「んっ、ぁむっ!」
ぱっくりと咥えたカイトの表情が、至福に蕩けた。はむはむとくちびるで揉み解しながら腰を浮かせ、膝をにじらせ、懸命に奥へ奥へと飲みこんでいく。
Today's Fortune:Forever Ever-03-
「んんっ………んー、………んっ、ん………っ」
咽喉奥へと受け入れたところで、軽く腰を揺さぶり、わざと粘膜を突かせた。基本的には苦しく、純粋に気持ちがいいというのとは違う。
が、この苦しさの加減が妙に、癖になる。
珍味と似たようなものだ。おいしいと、きっぱりと言い切ることは出来ない。微妙な間を空けて、困惑と苦笑とともに、ひとの好き好きだと答える。そんな感じだ。
とろんと蕩けて正気の欠片もないカイトの顔が、やわらかに撫でられた。許容を超えた大きさのものを咥えこむせいで形の崩れた頬を撫で、くすぐるように肌を辿り、耳朶をつまむ。
「あまり無理をするな、カイト」
「んん………っんっ、ぷぁっ!」
舌を絡め、搾り取るように辿りながら口から抜き出し、カイトは笑った。濡れる先端に、ちゅっと音を立てて口づける。
「ん……っ、がく。………ね?」
「………正解だ」
先端をはむはむと食みながら出されたカイトの『答え』に、正を告げる声は多少遅れた。言葉の前には、わずかに苦しげな音も混ざっていた。感じている。
「くふぅん………っ」
カイトはさらにご満悦な表情となり、目隠しをされた自分の口元にそそり立つものにちゅっと吸いつく。たっぷりと唾液を乗せた舌を突き出すと、どろりと舐め辿った。
「ん、んふ………ん、がく、がくは、ここが、すき………ね?がく、ここぺろぺろすると、びくびくって、する………ぼくが、いっぱいぺろぺろすると、いっぱいいっぱい、びくびくって………んふ、ふ……っぁ?」
言いながら舐め辿るカイトの口元から、がくのものが離れた。慌てて追うカイトだが、未だ目隠しに覆われ、視界が封じられている。追うに追いきれない。
「ゃ………っん、んぷっっ!」
取り上げないでと、はしたない嘆願が出る前に、カイトの口は塞がれた。一度は取り上げられたものが、再び口の中に押しこまれている。
「んん………っんっ、んぶ………っぷぁ、んく………っ」
至福の表情を取り戻したカイトは、与えられたものを熱心にしゃぶる。手の使えないカイトがひとりで飲みこむにはきつい代物だったが、察した相手が頭を押さえて腰を進め、咽喉奥にまで捻じ込んでくれた。
自分でやるようではなく、相手勝手なままにずぐりと咽喉奥を突かれ、カイトの顔は苦痛に歪む。
「ん………っん…………っっ」
ぶるりと震えたカイトの腰が崩れ、沈んでいく体に合わせて口からも抜かれた。
「んっ、は……っけふっ!」
「イったか。何度目だ?」
反射で咳き込んだカイトが崩れきらないように肩を支えつつ、咽喉奥をきつく突いた相手が笑う。
カイトはもそもそもじもじと、新たな体液に濡れる腿を擦り合わせ、横を向いた。
「しらない……………さんよりうえは、いっぱい、だも…………もうぼく、しらない………」
「つまり三度以上はすでに、達したということであろう?」
「ぅー………」
笑う相手に、カイトは子供っぽく頬を膨らませた。絶頂の余韻で痺れる腰をなんとか起こし、撓む背を懸命に伸ばして、抜き出された凶器へ口を寄せる。
根元をちゅっちゅとやわらかについばみ、食んだ。
「がくぽのいじわるっ……………ぼくがいっぱいイっちゃうの、がくぽとがくのせーなのに………ふたりがいっぱいいっぱい、ぼくのこといぢめて、きもちよくするからなのに………っ」
子供っぽいのは表情だけではなく、言葉もだ。常は下町っ子らしくしゃきしゃきと話すカイトだが、今は幼く、舌足らずに覚束ない。
完全に、理性と正気が飛んでいる。
それが証拠に、拗ねる時間は長続きしない。
カイトはすぐさま表情を蕩け崩し、突き出されているがくぽのものを夢中でしゃぶった。
「ん………ぉいし…………んへ、おいし………っがくぽの、……ぁふっ、んへふ………っふふっ!」
合間合間につぶやくカイトの語尾には、大量のハートマークが舞い飛んで見えた。錯覚で、幻覚というものだ。現実に、語尾に舞い飛ぶハートマークは存在しない。
しかし視覚に限定的かつ致命的なバグを抱える亭主どもは、顔を見合わせた。
がくがカイトの肩を押さえ、その間にがくぽがすっと体を引く。望まずして、『だいすきなおもちゃ』を取り上げられたカイトは、きゅっと顔をしかめた。
