの下でするのもな」
「旦那さ……っあ?」
「煽った分の責任は取ってやる」
一度手を抜くと、がくぽはカイトを抱え上げた。重さを感じていないような軽い足取りで運んで、植込みの奥の芝生に横たえる。
明るければ下の公園からは見えてしまう位置だが、今は暗い。目を遮ればいいのは、街灯とベンチのある遊歩道からだけだ。
高い植込みではないが、横になればそれなりに隠れる。
「旦那様……」
「あまり大きな声は上げるな。多少なら目も瞑ってもらえるが、派手にし過ぎるとそこそこに問題だからな」
「……っふっ………ぁ」
もしかすると無茶苦茶なことを言われているかもしれない、とカイトが疑いを過らせた瞬間に、がくぽは素早く差しこんだ手で、下半身を強く揉んだ。
下着を抜き去ると、熱く硬くなっているものを取り出す。
「どうする。しゃぶって欲しいか」
「ん……っぁあぅ………っ」
痛いような力で扱かれ、カイトは首を振る。
言葉らしい言葉もこぼせないカイトに笑い、がくぽは身を乗り出した。
「きちんと言わねば、楽になれぬぞ?言え、旦那様にしゃぶって欲しいと」
「…………は………ぁ…………っ」
意地悪くささやかれ、カイトは潤む瞳で旦那様を睨んだ。すぐにその瞳は蕩けて、伸し掛かるがくぽから垂れる髪を引く。
「ぁ…………舐めて………咥えて、ください……………旦那様の口に………されたい、です………」
「…」
素直に吐き出した奥さんに、がくぽは瞳を細めた。手に持ったものを、軽く握りしめる。
「ゃあ……っ」
「望み通りにしゃぶってやる、カイト」
「ぁあ………ふぁあ………っ」
カイトの下半身に沈みこみ、がくぽは勃ち上がったものを口に含んだ。仰け反って、カイトは震える。
首に、芝生が刺さった。痒いのにも似た、微細な痛み。
あまりに微細なのに、体に電気でも通されたように、痺れが走る。
「ゃ………っあ、だんなさまぁ………っ」
「ん……」
薄い浴衣の生地越しに、固い芝生がところどころに電気を通し、カイトは足指を丸めた。
いつもと比べてもあまりに大きく震え、大して持つこともなく、がくぽの口に欲望を吐き出してしまう。
「ぁ……っあ…………」
「よしよし。落ち着け」
「………っ」
吐き出したものを残らず飲み干したがくぽが、あやすように頬を撫でる。
カイトは洟を啜ると、がくぽの腰に足を絡め、軽く引いた。
「………カイト」
「してください……」
「……」
強請る言葉に、がくぽは束の間、渋面になった。
確かに少々煽ったが――外で、そこまでする気ではなかった。もうひとつ言えば、カイトがそこまで強請るとも、思っていなかった。
なんだかんだと言っても、外だ。
そうとは思っても手を出したのは、多少煽って、カイトの腰を抜かしておけば、背負って帰るのに言い訳が立つ――そんな算段で。
応えないがくぽに、カイトは軽く腰を浮かせ、下半身を突きだすようにする。
「旦那様のものが、欲しいです………堪えられません………」
「家まで我慢が利かぬと?」
念のため確認したがくぽに、奥さんは迷いもなく頷いた。
「出来ません………入れてくれなければ、起き上がることも出来ません………」
「………やれやれ」
入れてしまえば、さらに「起き上がる」ことが不可能になるだろうと思いつつ、がくぽは自分の指を軽く舐めた。
その手を突きだされたカイトの下半身にやり、奥を探る。
「……こんなにひくつかせて。しゃぶられただけで、こうなるそなたでもあるまい………なにに煽られている」
「ふぁ……っ」
ついでに言うと、外だから云々で興奮するような性質でもない。
疑うようながくぽの声に、カイトは体を捩らせた。
「芝………が………」
「しば?」
