「ゃ、や………うそ、つきぃ………っがく、がくぽさまの、うそつきぃい………っ」

寝室に響くのは、カイトの泣き声だ。ぐずぐずと洟を啜りながら、カイトはがくぽを詰り責める。

ÉGÉRIE-07

誕生日の祝いだと、なんでも願いを聞いてやると言って、同じ口で、痛くて怖い思いをさせると言った。物覚えの悪い子には、お仕置きをすると。

カイトは首を反して、背後のがくぽを睨む。潤む瞳は甘く蕩け、景色は霞んで映さないのに、どうしてかひどい『ウソツキ』の姿だけは、くっきり見えた。

きれいなものなら、姉妹で見慣れている。姉妹は、末の弟も含めて全員美人なのだ。

そのカイトですら、うっとり見惚れずにはおれないほど、突き抜けてうつくしいひと――

美しいけれど、ひどい男。

「いた、いたくて、こわいって、……………うそつきぃい………っひどぃい………っ」

「そうだな」

詰られて応えるがくぽの声は、悦楽に歪みながら微妙な色を含んでいる。

気がつくことなく、カイトはきゅっと敷布を掴んだ。

「きもちぃ………っ、きもち、い、すぎて………っヘン、なっちゃぅうっ………おしり、あつくて、とけちゃぅよぉお…………っ」

「……………そうだなあ」

――痛くて怖い思いではなく、おかしくなりそうなほど気持ち良い目を見させて、詰られるがくぽも微妙だ。

しかしこの場合、がくぽが微妙な気分に陥るのは、それが理由ではない。

事の初めから、カイトはずっと、初めてとは思えないほどに敏感で、よく蕩けて反応した。

普通なら馴れた淫売の可能性を疑うところだが、そもそもカイトは人間ではない。言うことの推定からだが、確証はあった。

封じ森にしろ、五魔女の係累にしろ、騙ることは出来ない。

不可分というものがあり、不可侵があり、それはひとの掟や気まぐれに左右されない絶対領分だ。

語れる以上、カイトは封じ森産で、五魔女の係累――人間ではない。

ゆえに、予想はあった。

もしかしたら、初めてであっても、がくぽを苦痛なく受け入れるのではないかと。

カイトを詳しく知るわけでもなし、あくまでも推定だったので、躊躇いがあったのだ。十分に時間を掛けて馴らしてやらなければ、痛みと恐怖で泣き喚くのではないかと。

最悪の場合、二度とがくぽを、甘く蕩けた瞳では見つめてくれないかもしれないと。

途中で止めることは出来なくても、躊躇いがあったから、泣かれても強請られても、もう少し時間を掛けようと思っていた。

が。

「どちらにも杞憂で歓びのはずなのに、どうして俺は責められ、また、微妙な気持ちになるのだろう……」

「っひ、ぁ、ゃああっそこ、だめぇっぐりぐり、あてないでぇっ!」

考えに沈むと、がくぽは責めが酷薄になる傾向にある。領主として幼いころから、気を抜いているときにも護身と保身を忘れるなかれと、叩き込まれたせいだ。

気を抜いているときこそ危険だから、かえって手加減や容赦をするなと。

だが概ね言うと、がくぽ自身の素養のせいもある。どちらかといえば、嗜虐傾向なのだ。

慨嘆して遠い目になったがくぽは、カイトの弱いところを容赦なく抉り、突き、擦る。

寝台に俯せで転がったカイトは、過ぎる快楽に悲鳴を上げてじたじたともがいた。もがいても、しっかりと腰を抱え込まれ、楔を打ち込まれている。

力の差と体格の差と、与えられる感覚と、逃げられる要素が一切ない。

勢いよく抉られるたびに、カイトの薄い腹は形を変える。がくぽのものは、馴れた女性でも項垂れることがある代物だ。

やさしくゆっくりと動いたところで、本来なら初物であり、しかも男のカイトでは受け入れ切れない。

「んんっ、や、や………っぁ、イっちゃぁ………っまた、また、イっちゃぁあ………っ」

「ん、っつ、………」

腹の中でももっとも弱いところを容赦なく責められ続け、カイトはぶるりと震えた。がくぽを受け入れている場所がきゅうっと締まり、きつく絞り上げる。

