目を覚まし、カイトはきりきりと眉をひそめた。

「なんっだ、この目覚め……………っ」

つぶやき、険のある眼差しを体の下の方へと向ける。

Flower Doll

家事を終わらせたカイトは和室の畳に直接転がって、ひとりお昼寝の最中だった。

それが不穏な気配を感じて、目を覚ましてみれば――

「がくぽ………がく…………」

「っ!」

「っっ」

カイトの両脇に陣取っていたがくぽとがくだったが、呼ばれるとぴしりと背筋を伸ばした。ささっと移動すると、カイトの足元に並んで正座する。

ここら辺の動きの淀みのなさが、カイトの日頃の躾の成果というかなんというか。

カイトはゆっくり起き上がると、そんながくぽとがくを見据えた。

「おまえたち、確か、花屋に遊びに行くって言ってたよな………?」

いつもは甘くさえずるようなカイトの声が、今は低く這っている。

がくぽとがくはさらにぴしりと背を伸ばし、明後日な方向へと視線を彷徨わせた。

「うむ。行った。行ったらちょうど、花籠を作っている最中でな」

「我らも当然、手伝ったのだ。そしたら手伝いの駄賃にと、商品には出来ないが、まだきれいな花を呉れてな」

「カイトは花が好きだろう。ゆえに、ひと篭分、貰ってきたのだ」

カイトは目を眇め、自分の体の周囲に散る花を手に取る。ついでに頭に手をやった。

見えないが感触的に、生け花のコサージュがピン留めされている。

「………それで?」

冷え切った声で促されて、がくぽとがくはこれ以上なく、背筋を伸ばした。

「帰る道すがら、お直し屋の姉さんに捕まってな」

「カイトちゃん向けの超傑作が出来上がったゆえ、是非にも持って行ってくれと言われて」

「断り切れず、貰って来た」

カイトは目を眇めたまま、着ている服の裾をつまんだ。

どう見てもスカートだ。ひらひらふわふわのワンピース。

というか、寝ている間に着替えさせられているこの事実。つまり寝ているカイトを裸に剥いて、このワンピースに着替えさせたという。

ついでに。

「さらに帰る道すがら、お茶屋のおばさんに呼び止められ」

「孫から貰ったものだが、自分にはちょっと派手だから、カイトちゃんにやってくれないかと」

「まだ新しいエプロンを手渡され………」

そうでなくても女の子女の子したワンピースの上に着せかけられたのが、ふりふりフリルとリボンのお嬢さまエプロンだ。

ロイドが一度寝たら、おいそれと起きないとはいえ――

現在のカイトは、頭に花飾りをつけ、ふりふりエプロンとワンピースの、完璧女の子姿。

もちろん、了承などしていない。

閃く怒りの稲妻が見えるようなカイトの視線に、がくぽとがくはとうとう、仰け反った。

「………初めは、上に掛けて見ていただけなのだが……」

「なかなか起きぬゆえ、待ち切れなくなって………」

「がくぽ、がく」

カイトの声は地獄から響いてくるように、低く這って轟いた。

びしりと固まるがくぽとがくに、カイトは腰を浮かせる。畳に膝をついた中腰の姿勢となると、ぱきぱきと拳を鳴らした。

「やっていいことと悪いことの区別がつかないのかどうか訊きたいが、その前にひとつ答えろ………」

がくぽとがくは、ごくりと唾を飲みこんだ。目を逸らしたいが、怖すぎて逸らせない。

ぱきぱき拳を鳴らすお嬢さまカイトは、青筋を浮かべてにっこり笑った。

「おまえたち、僕の下着をどうした………っ!!なんでこんな、すーすーするんだ………?!」

「「っっ!」」

びくびくっと竦んでから、がくぽとがくは顔を見合わせた。

がくぽが、手にしたカイトの下着を掲げる。

そしてがくは、ピンクでひらひらレースの、女物の下着を。

「………どうせだから、下着もと思って」

「脱がせたところで、カイトが目を覚ました」

***

和室の窓辺に仲良く並んで正座したがくぽとがくは、台所で忙しく夕飯の支度をするカイトをぼんやりと眺めていた。

「なあ、兄者……」

「うむ、弟よ」

「説教だけで済んで、良かったな………」

「うむ。正座で三時間耐久だったが、良かったな………」

カイトがばたばた動くたびに、背中のリボンがひらひらと泳ぐ。

三時間も説教に費やしたカイトは、そのまま夕飯づくりに突入した。

そのまま。

つまり、ワンピースにふりふりエプロンのまま。

ちなみに、がくぽとがくのお仕置きはまだ終わっていない。正座で反省続行中だ。地味に足が死ぬ。

しかし二人の顔は、至福に緩みがちだった。下手にでれでれすると怒られるから、懸命に堪えるが――

「のーぱんのままだったな………!」

「未だにのーぱんのままだな………!」

――説教に気を取られたせいなのかなんなのか、カイトは下着を穿き直さなかった。要するにスカートの下は、以下略。

「我らの嫁は、大胆だな、兄者……」

「うむ。我らの嫁は、時として驚くほどに挑発的だ……」

足の痛みもなんのその、がくぽとがくは至福に満たされて、忙しく立ち働くカイトを飽きずに眺めていた。