概ね言うと、扉は蹴破ろうとした途中で慌てた衛兵の手で開かれた。
家宰にしろ衛兵にしろ、領主ひとり閉じ込めて密室のはずの部屋から、その領主が『花嫁』を抱いて現れたことにぽかんとし、次いでさらに慌てた――不審の輩を通し、あまつさえそれと二人で閉じ込めていたのだ。
ÉGÉRIE-04
失点は馘首どころか断頭に値すると、家宰は自分の首に縄を括りつけながら主張した。
腹は立つし赦したくもないが、別に命も欲しくはない。
なにより今、がくぽは非常に気分がよく、同時に急いていた。
「婚姻の祝いだ。恩赦をやるから、それで命を拾え!」
命じると、花嫁ことカイトを抱いたまま、半ば駆けるようにして己の寝室に向かった。
開かれている宴の趣旨は、誰もが知っている。
がくぽがひとりふたり『お持ち帰り』してきたところで、今日に関しては誰も見咎めはしない。
首尾よく寝室に飛び込んだがくぽは、途端に勢いを削ぎ、カイトを丁寧に寝台に下ろした。
「ぁ………」
「………堪らぬな。愛らしい」
領主の屋敷だ。平民のとは違う。ましてや今日は、客の多い宴も開かれている。
単に見栄だけに留まらず、不審者からの護衛も兼ねて寝室にも浩々と明かりが灯され、真昼のようによく見える。
そんな中で、がくぽひとりで眠るには余りある大きさの寝台にころんと転がったカイトは、無防備だった。抵抗の意思も、拒絶の色もなにひとつとしてない。
唯一あるとするなら、未知のことに対する緊張とあえかな恐怖で、本来はやわらかな体が微妙に硬い。
「恐れるな。初めてとは思えぬほど、悦くしてやる」
「がくぽさま………」
己の服を寛げながら伸し掛かって言うがくぽに、カイトは強張りながらもふわりと頬を染める。
がくぽは笑うと、染まる頬にくちびるを落とした。
「そなたはよくまあ、赤く熟れるものだ………今後外に出るときには、薄絹で顔を覆わせようか。あまりに色めいて、他の男が誘われては心配で仕様がない」
「そんなこと………」
「実際にこうして誘われ、遮二無二そなたを求める男が、ここにいる」
「っぁ………っ」
くちびるで顔を撫で辿りながら、がくぽはさりげなくカイトの服を脱がせていく。くちびるを受けて陶然としていたカイトだが、ようやく抵抗を思い出したように小さく身じろいだ。
開かれる服を掻き合わせるように動く手に逆らわず、しかし完全に逃げることは赦さないまま、がくぽは瞳を細めてカイトと見合った。
カイトの表情を彩るのは、あえかな恐怖だ。
「………怖いか」
「はい」
問いに、カイトはこっくりと頷いた。うるんと瞳が潤み、掻き合わせた服を握る手に力が込められる。
「だって、………だって、服を脱いだら………胸がないの、わかっちゃう………!」
「………は?」
掠れ震える声で吐き出された懸念に、がくぽはぴたりと動きを止めた。
極力表情を消しつつ、しかし胡乱にカイトを見下ろす。
カイトのほうは、がくぽを見られない。すんすんと洟を啜りながら、可能な限り体を丸めようと足掻いた。
「胸が全然、まるくなくって………ぺったんこで………僕が、男だって」
「――そんなものは、脱ぐ以前からわかりきっているが」
ひとの耳目を節穴だとでも思っているのかと、がくぽは微妙な声音で訊く。
カイトはぐすりと、一際大きく洟を啜ってがくぽに視線を向けた。
「ちがうもの………っ。ふ、服を着てて、男だろうなって思ってるのと、ほんとに男なんだってはっきり目にするの………ぜんぜん、違うんだからっ」
「……………ふぅん?」