刺激ではたと我に返り、がくぽは眉をひそめた。

カイトの背中が反り、痙攣をくり返す。受け入れこそやわらかかったものの、がくぽのものにまとわりつくように吸いついて締め上げる襞が、収縮をくり返して限界を誘う。

「………っ」

「ぁ、あ…………あ、ぅう………っ」

ぱたりと力なく寝台に崩れたカイトに、がくぽは動きを止めた。

誘われたからと、早々に果てる気はない。男としての甲斐性や矜持もあるが、実のところ挿入してからそれほど時間が経っていない。

やわらかいだけでなく、カイトは敏感だった。相変わらず。

まずは挿れられた刺激で達し、弱いところを初めて突いてやったときに、その刺激で達した。

程がある。

先には身が持たないと説いたがくぽだが、それでもカイトは達し続ける。

細く小さな体に見合わず頑丈なのか、人間ではないからなのか――

「ん、んんぅ………」

敷布に埋もれて、カイトはぐすりと洟を啜る。恨みがましく、がくぽを横目に睨んだ。威力はない――いや、ある。

男を誘って煽り、興奮させるという、どうしようもない方向での威力は。

「まだ、かたい………あっつい……………ん、きもち、い………」

「そうか」

男で、初めてだ。せめてもの負担の軽減にと、がくぽはカイトを俯せにして貫いた。

顔が見えなくて怖いと、でも 『お仕置き』なのだから怖いのも我慢すると、ぷるぷる震えながらも健気に堪えるカイトの姿は、それは愛らしく――

「きも、ち、い……の………がくぽ、さま………とけちゃ………おしり、とろとろになっちゃ………」

今は違う。ぷるぷると震えるのは、過ぎる快楽にだ。痛いのも怖いのも健気に堪える気だったらしいが、過ぎる快楽は未知の体験で、堪えようがないらしい。

おかげで気持ちいいと自覚した瞬間からずっと、がくぽは責められ続けている。

どうだと思うが、実のところ愛らしい。愛らしさゆえに、もっと責めさせたくなる。

こんなに気持ちいいのはひどい、と。

「すでにとろとろだと思うがな」

「ぁあぅ……っ」

身を屈めたがくぽは、睨むカイトの眦にくちびるを落とす。屈んだことで中のものの角度が変わり、カイトは震えながら呻いた。

きつさを帯びていた瞳が甘く蕩け、惚けてがくぽを見つめる。

がくぽは微笑んでやり、カイトの顔をついばむようにくちびるで辿った。

「早く終わらせて欲しいかもう気持ちいいのは、厭か?」

「ん、ぁ………っ」

問いに、カイトはきゅっと体を竦ませた。がくぽを受け入れている場所ももれなく、きゅっと締まる。

可能な限り体を丸めてから、カイトはそろそろとがくぽを見上げた。

「……………やだ」

「…………」

主語がない。どちらとも取れる言葉に、がくぽは続きの言葉を待った。

羞恥に顔を歪めたカイトは、きゅむっと敷布を掴む。

「終わり、や………がくぽさま、うそつき、だけど……………気持ちい、ほうが、………すき」

「ふぅん?」

鼻声で応え、がくぽは体を起こした。支えていてやらないと崩れるカイトの腰を抱え直し、殊更に奥まで押し込む。

「っぁ、ふやんっ!」

「気持ちいいか、カイト妻として、俺に貫かれ、抉られ、突かれるのは?」

「ん、ん………っ」

奥に押し込まれたまま、腰を揺らめかせられる。カイトはきゅっと目をつぶり、懸命に堪えた。

しかし結局堪え切れず、敷布を掴んでもがく。

「きもち、い………っきもち、い………です………がくぽさま、の………きもち、い、すぎて、おしり、とけちゃう………っ、からだ、ぜんぶ、とけちゃう………っ」

「そうか」

頷くと、がくぽはにっこり笑った。俯せのカイトには見えない。

構うことなく、腰を引く。

「ん、ぁあ………っ」

ずるりと襞を引きずられる感触に、カイトは背を仰け反らせた。ひくひくとくり返される痙攣に、肩甲骨が羽根のように浮かび上がる。

このまま羽が生えて、飛んでいきそうだ。

