Today's Fortune:Forever Ever-02-

ぷちゃりと、殊更に響く水音を立てて胸に吸いつかれる。二人同時だ。

「っぁ、ゃああんっ!」

カイトのくちびるからは、常になく大きな嬌声が迸った。声だけではない。体も大きく跳ねて、逃げようとするかのように激しく悶える。

「ゃっあ、イく………イく、ぼく、イっちゃうからぁ………っぁ、め、め………っがくぽ、がく………っめ、ぁあんっ、やぁああんんん……っ」

壁を背に座るカイトには、後ろに逃げる選択肢がない。ならば横にと思っても、相手は二人だ。両肩をきっちり押さえられて、実際のところ身悶えも覚束ない。

逃がしたい快楽は痛いほどに募るばかりで、そこにがくぽとがくの二人掛かりでの、胸への愛撫だ。

カイトが口にしないまま望んだように、二人はすでにぷっくりと膨らんでいた胸の突起をつまみ、こねくり回し、潰して弾いてと、きれいな指でイく寸前まで存分に遊んでくれた。

そしてカイトの思考が快楽にぼろぼろに崩れたところで、耳朶に吹き込む。

「「どちらがどちらだ、カイト?」」

――訊かれたところで、すぐに答えようなどない。

つまりこれが、がくぽとがくがカイトに目隠しをした最大の理由であり、目隠しにこだわった意味だった。

がくぽとがくは、そもそも双子機ではない。

汎用型で、同じ機種の『神威がくぽ』が巷に溢れているとはいえ、基本的には一家に一台。

それが故意含みな諸々の手違いで、がくぽとがくはひとつ屋根の下、特に個体差を設定されることもなく、ふたり同時に起動した。

起動当初、二人には本当に個体差がなかった。今でこそそれなりに個性が出てきたが、起動当初は二体でありながら『ひとり』と、まったく変わりなかった。

まず初めに『兄弟』という『役』を振り分け、それに従ううち、ここ最近になって明確になって来たのが、がくぽとがくの個性であり、個体差というものだ。

だから初めのころ、がくぽとがくはあまりになにもかもが同じで、当人二人以外には見分けがつけられなかった。元凶であるマスターですらだ。

いや、――がくぽとがく以外に、常に正確に二人を見分けていた相手がいた。

カイトだ。

カイトはことの初め、それこそ二体いるのか一体なのか不明な時期から、がくぽとがくを正確に見分け、もしくは声を聞き分けた。

今、がくぽとがくには明確な個体差が出てきつつあるが、それも半ばはカイトのおかげだ。

カイトが間違えることなく、常に正しく二人を呼び分けてくれたことで、曖昧だった二人にも、自分たちは『違うもの』という認識が、確固と根付いたのだ。

もしもカイトがおらず、もしくは見分けをつけてくれなければ、個体差が出て来るのはもう少し遅くなっただろう。もしくは永久に、見分けがつくほどの個体差が出て来なかったか、どちらかだ。

これがカイト――KAITOシリーズ、もしくは他のロイドシリーズでもいい。人間には無理でもロイドであれば誰でも見分けられるというなら、話は多少違う。

が、たとえば交流を持った近所のロイドたちは、がくぽとがくを正確に見分けるまでに、やはり時間が掛かった。コツを掴むまでは、呼び間違えも頻繁だった。

一度も間違えなかったのは、カイトだけだ。

がくぽとがくの絶対の保護者であり、溺愛する嫁、ただひとり。

その愛情の深淵具合は、それこそ最初に言ったように、とても計り知れるものではない。計り切れるような気もしない。

が、だからといってなにもしないのは、違う。

そう、好奇心だ――ワンパクにしてイタズラ好き、そして好奇心旺盛なやんちゃっこたち(*註:二十代)は、いったい嫁には限界はあるのか、あるとしたらどこなのか、調べてみたくて堪らなかった。