「ぃやあ………んぷっ!」
抗議の声の途中で、取り上げられた『おもちゃ』が戻って来る。カイトは慌ててぱくりと咥え、懸命に体を起こして先端まで辿った。
すでにとろりと濡れる場所を行儀悪く音を立てて啜り、至福の笑みを浮かべる。
「がくぅ………」
「ああ」
手が使えたなら、カイトはしっかりと竿を掴んで離さなかっただろう。もう二度と逃がさないとばかりに、鷲掴みだ。
言っては難だが、カイトが未だ後ろ手に縛られたままだったのは、亭主どもにとって幸いだった。
いくら硬度があろうと、加減を忘れた相手に力いっぱい鷲掴みされれば、痛い。ばっきり折れる。比喩だが、微妙に比喩になりきらない。
カイトに正気や理性があればそうまでしないが、今はきっぱり飛んでいる。
しかし未だ後ろ手に縛られたままなので、カイトの頼りは口だけだ。もどかしそうにもぞもぞもじもじとしつつ、カイトは懸命に舌を突き出し、咥えとして、無体でおばかな亭主どもへの奉仕に尽くした。
「んっんふ………んん、…………ん?」
「厭か?」
がくへの奉仕に熱中していたカイトのくちびるに、新たな熱が当たった。カイトの愛するおばかな亭主どもは、そう、つまり『ども』だ。複数形で存在している。
口の端に当てられたものがなにかはわかって、カイトは咥えていたがくをわずかに抜き出した。
「ゃじゃ………んぷ?」
どちらにしろ、『だいすきなもの』だ。素直にがくから離れて移ろうとしたカイトだが、今度はがくが体を引かない。なんであれ、兄に譲ることが常態と化しているがくには、珍しい態度だ。
戸惑って動きを止めたカイトのくちびるに、二つの熱が押しつけられた。
「「厭か?」」
笑いを含んで、訊かれる。
重なる声は音質もさながら、抑揚もリズムもほとんど同じで、聞くものによっては一声にしか聞こえないだろう。
けれどカイトには、きちんと聞き分けられる。それぞれ、まったく違う音の重なりとして。
しばしきょとんとしていたカイトだが、ふわりと笑った。熟れきった色のくちびるを開くと、舌を突き出す。とろりと垂れる唾液を啜りもせず、くちびるに当てられた二つの欲に舌を這わせた。
「ゃじゃない………がくぽもがくも、だいすき………」
恥ずかしげに言うと、均等に等分に、添う二つの熱を舐めしゃぶる。
「んちゅ、んんん………、ぉいし………ぉいし、の、いっぱい………にこでも、いっぱい………んっへ、いっぱいぉいし………がくぽとがくと、………んへっ、んへへ………ぉいし………んっぷぁっ」
しゃぶりつつ合間合間につぶやくカイトの語尾に、大量のハートマークが。
――舞い飛んで見えてしまうという、限定的なバグを抱えているがくぽとがくだ。
顔を見合わせると、こっくり頷いた。
「「愛い」」
「ふっぁ?!」
力強い言葉に、カイトの驚声が重なった。浮き上がっていた尻がぺったりと畳に落ち、ぱたぱたと迸り滴るものの音が追う。
「ぁ………」
「………………」
「………………」
呆然と顔を上げて、カイトは降り注ぐものを避けることもできず、濡れそぼっていった。
分厚い目隠しに覆われたままで、なにが起きたのか把握するまでに時間がかかるが、つまり――
「あまりに愛らし過ぎる嫁が悪くはないか、兄者!」
「嫁は悪くない、弟よ」
非常に微妙過ぎる沈黙ののち、切羽詰まって主張した弟を、兄は威厳に満ちて諌めた。
「愛らしいことに罪などないのだ、弟よ。かわいいは正義だと、この間、三河屋のが言っていた。概ね賛同する」
「兄者………」
――がくぽの主張は常と比べると、そう大きく的を外してはいない。しかしその情報源は、微妙だった。
三河屋のというのは、商店街に店を構える酒屋、三河屋の息子のほうのことだ。彼のモットーは、御用聞きに行った先で『美人』を見かけたら以下20歳未満購入禁止マークというもの。
がくぽもがくも、そして遥か過去にはカイトも、彼の悪癖にあわや巻き込まれかけた。すべて返り討ちにし、未遂で終わってはいるものの。
そういう情報源から得たことを真顔で諭す兄に、がくはきりりと表情を引き締めた。
「済まぬ、兄者。我が間違っていた。確かにそうよ、嫁に罪などない――嫁が愛らしいからと堪え性を発揮できぬのは、我らの罪だ。我らの甲斐性のなさの発露に過ぎん!」
「うむ、弟よ。………とうとう我ら、甲斐性なしの号も得たな………」
「はっ!!」
兄の冷静な指摘に、がくは己のしくじりに気がついて愕然と目を見張った。
そもそもが、『しくじった』直後だ。