「では、終わりにしよう」

「え、ぁ、ひゃぁああんっ!」

浮かんだ考えを振り払うように勢いよく腰を打ち込み、がくぽは告げる。カイトが問い返す間もなく、がくぽはそのまま、きつく腰を打ち込み続けた。

奥に押し入るたびに、腰骨が浮くほど薄い肉づきのカイトの腹の形が歪む。

「や、や………っおなか、おなか………っこわれちゃ………ぁ、こんなはげし、の、こわれちゃ………っ!」

「痛いか、カイト怖いか?」

上がる悲鳴に、荒くなる息の合間にがくぽは問いを投げる。

激しい動きに鞭打たれるようにしなっていたカイトは、ぷるぷると首を横に振った。

「きもち、い…………っきもちい、の………っはげし、の………きもち、い………っあつくって、おしり、とけて………おなか、ぐちゃぐちゃ………こわれそ、なの………きもちいい………っっ」

「………っっ」

叫んだ瞬間、カイトの背が一際反る。細く小さな体が痙攣をくり返し、がくぽを押し包む場所がきつく収縮した。

今度は堪えることなく、がくぽも誘われるままに欲望の丈を吐き出す。

「ぁ、あ………っあっついの………っおなか、あっついの………でてる………っっ」

「カイト」

「ぁ、まだ………まだ………ふぁ、いっぱ………や、おなか、いっぱぃ…………っ」

堪えに堪えて吐き出したにしても、量が多かった。

間歇的に吹き出すものはすぐにカイトの腹を膨らませ、吐き出しきろうと動くがくぽに合わせて、ごぽりと溢れ出す。

「ひぁん……………っ」

「………俺まで釣られたか」

さすがに呼吸を荒げながら、がくぽは眉をひそめた。痛いほど、吐き出した。こんな経験は、そうない。

「悩ましいものを手に入れたものだ」

「ぁ………っぁ?」

疲れたように嘯きながら、がくぽは腰を下ろす。ついでに寝台に沈むカイトを抱え起こして、膝に乗せた。

挿れたままだ。

腹の中に出された衝撃で惚けていたカイトは、胸に抱え込んだがくぽを揺らぐ瞳で見つめた。

「がくぽ、さま……」

「なんだ?」

素知らぬ顔で訊くと、カイトは爪先で虚しく敷布を掻いた。腰から下がすでに、うまく動かせないらしい。

ぐすんと洟を啜ると懸命に体を反し、がくぽの首に腕を回す。縋りついて、おねだりをするねこのように顔を擦りつかせた。

「ふか、……これ、深い………です………お、奥の、奥まで………さっきより、奥まで、がくぽさま………」

縋りつくことでどうにか体を浮かせようとするカイトを軽く支えてやり、がくぽは微笑んだ。顎を掬うと、瞳を覗きこむ。

「痛いか怖いか、カイト?」

「ん、ぁ………」

問いに、カイトの瞳が陶然と蕩けた。おそらくは間近で微笑む美貌の威力もある。

ぷるぷると、首が横に振られた。

「きもち、い………です………奥………深いの、きもちい………がくぽさまの、で………いっぱいの、おなか………奥、されるの………きもち、い………っ」

「そうか」

「っひゃんっ!」

答えとともに、がくぽはカイトを支えていた手を離した。首に回ったカイトの腕も、力が抜けている。

せっかく浮かせた体があえなく沈み、深いところを容赦なく抉られたカイトは悲鳴を上げて仰け反った。

軽く達したことがわかっているがくぽは、きゅうきゅうと締め上げられながら、カイトの腰を掴み直す。

「そなたは困った子だ、カイト。どうやっても、仕置きが仕置きにならん。そなたにとって、仕置きになることを見つけるまで………いろいろ試さないといけないようだ」

「ふぁ………っ」

耳朶に吹き込まれる声は低く、どろりと蕩けて毒のようにカイトの思考を灼く。

惚けた瞳で見上げたカイトに、がくぽはとっておきに蠱惑的な笑みを向けた。

「そなたを俺の生涯唯一にして、絶対の妻とすると、約したからな。この程度で音を上げたりはしないぞそなたにとって最善の方策が見つかるまで、いくらでも付き合ってやろう。俺のかわいく愛しい、幼い妻………」