懸命に言い募るカイトに、がくぽは瞳を細めた。どこか冷たい光を宿して、怯えるカイトを見下ろす。
「どこの男に、そう言われた?」
「レンくんが」
「五魔女の末娘が?」
「いえあの、末『娘』じゃなくて、レンくんはおとこ………」
「そこはどうでもいい」
「あぁう」
律儀に訂正しようとしたカイトだが、がくぽにばっさりと切って捨てられて呻いた。
力の入っていた体が束の間緩んで、がっくりと寝台に沈みこむ。
がくぽは屈むと、赤く染まるカイトの耳朶にくちびるを寄せ、とろりと舐めた。
「ぁ、んっ」
「で?どういう状況で、そんなことを言われたのだ、そなたは?」
「ぁ、あ………ひゃぅんんっ」
耳朶をとろとろと舐めしゃぶられ、時に甘噛みされながらの問いだ。カイトは言葉にもならずにただ喘ぎ、服を掻き合わせていた手をがくぽに回した。
悪戯をするがくぽの服を掴むと、抵抗するような引き寄せるような、惑い揺れる動きを見せる。
がくぽはそろりと、無防備になったカイトの服へ手をやった。今度は性急に開くようなことはせず、隙間から手を差し込んで肌を撫でる。
カイトがぺったんこだから見るなと、怯えた胸を。
「ぁ………っ」
「カイト。答えろ。どういった状況だったのか、答え如何によっては、このあとが多少、変わるぞ。そなたとて、無闇と苛まれたくはあるまい?」
「ぁ、あ………っんっ、んんっ」
――本当に答えを求めるなら、一度手を止めて欲しいと、カイトは恨みがましくがくぽを見る。
未知の経験なのだ。初めての。
がくぽは馴れていくらでも話せるようだが、カイトは無理だ。ましてやがくぽの手は馴れていて、カイトの弱点を探り当てることに苦労もしない。
それこそ、どういう状況でこういったことを巧みにしていったのか――
「れ、レンくんが………女の子に間違われて、男のひとに声を掛けられたときに………だったって。だからカイトも、男のひとに声を掛けられるようなことがあったら、………って」
「………ふぅん?」
喘ぎ喘ぎ説明したカイトに、がくぽは微妙に視線を逸らした。
ひとに因る。
どういう状況だったのか今ひとつ不明だが、ある意味でそのときのレンは幸運だったのだ。男だと証明して、相手が引いてくれたというのなら。
確かに女性といえば胸が膨らんで丸いものだが、生まれたときからふくよかなわけではない。ある程度の年までは、男女の別なく断崖絶壁だ。
そして殊更に、そういった相手を好むものもいる。男でも女でもかわいければ構わないという手合いもいるし、男であってもこうまで愛らしいならいいという――
「だから………」
「そなた、少し手を貸せ」
「え?ぁ………っふゃんっ?!」
貸せと言ってすぐさまカイトの片手を取ったがくぽは、無造作に己の下半身を探らせた。
俗世と離れた森の中で箱入りに育てられていたのか、年頃に見合わない初心な反応を見せるカイトだ。
家族だというのは五魔女で女ばかり(*註:一部誤解)だし、大人の男というものをよく知らないようでもある。
そのカイトの手に、がくぽは触れないままに兆した、大人の男のものを撫で擦らせた。服地の上からだが、感触の異様さはさすがに伝わる。
「ぁ、あっ、ふゃっ、やんっ!ぁ、ごりごり、………っっ」
真っ赤に染まりきったカイトは、最終的には言葉を失った。興奮が過ぎて、ようやく息を継ぐだけになる。
がくぽが動かすままに撫で回しているだけで、カイト自身はなにもしていない。
しかしカイトの幼く、まだやわらかさを残した手が触れているかと思うと、がくぽの雄はますます硬さと容量を増した。
