Today's Fortune : You're So Lucky!
リビングの座卓の前に仲良く並んで座り、がくぽとがくは朝のお茶を啜る。その座卓を挟んで向かい側に、マスターがべたんと座った。
「ぁよー、がくぽに子がくぽ」
あくび混じりの朝の挨拶に、がくぽとがくは茶碗を置く。
「今日も起きてしまったか、マスター」
「今日も目覚めてしまったのだな、マスター」
「いや待って、なにその不吉な朝のご挨拶………」
戦慄するマスターに構わず、がくぽとがくは淡々と続ける。
「「というわけで、今日のラッキー占い」」
「え?」
がくぽとがくは片手を上げ、互いの手をぱんと打ち合わせた。
「「どちらが右子で、どちらが左子だ?」」
「まーじーでー………?」
ため息をついたマスターは、そのまま、座卓にべちゃりと俯せた。
その頭を、台所から朝食を運んできたカイトが平手で払う。
「寝るな、この寝腐れ脳!ごはん食べて、とっとと仕事に行け!!」
「あ~う~……」
呻き声を上げながら身を起こしたマスターの前に、白飯と梅干し、それに味のりが置かれた。
「あ、『お仕置き』がちょっと緩和してる………!」
不憫な喜色を覗かせてぽつりとつぶやき、マスターはぴっぴと人差し指を振った。
「右が右子で、左が左子。いっただきまー、いたっ!!」
「そのあほな名前を使うなっつってんでしょうが、この無能!」
マスターの背中を蹴り飛ばしたカイトは、ぷりぷりとしながら、がくぽとがくのことも睨む。
「二人もだよ、このおばかども。自分たちから使わないの!」
「……………」
「……………」
二人の朝食を用意しに台所に戻ったカイトの背を軽く視線で追ってから、がくぽとがくは顔を見合わせる。
上げた手を、ぱんと打ち合わせた。
「「シャッフル」」
「んえ?」
「は?」
言葉こそ『シャッフル』と言ったものの、二人は座ったまま見合って、二、三回、首を右に左にと倒しただけだった。
そうやっておいて再び、きょとんとしているマスターに顔を向ける。
「「どちらが右子で、どちらが左子だ?」」
「え?ぅえ?あ?」
問いに、マスターは目を白黒とさせた。箸を持った手で、うろうろと二人を指差す。
「だからー………右が右子で、左が左子……………でも今、『シャッフル』したから、右が左子で、左が右子?なの??」
「こっっの低能の神!!」
「んぎゃ!!」
『シャッフル』したのは、あくまで口先だけだ。がくぽもがくも座ったまま、まったく移動していない。
マスターの脳天にチョップを落としたカイトは、そのまま、無邪気そうな表情をしているがくぽとがくの後ろに回り込んだ。
手首を軽く閃かせると、二人の頭もぺしぺしと払う。それから首に腕を回してぎゅっと抱きしめ、こめかみにちゅっちゅと音を立ててキスを落とした。
「二人もだよ。当ててもらってうれしかったからって、マスターのこと、からかわないの。このひと、ほんっっっっっっっきで、ばかなんだから」
「うわ、すっごい力の入った『本気』」
脳天をさすりつつぼやくマスターに、カイトは愛らしさ満点のにっこり笑顔を向けた。
「否定する気なら、裁判所に行きますけど?」
「……………勝てる自信、満々だー……………………うんまあ、俺はばかだよねーそうですねーそのとーりですねー…………」
素直に降参したマスターにさらににっこり笑い、カイトはがくぽとがくの頭を撫でる。
がくぽが腕を回し、そんなカイトの体を反して膝に乗せた。
「んぁ?」
鮮やかな手並みにきょとんとするカイトに、屈みこんだがくが軽く口づける。
がくぽもカイトのこめかみに口づけると、瞳を細めてマスターを見た。
「残念だったな、マスター」
「んえ?」
なんだかんだと言いはしても、『お仕置き』緩和だ。
早速味のりの風味を噛みしめていたマスターに、がくも憐れむ視線を向ける。
「今ので、今日の運は使い切ったぞ」
「今の、で?」
つぶやいてから、マスターは瞳を見張った。
「って、もしかして、おまえらをどっちがどっちか当てたことで?!今日の俺の運は、もうパーなの?!」
悲鳴を上げるマスターに、がくぽとがくはしらりと頷いた。
「「今日も心を強く持って生きるのだぞ、マスター」」