「がくぽさま、只今帰りました!」
弾む声とともに座敷に駆けこんで、カイトは首を傾げた。
留守居を任せたはずのがくぽの姿が、見当たらない。
はなばなのあだしなせば
「がくぽさま……?」
気まぐれな性質だ。
妹たちに押しつけられた留守居に飽けば、後で非難されるとわかっていても、ぶらりと遊びに行ってしまおう。
座敷に立ち尽くし、カイトは力無い視線を彷徨わせた。
その瞳が、大きく見開かれる。
縁側の陽だまりに、がくぽが大の字になって倒れていた。
「がくぽさま!」
慌てて駆け寄って鼓動を確かめ、カイトはへちゃんと腰を落とした。
「寝てる…………っ」
ひとりきりの留守居に飽いたがくぽは、昼寝と決め込んだらしい。
「…………がくぽさまー…」
そっと呼びかけたが、ぐっすり眠りこんだがくぽは、ぴくりともしない。
「帰りましたよー………」
身を屈めてささやき、カイトはがくぽの耳にくちびるを落とした。そっと舌を伸ばし、やわらかな耳たぶを口に含んで、歯を立てる。
「ん………」
「………」
小さく呻いたものの、がくぽに起きる気配はない。
カイトはわずかに首を傾げて、そんな夫を見つめた。
気まぐれで、自由な、風のような夫。
今日は屋敷で待っていてくれたけれど、明日はわからない。ふらりと出かけて、どこでどんな『おいた』をしてくることやら。
「………がくぽさま………お守り、ね」
そっとつぶやき、カイトは覗くがくぽの首筋にくちびるを落とした。ゆるりと肌を辿り、浮いた鎖骨に触れる。
「んく…………」
ちゅくりと吸い上げ、軽く歯を立てて、カイトは身を起こした。
それでも起きないがくぽの肌に、鮮やかに咲いた、花痣ひとつ。
「ぇへ」
小さく笑うと、カイトはいいこに膝を揃えた。がくぽの頭をそっと持ち上げて、膝の上に乗せる。
「♪」
安心しきって眠りこける夫を眺め、カイトはゴキゲンに鼻唄をこぼした。