「お、おばかどもぉお………っ!!好奇心は身を亡ぼすんだぞ、きゅ、きゅうこ命があるねこだって、死んじゃうんだぞぉお………っっ!」

腰が抜けてぷるぷるしながら、がくぽとがくの目的を察したカイトはべそべそと罵倒した。

――つまり、そういう複雑な事情を抱えたがくぽとがくには、どちらがどちらかを当てさせるという、お気に入りの『お遊び』があった。

それは他人にやるなら、外れること、もしくは外れさせることが目的だ。

しかしカイト相手にやるなら、違う。見分けてくれと、必ず当ててくれと、切実な願いがそこにある。

潜む不安から要求はエスカレートしていき、こうしてカイトが非常に苦労する羽目に陥る。

苦労を掛けまくっている姐さん女房に諭されたがくぽとがくは、学究の徒然として頷き合った。

「カイト、難しい言葉を知っておるな」

「うむ、兄者よ。我らはやはり、カイトを見くびっていた」

「我らの嫁に関する認識は甘いのだな、まだまだ」

「愛する嫁のことだというのに、我らはまったく、知らぬことが多い!」

だから知りたいと、爛々とした目を向ける稚気溢れる亭主どもに、見えなくともカイトは肌を粟立たせた。ぐっすんと、洟を啜る。

「よめって、よぶなぁ、おばかぁあ………っ!」

――ツッコミどころを間違えた。

それも仕方がない。いい加減、カイトも限界だ。

なにしろ、気持ちいい。もともと快楽に弱い性質だというのに、目隠しをされたことでいつも以上に感覚が尖った。視覚の不足を補おうと、肌も耳も、味覚も嗅覚もなにもかも、ひどく鋭敏に研ぎ澄まされ、わずかな空気の流れにすら反応してしまう。

そして、不快になりきれない怯えがある。

常から予測困難なやんちゃっこたちが、次になにをしてくるのか、なにを企んでいるのか、見て計ることが出来ない。迎撃しようにも警戒しようにも、いつも以上に予測不可能だ。怖い。

怖さに怯えて震えるが、信頼はある。

本当に酷いことは、しない。されない。

快楽を加速させるため、呼び水として、ほんのわずかな痛みは与えられるかもしれない。が、あくまでもわずかで、快楽の前準備だ。

気持ちよくさせられる――これ以上なく。終わったあとしばらくは布団に立て篭もりたいほど、はしたなくあられもなく、乱れさせられる。

信頼だけは山ほどあって、裏切られないこともはっきりとわかっていて、恐怖心も怯えも不快になりきらない。むしろ快楽を増幅し、酩酊を深くする。

怒っているようでも、カイトの期待は体に如実に現れていた。

染まる肌は、怒りのせいだけではない。ぷるぷると怯え震えていても、可愛らしい胸の突起もしとどに濡れる男性器も、愛撫を強請って勃ち上がったままだ。

後ろ手に縛られて、隠すことも覚束ない。封じられた視界では、すでに自分がどんな痴態を晒しているのか、カイトに確かめようもない。

そんな状態で罵られたところで、がくぽとがくが反省するはずもなかった。

むしろ嗜虐的に瞳を細めてカイトを眺め、募り過ぎる興奮を堪えるようにちろりとくちびるを舐めた。

「我らの嫁は常に淫らがましく、快楽に弱いものだが、兄者………」

「うむ、弟よ。今日は殊更に、反応が鋭い。視覚が封じられたことで、他の感覚が尖ったのであろうが……」

そこまで言って、二人は手を伸ばした。前を開いたままのコートから、ちらちらと覗いて誘う胸の突起を、同時につまむ。

「っぁああんっ!」

きゅっと、多少痛いほどにつままれて、カイトが迸らせたのは絶叫にも近い嬌声だった。悲鳴ではない。隠しようもなく、甘さと熱を含んで跳ね上がった声だった。

わずかに骨が浮く体が仰け反り、つまんで引かれるまま、がくぽとがくへ胸を突き出すような恰好になる。

触れてもいなかったのに、すでにぷっくりと膨らみ、今か今かと愛撫を待っていた場所だ。

「ぁ、あ………っんんっぃた………っぁ、め………っっそんな、つよく……っしたら、きちゃぁ……っ」

ふるふると首を振りながら、カイトは逃げることも出来ずに両の乳首を嬲られる。口にしないまま望んだように、つまんでこねくり回され、先端を爪弾かれて転がされ、潰されて勃ち上がったところを、再びつままれて――

