「ね、ふたりっきりのケッコン式、しようか」
くふふふ、と笑いながら言ったカイトは、あからさまに企み顔だった。
REC LECH RECK-01-
友人知人ご近所さん総がかりでの手作り結婚式を終えて、その興奮も冷めやらない夜の話だ。
ようやくアパートメントへと帰って、風呂も済ませてリラックスウェアに着替え、一息つこうとティータイムを愉しんでいたときに、突然に。
「ふたりっきり、か?」
これから教会にでも行く気かと、がくぽはすっかり暗くなった窓の外を見た。
比較的治安のいい地域ではあるが、日本とは違う。よほどのことがない限り、夜間には外出しないのが無難だ。
困惑しながら視線を向けたがくぽに、たっぷりミルクを淹れたティ・オ・レを飲んでいたカイトは、コケティッシュにくちびるを尖らせた。
「そ。ふたりっきり☆それとも、もう今日は疲れた?休みたい?」
「いや。………おまえがしたいと言うなら、いくらでも付き合う」
「ふっくくぅっ!」
誠実に答えたがくぽに、カイトが返したのは仰け反りたくなるような怪しい笑い声だった。
こくこくんとティ・オ・レを飲み干すと、テーブルにカップを置く。
「じゃ、決まり!がくぽ、先にベッドルーム行ってて」
「は?ベッドルーム?」
「覗いたらだめなりよ~♪ケッコン式じゃなくて、ケンカ式になっちゃう☆」
「おい………?!」
困惑するがくぽを置いて、カイトのほうは軽い足取りでバスルームへと消える。
しばらく眉をひそめていたがくぽだが、思い切るとカップに半分ほど残っていたティ・オ・レを飲み干し、立ち上がった。
言われたまま、大人しくベッドルームへと行く。
カイトがなにをしたいのかわからない現状、立って待っているのも微妙だ。
がくぽは、毎晩二人で並んで寝ているダブルベッドの端に腰掛けた。
「………ベッドルーム、か」
ふたりきりで結婚式をしよう、と言い出して、待ち合わせ場所がベッドルーム。
『入籍』自体はとっくに済ませていたものの、『結婚式』という形で大勢のひとにお披露目したのは、今日のこと。
言葉はおかしくなるが、カイトが言いたいのはつまり――
「『初夜』………か?」
つぶやいた単語に、がくぽは思わず頬が緩むのを感じた。
一人でにやけているなど、みっともない。
大体にして体なら、日本にいたころからとっくに関係している。初めてどころか、回数を数えたらもはや、二人の両手両足の指を合わせても足らない。
それでも、頬が緩んでしまう。
馴れた体でも、未だに愛おしいことに変わりはなく、褪せることもないまま、さらに想いは輝いていく。
昼間の興奮もある。
「………いやいや」
つい突っ走ってしまった己の思考を戒め、がくぽはくちびるを噛んだ。
もしかしたらカイトは、本当に心底から真面目に神聖な気持ちで、なんらかの約束を行おうとしているかもしれない。
そこにベッドルームを選ぶのは、なによりも二人がいちばん、共に過ごす場所だからだし――
「…………ごほ」
誰もいないのに取り繕った咳払いをして、がくぽは閉じたままの扉を見た。
大した時間は経っていないのだが、長い。
そうやってカイト曰く、『飼い主の帰り待ちをしているわんこ』の顔で待つこと、しばらく。
「が・く・ぽ♪」
「っっ」
こここん、と軽い音で扉がノックされ、応えるより先にノブが回った。
ひょこりと顔を出したカイトは、慌てて居住まいを正したがくぽへと、にっこり笑う。
そして、ささっと部屋の中に入って来た――が。
「…………っ」
「ぇっへへ♪ウェディングドレス:がくぽだけのおよめさんバージョンだよ☆」
愉しそうに言うカイトに、がくぽは目が釘付けになった。
ご近所の老婦人たちが故意にか本気でか、カイトの性別を勘違いして作った、ウェディングドレス。
そもそもおばあちゃん子だったというカイトは、彼女たちの好意を、無碍には出来なかった。
『男はノリと度胸だよ、がくぽ!』という、わけのわからない覚悟とともに、老婦人たちの力作に身を包んで、結婚式に。
もちろんそのドレス姿も、言葉にならないくらいにかわいらしかった。
おそらくこれで、友人知人ご近所さんによる、カイトの性別の誤解は永遠に解けないだろうが、それくらいかわいらしい『花嫁』だった。
そう、大勢の人間にお披露目したウェディングドレス姿も、とても愛らしかったが――
『ふたりきりの結婚式』のために、カイトは再び、ウェディング衣装に着替えていた。
頭には花嫁のヴェールを被り、肘までの長さの白い手袋で覆った手には、子供たちから貰った小さなブーケを持っている。
足には同じく白い、レースのガーターストッキング。腰回りにもきちんと、ガーターベルトを締めて――
そう。
足の、太ももと腰周りの内情が、見える。
本来ならその上に着ているドレスを省いた、まさに『がくぽだけのおよめさん』姿。
