がくぽの味覚にとって、カイトは甘い。今はそこに、砂糖と脂肪の濃厚な甘さが混じっている。

不要以上に、はっきり言えば不快だ。素材ままが旨いものになにをしてくれると、猛烈に抗議したい。

素材ままが、至高にして極上品なのが、カイトなのだ。

早く元の『おいしいカイト』に戻すためにも、クリームを――

おかしのいえのおかしなふうふ-02-

「ふ……っ」

「ぁ………あ………っ」

ごくりと咽喉を鳴らしたがくぽは、力なく痙攣をくり返すカイトから体を起こした。満足の笑みに染まって、余韻に虚ろとなるカイトを眺める。

体のそこかしこに、未だしつこく白い汚れが残っている。悶えて乱れた挙句、溶けて落ちたクリームの上に横たわっているから、すべて舐め取るのは実際、至難の業だ。

それでも最初から見れば、ほとんど『カイト』に戻ったと言える。

「ふん」

汚れた口周りをべろりと舐めたがくぽは、非常にご機嫌だった。

途中で着物を脱いだがくぽも、体のそこかしこが白く汚れ、べたついている。心地よいとは言えない状態のはずだが、どう見てもご機嫌だ。いつもいつも周囲を項垂れさせ、泣かせる凶悪さが薄い。

機能的にはないのだが、酔っ払っているというのがいちばん近かった。

焦らされる以上に長く留め置かれ、苛まれてようやく達することを赦されたカイトは、軽い自失状態だ。意識を飛ばすほどではないが、動きが取れるわけでもない。名残りの快楽にひくひくと引きつっているものの、その程度だ。

憐れでもあり、突き抜けて淫らがましく、男の欲情を募らせずにはおれない。

それが己のものであり、なによりこうまで追い詰めたのが自分であることが、がくぽをこれ以上ない充足感で満たしていた。

結果として、酔っ払っているように見えるほど、ご機嫌だ。

ご機嫌たっぷりながくぽは、傍らに放置していたボウルに手を伸ばした。

残りのクリームを掴むと、無防備に開かれているカイトの下半身――足の間、奥まって隠された場所へと、無造作に突っこむ。

「ぅ、あ………っ?!」

自失状態だったカイトが小さく呻き、怠い体をひくりと引きつらせた。

狭くきつい窄まりの手前で手を開いたがくぽは、ほとんど溶けたクリームをそこに擦りこむ。

氷水に当てて固く泡立てたクリームは、常温で放置すればゆっくりと溶けていく。熱のこもった手で握れば、さらに溶けて――

それでも瞬間的には、冷たさが認識される。熱が篭もったところだから、なおのことだ。

「ぁ、あ、ぁ………っぁ、がく………っ」

刺激を与えられたところで、わずかに自失状態から脱したカイトだが、まだなにも終わっていない。

夫にのみ赦した場所に、その夫が、クリームを練りこんでいる。

ロイドと人間の体構造は違う。いくら男でも、カイトのそこは愛撫を施すことなく、やわらかく雄を受け入れることが出来る。

ただ、だからといって、女性のように濡れるわけではない。あるのはあくまでも、粘膜に必要な最低限の潤いだけだ。

塗りこまれたクリームは代用品となり、がくぽが指を抜き差しするたびに、じゅぶじゅぶと、聞くに堪えない水音を立てる。耳から犯されるにも等しい。

「ゃ、あ………っがく、ぽ………っ」

「一度、した後のようだぞ。俺が中に出してやって、貴様の腹を膨らませた後のような」

「ひぁ………っ」

前戯など必要なく、受け入れられるのがカイトだ。知っていても、がくぽはここで一度止まり、散々に弄び焦らして、カイトを泣かせることを好む。

泣きながら、欲しいと、入れてくれと強請るカイトが、殊の外お気に入りなのだ。

がくぽには元から嗜虐傾向があるが、この場合は多少違う。思いが通じないまま、体を重ねていた時期の名残りだ。

思いが通じ、カイトが自分を欲しがってくれていると、どうしても実感したくなる。

いれて、中に出して、おなかいっぱいにして――

熱に浮かされて強請られる言葉が、がくぽの心を満たす。カイトの言語選択能力というものがあり、時として過ぎるほどに漲らせられ、かえって項垂れることもあるが。

「まだ入れてもおらぬで、貴様も一度、出しただけだろうなのに、ほら………こうまで、はしたない音を立てて」

「っ………っ」

がくぽは愉しそうに言って、殊更にカイトの中を掻き混ぜる。いたたまれない水音に意識を持って行かれたカイトは、羞恥からきゅうっと指を締めつけた。

がくぽの笑みは淫靡さを増して、動きを阻害された指を中で曲げる。きつく、粘膜を押した。

「っぁ、ああっ!」

「抜かれたくないのか欲深に締めつけて………しかしいいのか指など、こんな細いもので満足できるのか、貴様もっと太く硬いもので、奥を突かれて飛沫を吐き出されぬで、極められる性質だったか」