その様ももちろん、撫でさせられるカイトの手にはつぶさに伝わる。
「がく…………さ、ま………ぁ」
「………興奮しているだろう?そなたを組み敷き、体を開いても鎮まるどころか、いや増すばかりで苦しい。これでもまだ、己が男だからと抵抗するか?」
「ゃあん………」
怯えを浮かべていたカイトの瞳が熱と甘さを取り戻し、うるんと潤む。無理やりに撫でさせられる男のものへ視線を投げ、こくりと唾液を飲みこんだ。
「ん、がくぽ、さま……………」
「………良さそうだな」
とろんと蕩けた声で呼ばれ、がくぽは笑った。手を離すと、しばらく惑ったカイトは結局、がくぽの背中に縋りついた。
ぴたりと体が密着して、がくぽの笑みは多少の苦みを帯びる。
かわいらしいから縋りつかせていてやりたいが、これでは動けない。服を開き、この初心な体の隅から隅まで愛おしみ、啼かせてやりたいというのに。
「カイト」
「ん、ぅ…………っは、んんっ」
だからと無理に離すことはなく、がくぽはカイトのくちびるにくちびるを重ねた。舌を伸ばして口の中にねじ込むと、カイトはまだ馴れないながらに懸命に、応じようとする。
そうまで愛おしさを掻き立ててどうすると心中ひそかに慨嘆しつつ、がくぽは容赦なくカイトのくちびるを貪り、弄り、漁った。
「ふ、ぁ………っ」
「ふ………」
ややして、呼吸がうまく継げないカイトの体からかくりと力が抜け、縋りついていた手も背中から滑り落ちる。
愛らしさを堪能したうえで自由を取り戻したがくぽは、うっそりと笑って身を起こした。
「んぁ………」
「飲め」
「ぁ………」
溢れる唾液に口をもごつかせるカイトに、がくぽは命じる。声音はやさしいが、厳然としたものを含んで拒絶を赦さない。
領主として培った威力を無為に発揮しつつ、がくぽは薄く開いたカイトのくちびるを撫でた。
「飲みこめ、カイト。俺のものだ。俺の妻となる以上、拒むな」
「ん、ん………っっ」
言い聞かせられながら軽くくちびるを押され、カイトはぶるりと震えた。甘さを増した瞳が霞み、くちびるが閉じる。
こくりと、嚥下した咽喉の動きを認め、がくぽは瞳を細めた。
「いい子だ」
「ん、ぁ………っあ、ふゃ………っ」
くしゃりと頭を撫でてやり、がくぽは微笑みながらカイトの口周りを舐めた。溢れて飲めなかった分の唾液を、獣じみたしぐさで、けれど丁寧に舐め取ってきれいにしてやる。
「ん、んふ………っ、ぁ、くすぐ………っぁ、………っ」
カイトは首を竦め、あどけなく笑う。
その腕が再び背中に回る前に、がくぽはさり気なく身を起こした。自由を確保したうえで、やわらかく解けた相手をつぶさに眺める。
カイトが懸命に掻き合わせた服も再び乱れ、あえかに覗く肌は薄い色に染まって艶めかしい。幼くとも快楽に染まって蕩ける表情とも相俟って、醸し出されるのは思いもしなかったほどの色香だ。
「危ないな」
意識してか無意識か、がくぽはぽつりとつぶやいた。ともすれば募り過ぎる興奮を抑えようと、ちろりとくちびるを舐める。
「やはり今後、外に出すときには薄絹で顔を覆わせようか。首から腕から足まで、肌のすべてを隈なく隠す服を着せて………」
「ふ、ぁんっ?!」
つぶやきながら、がくぽは再びカイトに沈む。
抵抗の間もなく、開いた服から覗く乳首にちゅっと吸いつくと、骨が当たるほど薄い胸にてろりと舌を這わせる。
びくりと跳ね上がったカイトをそれとなく押さえて、がくぽはゆっくりと、しかし熱心に胸を舐め、撫でた。
