思った以上に、カイトが吐精したことはがくぽに動揺を与えた。
男だとわかっていて、そんなことは共に風呂にも入るのだし、つぶさに理解していると思っていた。
しかし本当に『男』として機能し、精を吐き出した――
カイトの体は、女を求める。
がくぽにとって男が吐精するとは、そういう意味に他ならなかった。
これまで、大事大事に仕舞いこみ、丁寧に育てて来た、がくぽの『姫』が――誰か、他の女を。
雄の本能に目覚めて、がくぽの手を離れ、女を組み敷く。
でぃおにそしぁ・あめしすてぃ-10-
「………っ」
「がくぽさま………っごめんなさい、ごめんなさい………っ」
訳も分からないまま、カイトはべそを掻いて謝る。
問題は、吐精したことではないのだ。
その相手が、誰だったかということ。
その相手にいったいなにをして、悦楽を覚えたかということ。
たとえ夢だとしても、カイトが――
「カイト」
がくぽは低くひくく、声を吐き出した。
これまでカイトに向けたことはないほどの、怒りに染まって抑えこまれた声だった。
びくりと引きつるカイトに、がくぽはゆっくりと告げた。
「そなたは、『女』だ」
「………っ」
吐き出された言葉に、カイトは息を呑む。
戯れや慰めに言われたことはあっても、ここまで抉るように厳しく、言われたことはなかった。
がくぽは常に、本来は棟梁息子であったカイトの今の境遇を哀れむように、痛ましそうに、その言葉を口にしていたのに。
「……がくぽ、さま」
「そなたは『女』だ、カイト。いいか、『女』なのだ」
「ぁ、………っあっ?!!」
竦むカイトの下半身に、がくぽは手を伸ばす。しんなりと力無いものを掴むと、やわやわと揉み解いた。
「ぁ、や………っがくぽ、さまっ?!!そんな、ぁ、ぁあっ、ぃやっ、なにをっ?!!」
「ここを扱かれると、『男』は気持ちよくなり、子種を吐きだす。初めはな、単純に上下に擦るしかせん。しかしそのうち、コツやら手技やらを覚えて……」
「ぁ、ぁああっ」
がくぽがほんのわずかにカイトのものの探り方を変えただけで、あまりに未熟で馴れない体は、わずかな時間で頂点を極め、とろりとした精を吐き出した。
「………ほらな。こうして、子種を吐きだす。………気持ち良いか、カイト」
「……ぅ、……っぅー………っひぃう………っ」
相変わらずがくぽに伸し掛かれたままで、逃げることも叶わないカイトは、ひたすらに未知の感覚に怯え、泣く。
いつもならカイトの涙にはすぐに挫けるがくぽも、今は怒りに眩んで止まらない。
濡れた手をカイトに掲げて見せてから、それを再び下半身に戻した。
力を失った幼い男性器を過ぎ、奥へと指を潜らせる。窄まりを押されて、カイトはびくりと引きつった。
「が、がくぽ、さま………っ?!」
「しかし、そなたは『女』だ、カイト………ここで、悦楽を求めることは、赦されん。『女』ならば…」
「ぃ、っひ、ぁっ?!!」
窄まりを押していた指が一本、狭いそこに潜りこんで来る。カイトの放ったもののぬめりを借りているとはいえ、なにしろ初めてのことだ。
異物感と痛みに、カイトは身を仰け反らせて痙攣した。
「ぃ、やぁ……っゃあ、やああ………っがくぽさまっ、がくぽさまぁ………っぃやっ、ぃやぁ……っ赦して、おねが、赦して………っっ!」
「カイト…」
未知の行為に怯えてかん高い悲鳴を上げるカイトに、がくぽの怒りはわずかに解けた。
責め苛みたい相手ではない。激情に駆られはしたが、無理やりな行為を強いる気はなかった。
しかしそこに、主の尋常ではない悲鳴を聞きつけた、めのとが割り入って来た――カイトの傍にいて、カイトが知る、唯一の『女』が。
「カイトさまっ?!!」
「ひ、ぃ………ぁ、メィコ………っ」
「っ」
がくぽといるときのカイトは常に上機嫌で、笑い声が絶えなかった。
それが今は、体の下に組み敷かれ、泣きじゃくっている。
メイコには一瞬で、がくぽがなにをしようとしているかわかったが、それこそ望み続けていたことでもあったが、同時にひどくまずい事態であることも見て取った。
なんでもいいから、手を出せばいいというわけではない。
きちんと想いが通じたうえで、初心なカイトが怯えないように、して欲しいのだ。
そこのところに、疑いはなかった――想いさえ通じたなら、がくぽは大切に大切に丁寧に、カイトを抱くだろう。今までの溺愛ぶりを見ていれば、わかる。
しつこく散々に馴らしてやって、初めてにも関わらず、カイトからはしたなく男を強請るほどにして、ようやく自分を押しこむ。
