くさぐさのもののおもへば
ふと目を覚まし、がくぽは軽く眉をひそめた。
「あ、がくぽさま」
見上げた先に、カイトの笑顔がある。うれしそうに微笑む彼は、額に掛かるがくぽの髪をやさしく梳き上げた。
「おはようございます、よくお眠りでしたね」
「ああ」
応えて、がくぽも手を伸ばした。覗きこむカイトの頬を撫で、花色の瞳を細める。
「何時、帰った」
「半刻余り前です」
今日、カイトは妹たちと連れだって、月に一度の市へと出かけていた。
『女同士のお出かけだから』という、わけのわからない主張のもとに留守居を仰せつかったがくぽは、暇さに明かせて昼寝をしていたのだが――
「そんなにか」
「そんなに、じゃないです」
顔をしかめるがくぽに、カイトのほうはうれしそうに笑う。
布団も敷かず、縁側に寝転んでいたがくぽの頭の下に、カイトの膝がある。
溺愛する妻が帰って来たことに気がつかなかったのも業腹だが、頭を抱え上げられても気がつかずに熟睡していたとなると、自分の危機管理意識を疑う。
相手がカイトだから、良かったようなものの――
「…………………むしろ、そなただから、か」
「がくぽさま?」
やさしい笑みで、カイトは首を傾げる。
カイトになら、寝首を掻かれることも厭わない。
カイトが自分を要らないと言うなら、がくぽだとて、この世に存在する意味など見いだせないのだから。
「俺も丸くなったな」
「がくぽさま?」
がくぽは笑うと、首を傾げるカイトを引き寄せ、くちびるを合わせた。
「んく………………」
艶やかに濡れて離れたくちびるを満足げに眺め、がくぽはふと思いついた。
にんまりと性の悪い笑みを浮かべて、ほんのり目元を染めるカイトを見る。
「そなた、俺が寝ている間に、なんぞ『イタズラ』をせなんだか?」
「っっ」
問いに、カイトは瞬時に真っ赤に染まり上がった。
「し、してません!!」
裏返った叫びに、がくぽはカイトの膝に懐いたまま、声高く笑った。