目を覚まし、カイトはきりきりと眉をひそめた。
「…………なんだ、この目覚め…………」
Rush Morning
和室に三組並べて敷いた布団の、真ん中がカイトの布団だ。シングルのその一組にカイトと、カイトを挟んでがくぽとがくがぴったりくっついて寝ている――のは、すでにもう、どうでもいい。
夜寝るときには確かに三組の布団が活用されていたのに、朝になるとどうしてもカイトの布団に全員集合で、がくぽ×2のカイトサンド状態なのはもう、諦めた。
諦めたが。
「どーしてこーなった…………!!」
寝起きの悪いカイトにしては珍しく、今日の動きは素早かった。絡みつく二人を撥ね退け、飛び起きる。
下半身が、すっぽんぽんだった。
寝る前にはきちんとパジャマの上下を着ていたのに、起きたら下半身だけ裸。その晒された太ももに、がくぽとがくが腕を絡めて寝ていたという、この事態。
勘案するなら。
「起きろっ、がくぽっ、がく!このおばかどもっ!!」
「んぁ」
「むぅ」
怒鳴られて揺さぶられ、がくぽとがくは眠そうに瞼を開いた。その手が同時に伸びて、布団に起き上がっているカイトを掴む。
「ちょっ、まっ……っんぅっ」
抗議する隙もなく、カイトはあっという間に布団に戻された。元通りに真ん中に寝かされたうえで、まずはがくぽの顔が近づいてくる。
朝のご挨拶にしては濃厚過ぎる、たっぷりと舌を絡めるキス。
「ぁ………う、も………っ」
「兄者、我も」
「うむ、弟よ」
「ゃ、待て、ま………ふくっ」
巧みなキスに痙攣するカイトに、今度はがくが口づける。
こちらもこちらで、朝から腰砕けの、濃厚なべろちゅー。
「ぁ…………っも…………っ」
咄嗟に抗議も出来ずに、潤んだ瞳で喘ぐカイトを見下ろし、二人は濡れたくちびるを舐めた。
「朝から愛らしいことだな、カイト」
「朝から愛らし過ぎるぞ、カイト」
「…………この……おばか………んっ?!」
痺れるキスの余韻でぼんやりしていたカイトは、瞳を見開いた。あまりに無防備に晒された、素足を無遠慮に撫で回される感触。
体の中心にびりびりと痺れが集まる感覚に、カイトは慌てて跳ね起きた。
「触るな、おばかども!!おまえたちだろ、僕のズボン脱がせたの?!なにしてんだよ、ほんとにもうっっ!!」
「……………」
「……………」
跳ね起きたカイトの素足が、際どいところまで晒されて目の前にある。がくぽとがくは顔を見合わせてから、手を伸ばした。
「なにしてんのと言われてもな」
「邪魔だったとしか言いようがないな」
「なに言って………ゃ、だから、さわる………っ、ぁ、ちょ、そこだめっ!!そんなとこ触んない!ゃ、だめったら!なんで、そんなとこ…………っぁ、くっ………」
二人に際どいところを触られて、カイトは再び布団に頽れる。その体にすり寄り、がくぽとがくは交互にカイトのくちびるを塞いだ。
「ぁ………っ、も………っ」
カイトの瞳が茫洋と霞み、与えられる感覚に弱々しく痙攣をくり返す。
「愛いな、カイト」
「愛らしいぞ、カイト」
「ひ……っ」
両耳に笑い声を吹きこまれて、カイトは仰け反った。その体もしっかりと支えられて、たくましい体に抱えこまれている。
忘我の境地に入りつつあるカイトに、がくぽとがくは瞳を見合わせて笑った。
本当に、嫁はかわいい。
そのかわいい嫁を、本腰を入れてかわいがろうとした、そのときだった。
「かーいーとっ!!じゃーんっ、俺、ちょーナイスアイディア思いついちゃったー!」
ぱん!と遠慮なく襖が開かれ、珍しくも自分で起きたらしいマスターが、満面の笑みで顔を出す。
「…………あれ?」
しかし両手に華を体現しているカイトを見て、きょとんと目を丸くした。
がくぽとがくは渋面で、そんなマスターを振り返る。
「今取り込み中だ、マスター」
「そなたの用事など、後にしろ」
ロイドに揃って凄まれ、マスターはぼりぼりと頭を掻いた。
「あーうん、そっかー。お取り込み中かー。んじゃ出直すわー」
言いながら、くるりと踵を返す。
ぱたんと襖が閉められるのを確認して、がくぽとがくはカイトに向き直った。
「「さて」」
「――!!!」
***
もそもそとパンをかじりつつ、がくは台所で忙しく立ち働くカイトを眺めた。
「なあ、兄者」
「なんだ、弟よ」
並んで隣に座り、同じくパンをかじるがくぽが、やはりカイトを眺めたまま応える。
「…………ロイドでも、たんこぶって出来るのだな…………」
「そうだな、痛いな…………我らの嫁は、たくましいな…………」
応えながら、がくぽは自分がかじるパンを見た。ハムエッグ乗せだ。上にはケチャップで、お日さまマークが描かれている。もちろん、嫁製。
「…………朝食抜きにならぬで、よかったな」
同じく、ハムエッグお日さまケチャップ乗せをかじるがくも、頷いた。
「うむ。我らの嫁はやさしい」
「うむ…………やさしい嫁だ。痛いが」
「そうだな、痛いが………」
「ってか、二人だけでなく、俺までゲンコもらってんのって、あからさまにとばっちりじゃね………?」
嫁に見惚れる二人に、マスターがぼそりとつぶやく。
いつも通り、さらっと無視された。