「いい子だ」

「ひゃぁんっ」

威力ある美貌を満面の笑みで蕩かせて即座に褒めてやり、がくぽは再びカイトの胸に吸いついた。

自分が口にした言葉で羞恥が募り、感度が上がったカイトは悲鳴に近い嬌声を上げる。

ÉGÉRIE-05

ぷくりと膨れたままの乳首に吸いついたがくぽは、小さな尖りに舌を絡め、引き上げた。

「っぁ、あ、ふや、ぁあうっ、がくぽ、さま、っぁ」

指でつままれるのとはまた違った感覚に、カイトは暴れるように身悶えた。縋るものを探して惑った手が、胸に埋まるがくぽの頭を掻き抱き、長い髪をくしゃくしゃと乱す。

「こら」

苦笑してわずかに口を離したがくぽは、叱声も届いていなそうなカイトの様子に、眉を跳ね上げた。

笑みが苦みを失い、歪みを伴って悦楽に染まる。

頭を振ってカイトの手を振り払うと、がくぽは体を起こして悶える相手を眺めた。

「………にしても、感度が良過ぎるがな俺の手管が優れているにしても、ここで初めからこうまで悶えさせるのは、至難の業だが」

「ぁあんっ、ぁ、ふゃあぅっ」

つぶやきながら、がくぽの指はもう片方の乳首をこねくり回し、カイトを涙とともに悶えさせる。

「それほどの手業だと、男をつけ上がらせるか………さもなければ、だらしのない淫売かと、疑念を抱かせるか………。どちらにしろ、危険に変わりはない。愛らしさが募れば募るほど、つけあがっても疑念を抱いても、待つのは酷い結末だ」

「が、くぽ、さまっ、ぁ……っ」

悶えさせられ、息も絶え絶えになったカイトは縋るものを求め、がくぽに手を伸ばす。

過ぎれば快楽も苦痛だ。

どこか悲痛でもある表情に、がくぽは瞳を細めた。浮かべる笑みがやさしさを伴い、求められるまま体を倒す。

「そなたを見初めたのが俺だったのは、幸運だぞ、カイト双方にとってな。俺は仮定の未来であれ、そなたが酷い目に遭って泣くさまは見たくないし――酷い未来を、そなたは永遠に仮定のままにしておける」

「ぁ、あ、ふやぁっ!」

濡れて尖る乳首を再び含まれ、舌を絡めて強く吸われた瞬間に、カイトは一際かん高い声とともに大きく体を跳ね上げた。

陸に揚げられた魚のようにしばらく痙攣していた体は、ややして力を失くして寝台に沈む。

「………達ったのか」

さすがに呆れた色を含んでつぶやき、がくぽは体を起こした。寝台に沈んでもあえかな痙攣を残しているカイトの下半身を眺め、ちろりとくちびるを舐める。

触れてもいない。服を解いてすらない。ましてや初めての相手――

蕩けきった挙句に今にも眠り込みそうに見えるカイトへ束の間視線を投げ、がくぽはまた、下半身に戻った。

「そなたがひとでないのは、僥倖だ」

笑うと、がくぽは体をずらした。伸びた下半身に手を伸ばし、巻き布と膝丈の下穿きに覆われたそこをやわらかに撫でる。

「んっ、ひゃっ?!」

「仕様のない子だ、カイト。初めてはきちんと、口で啜ってやろうと思っていたのに」

「え、え………っ、ぁ、っっ」

一度快楽を放出したことで、霞んでいたカイトの瞳に多少の理性が戻っている。

笑って腐すがくぽに淀みなく巻き布を解かれ、下穿きを剥ぎ取られて、慌てて体を丸めようとした。もちろん赦すがくぽではなく、細い足首を掴むとかえって大きく、股を開かせる。

「ゃ、あ………っ!」

「ほら、見ろ。こうも濡れそぼって………そなたが粗相した痕だ。ひとりきりで極みに達するなど」

「ふぇ………っ」

足首から手を滑らせ、なめらかで気持ち良い肌触りと肉づきの太ももを掴むと、がくぽは軽く持ち上げた。大きく開かせた場所がカイトにも見えるようにして、詰るようにからかう。