「っん、んんっ、ぁ、あ………っ」

「………極められそうだな。まったくもって手の掛かる嫁だ。もう少し淑やかになるよう、躾けねばならんのか。………ああ、いや。それとも逆に、指を差し入れられた瞬間に極める体にしてやろうか。これ以上なく淫らで、はしたなく、あられもないように」

「ゃ、あ………っぁ、がく、ぽ……っ」

一度は起こした体を再び倒し、がくぽはカイトの耳朶にくちびるを這わせ、いたぶるように言葉を吹き込む。

それだけで達しそうなほどに痙攣しながら、カイトは懸命に手を上げ、がくぽの背中に回した。きゅううっとしがみつくと、嬲られて重く熱く痺れる腰をすり寄せる。

「ぁ、のね、あのね、がくぽ………っ、それ、おやぢ………管理職系………んと、かれーしゅー………な、かんじ………」

「ぁあ゛ん?!」

――覚束ない舌で吐き出された言葉に、がくぽは思いきり顔をしかめた。

もちろん『かれーしゅー』とは、カレー味のシュークリームのことではあるまい。漢字に直すに、加齢以下略。

がくぽの体臭の話ではない。そもそもロイドだ。加齢の概念からして、人間とは違う。

つまり、がくぽの言うことが若者らしくないと――言いたいのだろうが。

しがみつかれても力の差に物を言わせてもぎ離し、睨み下ろしたがくぽに、カイトはうっとりと蕩けて笑った。

「んと、んと………ゆび、だけで………いっちゃう、のが、いい………」

「あ゛?」

ほわんと朱に染まり、羞恥に瞳を潤ませながらも、カイトはうっとりとがくぽを見つめる。瞳は潤んでいつも以上に揺らいでいるが、まっすぐ素直に、がくぽを映す。

「が、がくぽ、に………ゆび、いれられたら、いっちゃうからだ………が、いい………。ぁ。ぅうんっ、えとっ」

「……………」

空漠の表情となったがくぽに、カイトはさらに朱に染まってあたふたと慌てた。冷やすように両手で頬を押さえると、横目で遠慮しいしいがくぽを見て、ぇへへと照れ笑いする。

「がくぽに、キスされたり………ちょっとさわられたら、いっちゃうくらい………えっちなからだに、されるのが………いい」

「……………………」

「ねいんらんえっちな奥さんに、………して、旦那さま………?」

「……………………っっ」

空漠の表情を晒していたがくぽだが、とうとうがっくりと項垂れた。情けないと言われようが、堪えられないものはある。

カイトの言語選択能力だ。

「き、さまと、いうやつ、は………っどうして、そう、悩ましい………っっ!!」

「がくぽ?」

これがからかっているだけなら、まだいい。もしくは、がくぽに媚びているのなら。

カイトはなぜか、がくぽが自分を嫁にするメリットに、裸エプロンしてやるだのなんだの、下半身的な条件ばかりを上げた。まだ確認していないが、もしかすると『がくぽ』に関して非常に失礼な、人権的問題にすら関わる誤解をしている可能性もある。