なんのことだ、とさらに眉をひそめる旦那様に、カイトはむずかるように体を震わせる。
「芝が……ちくちくして………んっ、体………ぁ………っ」
「………芝、………か…」
カイトの言うことをようやく飲みこみ、がくぽは暗い中に生える芝生を見た。
確かに、座りこんでいる自分の足にも、微細な痛みがある。痛みというにはあまりに微細で、掻痒感にも似た――
がくぽのくちびるが性悪に吊り上がり、窄まりを探りながら奥さんへと伸し掛かった。
「………痛くて、感じたのか?困った妻だな」
「ぁ……っ」
からかうように吹きこまれるがくぽの言葉に、カイトは首を振って横を向く。その体がすぐに、陸に揚げられた魚のごとくに大きく跳ねた。
中を探るがくぽの指が、もっとも敏感な場所に触れている。強く押されて、爪が食いこむ感触すらした。
「ゃ、だんなさま………っそんな、つよい………っ」
「痛いと感じるのだろう?」
「ちが………ふぁうっ」
もっとも弱い場所に走る、痛みに似た快楽。
そして体全体を苛む、芝生からの微細な刺激。
痛い、はずだが痛いとも言い切れない、掻痒感との狭間の感覚に体を支配されて、カイトは惑乱して首を振った。
「ぃや………っです、もぉ………っだんなさまぁ……っ」
「厭か?ならばどうして欲しい?」
笑みを刷いて訊かれて、カイトは立てた膝で旦那様の腰を挟む。招くように、軽く引いた。
「旦那様の………入れて、………めちゃくちゃに………掻き回されて………なかに……出されて、イきたい………です………」
「……」
予想以上に熱烈に強請られて、がくぽは咽喉を鳴らした。舌が覗いて、くちびるを舐める。
がくぽはひくつく奥から指を抜くと、煽られる自分を取り出す。腰を挟むカイトの足を掴んで大きく広げ、殊更に芝生に体を押しつけるように、体重を乗せてやった。
「ぁう……っひっ」
「締まるな………」
芝生に擦られて体が跳ねたところで、がくぽは反り返る自分を押しこんだ。解したとも思えないほどに、そこはきつく締まる。
「ぁ……っあ………っだんな……さ……っ」
「少し緩めぬと、とてもではないが、めちゃくちゃに掻き回すなど出来ぬぞ?そなたが傷ついてしまう」
「で……も………っひぁうっ」
反論を紡ごうとした瞬間に、がくぽの指がカイトの太ももを軽くつねる。緩めるどころではなく中に入ったものを締めつけて、その形と硬さをさらに明確に感じてしまい、カイトは言葉を継げなくなった。
「ひ……っぁあ………っ」
「それとも、このまま奥だけ突いてやろうか?それも好きだろう、そなた」
「ぁあっ」
言いながら、がくぽはカイトを抱えたまま腰を揺さぶる。カイトの瞳から涙が溢れ、激しく首を振った。
「もぉ………旦那様………っくるし、たすけ……っ」
「………少しう、虐め過ぎたか」
「ふ……っ」
苦笑に変わったがくぽは、身を屈めるとカイトの目尻にくちびるを寄せる。涙を啜ると、気が狂いそうなほどに緩やかに、腰を動かし始めた。
同時に、反り返るカイトのものにも手をやり、扱いてやる。
「ん……っぁく………っ」
焦らすでもない、いつも通りの快楽が与えられて、惑乱していたカイトの思考がわずかに落ち着く。
キスの雨を降らせてくれる旦那様に手を伸ばして、縋りついた。
「ぁ………旦那様………」
快楽に歪みながらも、いつも通りに蕩けて甘く呼ぶ声に、がくぽは笑った。カイトを単純に扱いていた手にわずかに力が篭もり、濡れる先端に指がめりこむ。
「ふぁっ?!」
「……落ち着いたな。ならば当初の望み通り、めちゃくちゃに掻き回してやろうか」
「ぁ、あ………っ?!ふぁあ……っ!」
それは確かに自分が強請ったことではあったが、宣言して即座に実行に移した旦那様に、カイトは声も堪えられずにしがみついた。