そこまでやっても、初めてとなればさすがに痛みに震えるかもしれないが、性急に進めて傷を広げるようなことはしないはずだ。
――初めてなのに、カイト、はしたないです………。
そう愛らしく告げて、カイトが二度目を強請るほどに、やさしく。
だが現状、カイトは泣き濡れていて、がくぽの瞳の凶悪さといったら、なかった。
やさしくするどころではないし、まったく想いが通じ合っていない。
「お屋形さま」
「引け、メイコ」
厳しい顔で容赦を乞おうとしたメイコに、がくぽは鞭打つ強さで吐き出した。
剥き出されたカイトの下半身を探ったまま、歪んで澱む瞳でメイコを睨みつける。
「これに、己の立場を教えねばならん。自分は男ではなく、『女』なのだと。男に犯される存在なのだと」
「お屋形さまっ」
がくぽの言葉に、メイコは怒りに震え上がった。
これまでカイトは、がくぽの意向に一切逆らうことなく、大人しく鎖されて、『姫』として過ごしてきたはずだ。
少しばかり恥じらいが足らなかったり、お淑やかさが足らなかったりしたが、男であると思わせるような言動は注意深く避けて。
そこまでしてがくぽに隷従を誓って来たのに、さらにこのうえ辱めるようなことを。
「如何なる仕儀かは存じませぬが、それ以上貶めるようなことをっ」
「ぁっ、ゃぁあっ、ぁああっ?!」
「っ」
メイコが怒声を迸らせるのと同時に、がくぽに探られたままのカイトが震えて仰け反り、堪えきれない悲鳴を上げた。
「ゃっ、ぃやぁっ、なに、なに……っ?!そこ、ぃや、だめ、がくぽさま………っ」
「お、屋形、さまっ!どうかっ!!」
身悶えて吐き出されるカイトの悲鳴を聞いていたメイコの声は、苦痛に染まった。
嘆願の色を浮かべて、がくぽに容赦を乞う。
構わずカイトの下半身を探り、がくぽは再びメイコを見た。
「引け、メイコ。いくらめのとといえど、口出しはさせぬ」
「お屋形さまっ」
「カイト」
メイコから顔を逸らし、がくぽはカイトの耳朶にくちびるを寄せた。てろりと、舌を這わせる。
「ひぁっ?!」
「カイト。メイコに引くよう言え。そなたの忠義もののめのとは、俺の命は聞けぬらしいゆえ」
「ぁっ、あ……っゃ、ぁあっ、がくぽ、さま……っ」
吹きこまれる間にも耳朶を舐めかじられ、下半身が解きほぐされている。
惑乱して言葉が呑みこめないのはわかるだろうに、がくぽは叱るようにカイトを苛む手を強めた。
「ぁああっ!」
「カイト。我の言うことを聞け。メイコを引かせろ」
「っひ、ぁぅう………っ」
滂沱と涙を流しながら、カイトは懸命に息を継いだ。
障子口で、項垂れて畳に手をついているメイコへと目を遣る。
息を継いで、継いでも、言葉が咽喉に閊えて震え、なかなか形を成さなかった。
がくぽはその逡巡を赦さない。
「カイト!」
「っぁ、ぁう………っぁ………っ」
厳しく呼ばれ、カイトは瞳を閉じた。
「………メイコ、おねがい……………おね、が………がくぽさま、の………言われる、とおりに………っ」
「………カイトさま」
見えなくても、メイコの声でわかった。泣いている。
気が強くて跳ねっ返りで、どんなときにも泣かなかった、優秀で有能なめのとだというのに。
カイトはきゅ、と瞼に力を込め、声を張り上げた。
「おねがい、メイコ………っ」
「……っ」
嘆願に、メイコは崩れるように畳に頭を伏せ、ゆるゆると下がって座敷から出た。
かたりと、障子が閉められる。
カイトはようやく瞳を開き、まだ暗い中に、それでも炯々と光っているようながくぽの瞳を見つめた。
「が、くぽ……さま………」
「覚えろ」
「ぅっ、ひ……っ」
声も表情もやわらかさを取り戻すことはなく、がくぽは冷徹に行為を続けた。
狭いそこに二本目の指が入り、最後には三本差し入れられて、掻き混ぜられ、広げられた。
泣き疲れ、悲鳴も枯れたカイトの体がぐったりと伸びたころに、がくぽは再び幼い男性器を取り、中とともに弄った。
「ぁ……っあ………」
刺激を待っていた体は、あっさりと頂点を極めた。白濁した体液が迸り、がくぽの手を濡らす。
虚ろに痙攣をくり返すカイトへ、がくぽは顔を寄せた。
「………今日はいい。しかしおいおいは、後ろだけで極めるようにするぞ、カイト。そなたは『女』なのだから」
「ぁ……っんっ」
応えようとしたカイトのくちびるは、がくぽのくちびるによって塞がれた。ぬめる舌が口の中に入りこみ、怯えて逃げるカイトの舌を追って吸い上げ、咬みつく。
「ん………っぁ、あ………っ」
カイトは瞳を閉じ、苦しい息を継ぎながらがくぽの着物に縋りついた。