「だとしても、視界の利かぬ不安よりも快楽が勝るとは、まさに淫奔」

「貞淑な顔と形をしながら、ひと皮剥けばこの有り様。まこと淫婦の号が相応しい」

片手でカイトの乳首を嬲りつつ、がくぽとがくは空いている手を上げた。ぱんと、打ち合わせる。

「「実に愛らしい」」

「ぅっぁ、おばかぁあ………っ!!」

ある意味、いつも通りの結論で安心だ。まったく安心する要素はないが、いつも通りだ。悪化も劣化もしていない。向上もしていないがしかしかかし。

ぐすぐすと洟を啜りながら罵りつつ、そんなところでなけなしの安心を得るカイトは、多分に不憫だった。

「ひ、ひとを、いんらんあつかい、す………っぁんっぁ、あ、がくっ、めっそんな、ぴんぴん、はじいてばっかり、だめっ、きもちい……っ!!」

「………兄者」

したかった抗議は続かず、カイトの言葉は嬌声に変わる。

そんなカイトから兄へと、がくは苦笑気味の顔を向けた。

「我は心が折れそうだ。問うまでもなく答えられては、どうすれば良い?」

「っぁあんっ、がくぽっやぁ、つよいぃ………っいた、ぃたいの、きもちい、から、だめぇえ………っ」

「………兄者」

がくの苦笑は深くなり、兄とカイトとを見比べる。

がくからの問いに、がくぽの指にはわずかに力が入った。実際、わずかだ。カイトが悲鳴を上げるほど、大きく力加減を変えたわけではない。感覚が鋭敏に過ぎている証だ。

しかし問題は、そこではない。

束の間入ってしまった力を抜き、今度は『もどかしい』と泣かれるほどの触れ方に変えたがくぽは、がくを見なかった。ひたすらに悶え乱れるカイトだけを見つめ、口を開く。

「気を強く持て、弟よ。これで挫けては、さらに我らには甲斐性なしの号が増えるだけだ」

「なるほど。もっともだ、兄者よ」

素直に頷いたがくは、すでにゲームの勝者と化しているカイトへ視線を戻す。

二人の名を正確に呼び分けて啼き悶えるカイトの目は、分厚い布で完全に塞がれたままだ。どちらがなにをしているか、わかろうはずもないというのに――

「ところで、兄者」

再びカイトの乳首をつまむと、がくはちょこりと首を傾げた。カイトの腰が跳ね、惑乱して首を振る。がく、と呼ばれた。

「なんだ、弟よ?」

ようやくちらりと視線を向けた兄へ、がくは無邪気にして無垢な瞳を向ける。

「うむ。疑問なのだが――兄者は先に、我らにはさらに甲斐性なしの号が増えると、言ったな『さらに』と言うからには、つまりすでに我らには、なにかしら不名誉な号があるということよな。なんだ?」

「………」

問う弟を、兄はしばらくじっと見つめていた。じっと、じーっと、じーーーーーーーー

「うむ、兄者。よくわかった。心がばっきりへし折れたので、我はこれから淫奔に過ぎる嫁に浸りこみ、癒される」

生真面目な顔で告げた弟からカイトへ目を戻しつつ、がくぽは重々しく頷いた。

「それが良い、弟よ」

まるでなにかの託宣のように言うと、すでに腹を濡らして痙攣しているカイトの肌に軽く爪を立てる。

常に端然とした表情がにたりと、淫猥と嗜虐に満ちた笑みに崩れた。

「カイト、答えよ。どちらがどちらだ?」

がくぽに続き、がくもまた、つまんだカイトの乳首をきゅっと捻り、意識させるように引いた。

「そなたのこの、小さくも鋭敏にして、淫らごとを好む乳首だ」

「我らに指先で嬲られて、果実そのものに熟れ染まった、憐れな蕾だ」

「右と左、どちらをどちらの指が嬲りものにした?」

兄と弟とに交互に問われ、触れられる前から絶頂をくり返すカイトは弱々しく首を振った。腫れぼったく赤く染まるくちびるが、震えながら開く。

快楽の余韻で痺れる舌が、ちらりと覗いて唾液をこぼした。

「み、ぎ………が、がくぽ………ひだ、り………が、がく………」

どうにか押し出された覚束ない言葉に、がくぽとがくは莞爾と笑んだ。片手を上げると、ぱんと打ち合わせる。

「「カイト正解」」

「ひっぁ、ぁあんっ!」

言うや、指で散々に嬲ったことでさらにぷっくりと膨らみを増し、熟した果実そのものの色となった突起にしゃぶりつく。

ぺったりとした胸の肉をこそげるように舐め、あるいはきつく吸い上げ、求めても得られない獣の仔がするように、尖り切ったものに軽く牙を立てる。

「ぁ、あ、め………っぇ、や、んんぅっ、ぅっ、みるく、でな………っから、ぼく、かじられても、………みるく、でな………っぁ、ぁああっ!」

二人仲良く乳首に吸いつきながら、がくぽとがくの手は揃ってカイトの下半身を弄り出す。カイトが勝手に吐き出したもので濡れそぼる腹を撫で辿り、またもやきつく張り詰めている男性器へ。