カイトのあまりの痴態に、とてもではないが我慢出来なかった。
目隠しをされたまま、そのうえ手も封じられた状態で、雄二匹の面倒を見させられていたカイトだ。熱心かつ献身的にご奉仕に励んではいたが、直接的な刺激の話をすれば、物足らないもいいところだった。
しかし、極みにはまったく程遠い直接の刺激を補って余りある、かわいいかわいい嫁の痴態っぷりだ。
普段がちゃっきちゃきのしゃっきしゃきであればあるだけ、理性と正気を飛ばして淫に堕ちた、そのギャップは大きい。
知識と好奇心は豊富で旺盛でも、経験値は低く浅いがくぽとがくだ。そうでなくとも溺愛する嫁の、絶頂を極めた愛らしい痴態ぶりに、堪え性も甲斐性も発揮できなかった。
結果としての、あまりに早過ぎた『粗相』だ。
「危機だ、兄者………夫である以上に、男として、切実に」
「あまりそう、無闇と不名誉な号は増やしたくないものよな、弟よ………」
微妙に涙目の弟に、兄はすでに諦めの看板を背負ってぼやく。
「んっ、ぐすんっ!」
男として、亭主として、諸々瀬戸際に追い詰められていたがくぽとがくの耳に、盛大な涙声が響いた。
あまりに追い込まれた挙句、粗相したままカイトを放り置いてしまった。
しくじり三つだ。さんよりうえはいっぱいだ。これ以上は、真実危機だ。
「ああ、済まぬ、カイト」
「このような形のまま………」
「んっ、ふぇっ、わかんな………っわかんな、ぼく……っんぇっ、ごめ………っぐすっ!」
頭から二人分の体液を浴び、無残な姿となったカイトは畳にぺったり座りこんだまま、べそべそとしゃくり上げる。
慌ててしゃがみ込んだがくぽとがくは、せめても顔を濡らす体液を拭ってやろうと手を伸ばす。しかしカイトはいやいやと頭を振って、がくぽとがくの手から逃げた。
そして、盛大にしゃくり上げる。
「どっちがどっちのせーえきか、わかんな……がくぽとがくのせーえき、混ざっちゃって、味、わけらんな……っ」
「………………」
「………………」
懸命な訴えと、おそらく含まれている、謝罪と。
がくぽとがくはびたりと動きを止め、頭から濡れそぼるカイトを見つめた。
なにで濡れそぼっていると言って、ナニだ。がくぽとがくの粗相だ。ロイドなので模造と言えば模造だが、きちんと人と同じに白濁し、独特のぬめりや臭いもある。
二人分のそれはもちろん、カイトの顔全体にもかかり、もしくは垂れてくちびるにも届いている。
が。
「んっ、ん………っごめ、ね、がくぽ、がく………っ。でもっ、でもでもっ、ちゃんとおわび、するから………っ!」
「か……っ」
「かい………!」
がくぽとがくの絶対の保護者にして姐さんな嫁が駆られているのは、無為にして無用の罪悪感だ。
お空の彼方にすっ飛ばしたほうがいい罪悪感に染まり切ったカイトの耳には、肝心要の亭主どもが上げた制止の悲鳴も届かない。
ころんと畳に転がったカイトは、じたじたもがいて俯せになった。ただ俯せたわけではない。膝を立て、がくぽとがくにお尻を突き出した格好となる。
肝心の場所は丈の長いコートに隠れているものの、裾の割れた後ろからは、自分の体液に濡れ、てろりとぬめり光る白い腿がちらちら覗く。
それだけでもかなりのものだったが、カイトは動きを止めなかった。
縛られたままで不自由な指先を懸命に繰って、コートの裾を絡げる。
露わになるのは、きゅっと引き締まりつつもどこかぷるんとやわらかく、甘そうに見える双丘だ。
「ん………っ」
不要を極める仕上げで、カイトは曝け出した場所に精いっぱいに指を掛け、すでにひくひくと収縮をくり返している窄まりを開いた。
その苦しい体勢で、畳に押しつけた顔をわずかに振り返らせると、健気にもにっこりと笑う。
「ね、当てて上げる………がくぽとがくと、どっちが挿れたか。どっちがぼくのおしり、いじめてるのか………ぼくのおなかのなかに、いけないお汁、いっぱいいっぱいおもらししちゃったのどっちか、………当てて上げる」
カイトの語尾に、大量のハートマークが見えた。
もうひとつ言うと、とても健気で献身的な姿なのだが、どういうわけか尾てい骨のあたりに、黒く細い尻尾がくねくねと揺らいでいるのも見えた。先端はやはり、黒くてもハートマークなのだが。
すべて幻覚で、がくぽとがくの対カイト限定視覚バグだ。
天使の献身性を発揮しているのに、小悪魔の姿がぶれて見えるカイトから目が離せないまま、がくは口を開いた。
「兄者。本当に、かわいいは正義か?本当に?」