白く粘ついて汚れる場所を否応なく見せられ、カイトはくしゃりと顔を歪めた。嗚咽とともに涙を飲みこもうと、両手で口を覆う。

幼い顔が悲痛に染まっていることにも構わず、がくぽは掴んだ太ももにてろりと舌を這わせた。

「っひぁっ」

「自分がしたことの意味は、わかっているか他人と肌を重ねたことがなくとも、己ひとりで慰めたことくらいは、あろう?」

「………っ」

心地よさに堪えきれず、締まっていながらやわらかい肉にかぷりと牙を立てたがくぽに、カイトは言葉もなく引きつった。

それが、咬まれたことに対する反応なのか、問われたことに対してなのか――

陶然と初心な相手をいたぶっていたがくぽだが、胡乱な表情になった。太ももからは口を離さないまま、ふっと目線だけ、カイトから離す。

「まずい予感がするな」

ぼそりと吐き出すと、がくぽは殊更にやさしい笑みを浮かべた。すでに幼いカイトよりさらに幼い、走ることもままならないような年頃の子供に向ける、笑みだ。

有り体に言って胡散臭いことこのうえない、誑かす気満々の、大人の。

しかしカイトが幼い証に、向けられたやさしい笑みを見て、強張っていた体は覿面に緩んだ。

がくぽはそのやさしい笑みまま、ちょこりと首を傾げた。太ももから口は離さない。気持ち良いので、このまま生涯離したくない。

意外にかわいいしぐさで諸々の矛盾に満ちた行為を誤魔化し、がくぽはカイトを見つめた。

「自分がどうなったか、なにをしたか、意味はわかっているなこれまでに己でこうして、男としての慰みをひとりで行ったことは………」

「………っ」

「……………………」

一言ひとこと、噛んで含めるように訊いたがくぽに、カイトは表情を目まぐるしく変えた。変えたが、一言に集約も出来る。

羞恥一点張りだ。

変化をつぶさに観察し、がくぽは再びげっそりとしてカイトから目線を外した。

「まずい予感が的中なのか」

「ゃあ………っ」

独り言でも吐き出せば、口が動く。息も掛かる。

達したことで敏感に尖る肌の、それも際どいところすれすれに触れているのが、がくぽのくちびるだ。

束の間緩んだカイトの体だったが、刺激に震えてまたもや強張った。

がくぽは構うことなく、カイトから目線を外したまま、締まっていてもやわらかさのある肉をはぐはぐと甘噛みする。

甘噛みしながら、得た結論に多少頭を悩ませた。

問いに対して、カイトは羞恥一点張りで答えた。疚しい表情は見せなかった。

つまり、カイトが性行為に及んだことがないのは、相変わらずだ。男も女もどちらも、カイトの体を開いたことがなく、カイトが誰かの体を開いたこともない。

が、もっと言うなら、カイト自身が己の体を開いた――触れたことも、ない。

成長期の子供というのは、千差万別だ。男女の別も、年齢を計るにも苦労する。

性徴も同じだ。早い子供は早いが、遅い子供はそれこそ、身も心も大人になりきらないと訪れない。それで悩むこともあるし、環境によっては自分がひとと違うことに、まったく気がつかず――

「いかん。こんなことをしている場合ではない」

「んっ、ぁ、ああぅ、ゃあん、がくぽさまぁ……っ」

はたと我に返り、がくぽは慌ててカイトへ目を戻した。正確に言うと、白く汚れた場所へ。

つい先ほどまで、達したことで、カイトの性器はしんなりと力を失っていた。しかし考えに沈むがくぽに容赦なく太ももを甘噛みされて刺激され、幼い色かたちのそこは再び、頭をもたげようとしている。

なにかへの義理立てのようにうっすらと生えた繁みから、わずかに覗くそこに、がくぽは躊躇いなく頭を沈めた。

「っぁ、あ、ぁあぅっ?!」

カイトはびくりと腰を跳ね上げ、反射の動きできゅっと股を締めた。かえってがくぽの頭を閉じ込め押しつけるような形になって慌てたが、力を抜くことが出来ない。

じゅるじゅると、なにかを啜り舐め取る水音が響く。

音だけなら、カイトもそうまで慌てない。しかし音ともに、肌を舐める舌の感触がある。一際敏感で弱く、達したばかりで神経が尖っている場所を。

見せられた記憶を辿れば、そこはカイトが吐き出したもので白く汚れていた。

「ゃ、やぁ、がくぽさま………っ、め、だめぇ………っ」

刺激が強過ぎて、カイトは自分の体を統御することが出来ない。太ももを開かなければがくぽの頭が出て行けないと思うが、突き上げる快楽に堪え切れない体は丸まろうとして、まったく力が抜けない。