「ひ……っぃ、ゃ………っ!」

ぬるつくそこに、長く器用な指が絡みついた。どちらがどちらとも知れないほどに複雑に蠢き、絡み合いながら、すでに連続で吐き出しているカイトを追い込むように、扱き上げる。

声も出なくなって仰け反り、意識が飛びそうな様子で痙攣するカイトの耳朶に、がくぽはくちびるを寄せた。

「どちらだ、カイト?」

訊いて、離れる。唾液に濡れそぼる乳首にくちびるを寄せると、ふっと笑った。それだけで、カイトの体は大きく跳ねる。

「ぁ……っあ………っ」

先までならそれで、何度目かの絶頂に追い込まれていた。

が、カイトの男性器は今、がくぽとがくが押さえている。蠢き絡み合って膨張させながら、同時に快楽を制御され、カイトの意思で絶頂に達することは出来ない。

震えて唾液をこぼすカイトのくちびるに、がくが触れた。ちゅるりと、音を立てて唾液を啜る。だけでなく、とろりとやさしい舌遣いで、汚れる口周りを丁寧に舐め整えた。

「んん、がく………っ」

「……やれやれだ、嫁よ」

「挫けるな、心弱き弟よ」

「心底やれやれだ、兄者………………」

ぼやきながら、がくはカイトの耳朶にくちびるを寄せた。目隠しの布と肌との際に、ちゅっと音を立てて軽いキスを落とす。

びくりと跳ねたカイトの耳朶を咥え、がくは一度、目を閉じた。

開くと熱と欲に塗れ、憐れにぷるぷると震えるだけの獲物を見下ろす。

「訊くまでもないが答えよ、カイト。愛撫に蕩けて熟れる、そなたのこの乳首………清純な色を忘れ、愛撫を強請る淫らの蕾だ。どちらがどちらをしゃぶり、苛立ち、咬みついた右と左と、兄と弟と………」

「んんん………っ」

吹き込まれ、カイトは首を振る。拒絶のようでもあるし、単にくすぐったさを振り払おうとしただけのようにも見える。

堪え切れず、がくはちろりとくちびるを舐めた。がくぽは瞳を細め、笑う。

カイトの男性器を支配する二人の手に、軽く力が込められた。

「っひぁっ!」

「「どちらがどちらだ、カイト?」」

跳ねたカイトを逃がすことなく、がくぽとがくは問いを重ねる。

カイトは陸に揚げられた魚のように激しく跳ねまわりながら、ぷるぷると首を振った。

「ゃ、やぁ………っみぎ、みぎって………みぎって、どっち………っ?!」

「………ふむ」

「うむ、これはしまった」

悲鳴のようなカイトの問いに、がくぽとがくは軽く目を見開き、体を引いた。表情から嗜虐が抜け落ち、ひどく無邪気な色を浮かべる。

「そうまで惑乱したか。そうなると、今後右左で訊いても、正しく答えが返るとは限らぬな」

「そうだな、兄者。嫁の意図した答えと、我らの認識した答えが食い違う可能性がある」

「意外にむつかしい問題が立ち上がったな。もう少し先と読んでいたのだが………」

「嫁の淫奔さを見誤っていたということだろう、兄者。これもまた、良き学習だ。ひとつ、嫁への理解が深まった。嫁は我らが思うよりずっと、淫らに弱く、奔放だ」

うむうむと生真面目に頷く弟を、がくぽはわずかに眉を跳ね上げて見た。そのくちびるが兄らしい色を宿し、やわらかに綻ぶ。

「前向きよな、弟よ」

「嫁のことゆえな。そうそう挫けたままではおれぬ」

肩を竦めて答えると、がくは身を屈ませた。一度は離れた乳首に、じゅぷりと音を立てて吸いつく。

「っひゃぁっ?!」

「今のはどちらだ、カイト今、こうして………そなたの乳首に吸いついたほうだ。名を呼べ」

「んっ、がくっ!」

迷うこともなく、カイトは呼ぶ。

がくぽの笑みは、諦めともつかないなにかを宿した。

「………まあそもそも、初めから勝負になどなっておらんのだがな。続けているのは惰性か義理か、形式というものに過ぎん」

つぶやいて、弟が開けた場所に屈んで顔を寄せる。とろりと舌を絡めてやわらかに乳首をつまんでから、痛むほどにきつく、じゅるると音を立てて吸い上げた。

「ぁ、も、がくぽ………っちょっとぃたいの、きもちぃ………から、めっ!」

腰を跳ね上げて啼くカイトからわずかに顔を離し、がくぽは情けない八の字眉となって慨嘆した。

「だとしてもせめて、問う間くらいは与えてくれぬものか、嫁………」