そうしているうちに、最初はぺたりと薄いだけだった胸に、ぷくりとした尖りが出来る。
「ぁ、あ、ふぁ………っぁ、や、ぁんっ………ぁ、むずむず、するぅ………?ぁ、がくぽさま、に………ちゅって、吸われると………むずむず、する………っ」
「………ふぅん?」
快楽に凝った乳首を舐められ吸われ、カイトは湧き上がる衝動に暴れるようにもがく。
難なく抑えこんで薄い胸と、そこにぷくんと勃ち上がった乳首をしゃぶるがくぽは、しらりとした目で惑乱するカイトを見た。
「むずむずする、か、カイト?吸われると?どこを吸われると、そなたの体は疼く?」
「ふゃ………っ」
さんざんしゃぶられ、濡れそぼったところで息を吹きかけながら訊かれ、カイトは腰を跳ね上げさせた。
苦痛ゆえではなく、過ぎる快楽ゆえの涙目でがくぽを見返し、きゅっとくちびるを噛む。
もごもごと口の中で言葉を転がしても、恥じらいからなかなか音として出せない。
わかっていてがくぽは笑い、すっかり勃ち上がった乳首を爪先でぴんぴんと弾いた。
「んっ、ぁ、ゃあっ………っ」
噛んでいたくちびるがあえなく開き、カイトはかん高い声をこぼす。
がくぽはますます満足げに笑い、弾いたものを今度はつまんで軽く捻じった。
「ゃ……っ」
「カイト。言えばきちんと、気持ちよくしてやるぞ?そなたが、ここがこう気持ちいいのだと言うなら、俺はさらに触れて、舐め、そなたを天にも昇る心地にさせてやる。ほら………」
「んんっ、ぁ………っ」
指の腹で押し潰すようにされ、離れてすぐにぷくんと勃ち上がったところで、つままれる。やさしくやわらかに揉まれたかと思うと、捻られ、倒され――
「ぁ、あ………っむ、むね………っむね、きもち、い………きもちい、の………きもちい、です、がくぽさま………ぁ……っ」
「………惜しいな」
甘い声で降参を叫んだカイトだが、がくぽは微妙に苦笑いした。期待を含んで潤みながら見つめるカイトに屈みこみ、熱くなった耳朶を食む。
「っぁあ……っ」
「『胸』、か?気持ちいいのは、胸のすべてか?『どこ』が気持ちいいのではなく、胸の全体が気持ちいいのか、カイト?」
「………っ」
そうでなくとも染まりきっていたカイトだが、促される言葉に思い至って、さらに赤みを増したように見えた。
ぱっと瞳を見開くと、答えを口にするカイトをつぶさに眺めようと体を起こしたがくぽを認め、こくりと唾液を飲みこむ。
咽喉の動きが艶めかしく映り、がくぽはちろりとくちびるを舐めた。
興奮が過ぎる。
抑えよう抑えようと思っても、思う端から決意は打ち砕かれ、煽られる。
「………仕様のない」
相手が無意識で、意図していないことがこの場合、さらにまずい。意図しているなら興醒めの隙もあるが、まったく天然で、男を煽ることもわからずに振る舞っているのだ。
初心さの度合いが知れて、酩酊が深まることあれ、興醒めることがない。
「カイト。強請れ。――誕生日なのだろう?祝いだ。妻と成すだけでなく、強請るなら、強請るものは強請るだけ、より以上に呉れてやる」
「………っ」
唆され、カイトは羞恥に歪んだ表情のまま、くちびるを開いた。すぐには言葉にならず、口は虚しく空転する。
がくぽはやわらかな表情に、瞳だけは逃がすまいとする鋭い光を浮かべ、幼い相手の懊悩を愉しんだ。
ややして、カイトはこくりと唾液を飲みこむ。
「ち……くび………………ちくび、きもちい、です…………がくぽさまに、ちくび、吸われると………きもちい、です………っ」