ゆえに、媚びだのなんだのでそちらの方向に走るのなら、まだ――ぎりぎり、許容しないでもない。早急な確認と、認識の誤りを正す必要はあれ。

しかしカイトは媚びでもなんでもなく、本気だった。本気で、『いんらんえっちな奥さん』にしてほしいと。

「畜生、堪え性のない俺の息子め………貴様に理性はないのか、惰弱な」

「えと、がくぽ?」

――概ね、男性が一心同体とするご子息に理性は存在しない。理性を保持すべきは、ご子息を統御する本体のほうだ。惰弱なと責めるなら、本体。

きょときょとんとするカイトは、がくぽの慨嘆がまったく理解できないまま、重みを掛けてくる相手の背中に腕を回した。足も上げて、間に挟む体をきゅうっと締めつける。

全身でしがみつくと、かりりと背中を掻いた。

「がくぽ、ねしつけ、して………いんらんえっちな奥さんに、………俺のこと、しつけて、旦那さま……」

「その前にまず、貴様の言語選択能力を躾だ!!」

「ふゎっ?!」

しがみつかれてももぎ離して体を起こし、がくぽは微妙に涙目で叫んだ。

「追い込むな加減しろ情け容赦という言葉を胸に刻め!」

「ええ……………えー……………?」

くり返すが、カイトにはがくぽの慨嘆が理解出来ていない。なにを言われて求められているのかさっぱりだが、がくぽはいつものように、ガラも悪くぎろりと睨み下ろした。

「返事は」

「えー……………ぁー……はぁい、ごめんねー?」

「良し」

誠実さの欠片もなく表面的に謝っただけのカイトに、がくぽは偉そうに頷く。さらに身を引くと腰を下ろし、転がったままのカイトへ顎をしゃくった。

「膝を立てて、足を開け。腰を浮かせ気味にして、手を尻に掛けろ」

「ふゃ?」

引き続いて偉そうなまま命じられ、カイトはつい、流れで従った。従ったが、言われるままにしていくうちに、一度は冷めた頬に熱が戻り、朱に染まっていく。

「ぁ、あの、がくぽ………っ?!」

「手を引くな。閉じるな。開け。俺を欲しがってひくつくさまが、つぶさに見えるように!」

「………っっ」

染まるのを通り越して爆発するように赤くなりながら、カイトは命じられるがまま、足を開いた。手も掛けて隠す肉を掻きわけると、ぷるぷると震えながら懸命に腰を浮かせる。

「こぼれているぞ、はしたない」

「ぁ、あ………っ」

こぼれているのは、がくぽが先に塗りこみ、擦りこんだものだ。指摘されたカイトは、きゅうっと目を閉じた。だけでなく、はしたないと叱られた場所もきゅうっと窄まる。

がくぽは笑い、舌なめずりするとボウルに手を伸ばした。最後のクリームを掴むと、すでに痛いほどに兆す自分のものに塗る。

響く音に目を開いたカイトに、がくぽは殊更に見せびらかすように握って振ってみせた。うっすらとしていたカイトの瞳が見開かれ、クリームを塗ったところで凶悪さも卑猥さも減じないものに釘づけとなる。

「どうしたい」

「ぁ………っ」

低く訊かれて、カイトはこくりと咽喉を鳴らした。怯えるように見開かれていた瞳が蕩け、閉じかけていた足が自然と開く。

腰を上げると掛けた手をさらに奥に滑らせ、夫のみに赦す場所を広げた。

「いれて………いっぱい、かきまぜて………せーえき、なかに、だして………」

「………」

思う通りに強請られたが、がくぽはわずかに眉をひそめた。請われるままに伸し掛かりつつ、カイトを軽く睨み下ろす。

「『ミルク』」

「え?」

端的にこぼされたが、端的過ぎて意味がわからない。

首を傾げるカイトの足に手を掛けてさらに開かせながら、がくぽは笑った。

「今は『おやつ』中だろうが。俺だけでなく、貴様にも呉れてやる、カイト。たっぷり、腹が膨れるほど飲ませてやる。ゆえに………」

「あ………」

つまり、『言い換えろ』と言われているのだと、カイトも察した。

そうでなくとも蕩けていた瞳がますます甘く蕩けておねだりの色を含み、上目にがくぽを見つめる。

伸し掛かる体に手を回しながら、カイトはほんわりと笑った。

「がくぽ………おやつは、おなかいっぱい食べたら、だめなんだよお夕飯に響かないように、ちょっとだけ」

「ぁあ゛?!」

凄むがくぽに構うことなく、羞恥に染まったカイトは間に挟んだ体を太ももできゅうっと締めた。

「ぇと、ん。だ、旦那さまのえっちみるく、カイトのしたのおくちに、いっぱいのませてください………っぁ、ふぁあっ!」

言い切るかどうかというところで、曰くの『下のお口』にがくぽが押し込んできた。

いつもなら押しこんでも、馴れるまでしばらくは置く。小休止の時間があるが、今日は違った。

ほとんど待たずに、がくぽは腰を打ちつけ出す。

やわらかく受け入れても、それとは別に、きつく締まる場所だ。初めから激しくされても、応えきれない。

瞬間的に強張ったカイトだが、すぐに驚愕に染まって、慌ててがくぽにしがみついた。

「ゃ、あ、ぁあ……っぁ、ぅそ、うそ……っきもち、ぃ………っ、ぁ、すべる………っなか、………っ」

「クリームが利いているからな、貴様も俺も」

惑乱したカイトの叫びに、動きを緩めないままがくぽが答える。言うように、抜き差しをくり返す場所はすでに派手な水音を立て、互いに塗りこんだクリームが動きに合わせて飛び散る。

そうでなくとも、ホイップクリームは粘度が高い。溶けたとしても、原料のクリームからとろりと粘る。

漲っていつも以上に張り詰めるがくぽのものが激しく掻き混ぜても、なめらかな動きを助けてカイトにほとんど痛みを与えない。

さらに惑乱するカイトは、募り過ぎて苦しいほどの快楽にぼろりと涙をこぼした。

「ゃああ、め、だめ……っ、はげし、の………き、もちぃ、め………っおく、そんな、ずんずんついちゃ、めぇえっ!」

しがみついてなんとかがくぽの動きを止めようとしながら、同時にカイトの腰は律動に合わせて揺らぐ。貪欲に、さらなる快楽を得ようとするように、堪えようもなく。

「ぁ、あ、がく、がくぽ………っ、いっちゃぁ………っ」

「堪えろ。強請れ」

「ぁあひ………っ」

きつく腰を押しこまれ、揺さぶられる。仰け反ったカイトは、意味もない呻きをこぼして、首を振った。

「強請れ、カイト」

「んっ、ぁ………っ」

腹の中のものが限界だと、思考を飛ばしていてもカイトにもわかる。わかるが、がくぽは望みが叶うまではなんとしても堪えて、カイトも解放してくれないと。

責めるように、体を挟む太ももにきゅっと力を入れてから、カイトは痺れて覚束ない舌を懸命に繰った。

「だ、して………がくぽ、の………っおなかの、なか………なかに、だして、みるく………っ」

「良し」

苦鳴に似た応えとともに、がくぽは限界を超えた熱をカイトの腹に吐き出した。