「ぁ、お、ねが………おねが、め………だめ、め………そんなの、なめちゃ………っぁ、ふぁあっ?!」

それでも懸命に体を起こし、がくぽの頭を剥ぎ取ろうとしたカイトだが、すぐに寝台に崩れた。

汚れを舐め取っていたがくぽのくちびるは、刺激に兆したカイトの性器を躊躇いもなく含んでいた。

「ゃあ、あ………っぁあっ!」

「……っ、ふ、ん………っ」

悲鳴に近い嬌声とともに、やわらかな体が限界まで背を仰け反らせる。同時に迸るものがあり、がくぽは眉をひそめた。

束の間苦しげな表情になったものの口を離すことはなく、がくぽはそのまま、カイトが迸らせるものを素直にこくりこくりと飲みこむ。だけでなく、治まった放出のあともじゅるりと音を立てて吸い上げ、最後の最後まできれいに絞り取った。

「っ、ぁ…………っ、あ、………」

「……………まあ、手淫も知らぬでいきなり口淫では、刺激が強くて仕方あるまい。なにより記念すべき『初めて』も、きちんと味わえたしな。相殺としよう」

含んだ瞬間に吐き出され、いくらがくぽでも覚悟も用意もなかった。体を起こすと軽く咳をくり返し、微妙に気管に掛かった分を治める。

力を失って寝台に沈んだカイトは、ひくひくと下半身を痙攣させながら呆然としている。微妙に合わない目線と、薄く開いたくちびるからとろりとだらしなくこぼれる唾液を認め、がくぽは笑った。

「やはり敏感に過ぎる」

軽く意識を飛ばしたらしい。未知の経験で、立て続けの二回。

刺激が強いことは確かだが、カイト自身の素養もある。

いくら性徴が早くとも、初めてでは感覚が追いきれず、快楽を快楽として処理出来ない。いくら手管を尽くしてやっても、戸惑うままに終わることも多い。

そして戸惑う行為は後々の遺恨となり、生涯の傷になることもある。

だから婚姻年齢が十四歳からとなっていても、大体の領民はもう少し、人間が成熟するまで待つのだ。

よほどの慌て者か、跡継ぎを危急的に要する領主でもなければ――

「あまり敏感でも、憐れは憐れだが」

つぶやいて、がくぽはうっそりと笑った。

明かりに不自由しない領主の屋敷は、寝室までもが昼間のように照らし出されている。意識を飛ばすカイトも明々と、肌を濡らす汗までつぶさに見える。

そうまで明るい部屋の中でも、がくぽの笑みは翳りを帯びて暗く、沈んでいた。

「誰が相手であっても、そなたは酷い思いをするようだ。年頃の乙女が夢見るように、甘ったるく相手をしてやろうと思ったが、どうにも堪えが利かん。中途で止めてやることも、出来そうにない」

聞こえない相手にささやいて、がくぽは身を屈めた。しどけなく伸びたカイトの足を掴むと、生涯触れたままでいたいと望むほど、心地よい感触の太ももにくちびるを当てる。

意識があるときには、がくぽのやることなすことに逐一反応して、筋肉が引きつったり緩んだりした。それもまた、愉しかったのだ。

今はただ、がくぽのなすがまま、反応の一切がない。

肉はやわらかく、体臭が甘く、牙を立てればうっかり食い千切ってしまいそうだ。

「唯一幸いというなら――酷い思いをさせるのが、俺だということだ。そなたを泣き喚かせるのが俺以外の男でなく、俺であるのは僥倖だ――あくまでも、俺にとってだけだが」

ため息のように吐き出すと、がくぽは掴んだ足からカイトの腰を浮かせ、自身も太ももを辿ってさらに極みへとくちびるを滑らせた。