ブーケを持った手でうまく隠しているが、基本的にはヴェールと手袋、ガーターストッキングしか身に着けていない。
おそらくは、下着すらも。
「………カイト、来い」
「ん、うんっ」
ベッドに座ったまま手を差し伸べたがくぽに、カイトはブーケで下半身を隠しながらという、不自然な姿勢で近づいた。
声も表情もいつもの通りに明るく弾んでいるが、肌は羞恥を隠せずに仄かな色に染まっている。
部分を覆うだけでも白い衣装と相俟って、その扇情的なことは、普段以上だった。
「ぇへ」
「………」
目の前に立つと、カイトは上気した顔で笑う。
隠されずに見えている胸の突起が、触ってもいないのにすでにつんと尖って誘っていた。
がくぽは無言で手を伸ばすと、カイトの腰に回す。抵抗する気もない体を招きながら、肌に指を辿らせた。
「…っぁ………ぁ、ん、がくぽの、すけべ………っいちばんさいしょに触るのが、そこなんて………っ」
詰られながら、がくぽはちろりとくちびるを舐めた。
辿らせた指が、邪魔するものもなくすんなりと撫でた、カイトの蕾。
もちろん、すでに何度もがくぽを受け入れて『処女』ではないが、――濡れている。
なにもしないで、興奮しただけで自然と濡れるような場所ではない。
「っぁ、んんっ」
「………どちらが『すけべ』だ、カイト」
くるりと襞を撫でてからそっと指を挿し込み、がくぽは笑った。
思った通りだ。ローターが入っている。
「こんなものを自分で仕込んで『夫』の元へ忍ぶなど、どちらがすけべなんだ、カイト?」
「ぁ、あ、ゃあん……っ」
入っているローターと共に中を弄られ、カイトは甘い声で啼きながらがくぽへとしなだれかかる。
その体を受け止めてやりつつ、がくぽは中から指を抜いた。
「ゃあ………」
抜かれたことに不満げな声になるカイトへ、その手を差し出した。
「リモコンは?」
「……ぁ……」
きれいに肌を染め上げたカイトは、こくりと咽喉を鳴らして唾液を飲みこんだ。
期待に潤む瞳でがくぽを見つめ、持っていたブーケを差し出す。
「………っふ」
堪えきれず、がくぽは小さく笑った。
可愛らしい花の中に紛れて、ローターのリモコンがある。
受け取ったブーケからリモコンを取り出し、がくぽは半ば自分に凭れて、ようやく立っているカイトを見た。
ブーケに隠されていたカイトの性器は、触れてもいないのにすでに勃ち上がって、先端を濡らしている。
緩む頬を引き締めることも出来ないまま、がくぽは手にしたリモコンを、カイトにもよく見えるようにかざした。
「『淫乱妻』」
「っぁ、ゃぁあっ、ぁんんっ、ゃあっ、ぁああんんんっ」
言葉とともにローターのスイッチが強めで入れられ、カイトのくちびるから甘い悲鳴が迸った。
立っていることも出来ず、カイトは全身を痙攣させながらベッドへと倒れこむ。
「ぁあんんん、がく、がくぽぉ………っ」
「こんな格好して、さらに自分でローターまで仕込んでくるとは、躾の行き届いた『新妻』だな、カイト?」
しらっと言いながら、がくぽはベッドの上で身悶えるカイトの姿を愉しんだ。
もちろん、『躾』をしたのは自分だ。
こういった『おもちゃ』を買うのもがくぽなら、『遊び方』を教えたのも。
もともとカイトは衒いが少なく、奔放な性質だった。体を開いたのはがくぽが初めだが、教えたあれやこれやを素直に飲みこんで、愉しめる素地があった。
正確に言うと、奔放というより、無邪気なのだろう。禁忌という意識が低いのだ。
そうしたうえで、こうやってがくぽの度肝を抜くような仕掛けをしてくることも、間々あるが――
「っぁんっ、ゃあぁ、あぅ、いっちゃぁう………っぁう、がく、ぁ、がくぽぉ………っ、いっちゃぅうう……っ」
おそらく羞恥と興奮で、普段以上に神経が尖っているのだろう。
いつもより早くに、カイトは限界を訴えた。
「ああ。見ててやるから、思いきりいやらしくイけ」
「ひぁあぅ………っ」
にんまりと笑って言ったがくぽに、カイトは快楽に誘われた涙をこぼしながら、反り返って濡れる自分の性器へ手を伸ばす。
白い手袋が、がくぽと比べればかわいらしい色形のものを掴んで、扱き上げる。
腰を揺らめかせながら、カイトはがくぽを見つめた。
「ぁ、がくぽ……ってぶくろ………っ」
限界は近いものの、手袋越しの感触がもどかしくて辛いらしい。
強請るように呼ばれて、がくぽのくちびるはますます淫蕩な笑みに崩れた。
「自分でしてきたんだろうに」
「っぁんんっ」
腐しながら、乞われるままに手を伸ばし、しとどに濡れる場所を掴む。
大して刺激してやったわけでもなく、ほとんど触れただけだというのに、カイトは一際高く甘い声を上げると、快楽を極めて全身を震わせた。
「ぁ………、あ、は………っぁあ……」
「…………」
濡れた手を舐めつつ、がくぽは一度、ローターのスイッチを切った。
入れたままにしておいても面白いが、多少意地悪な扱いとなる。今は別に虐めたいわけではなく、ただ興奮が募っているだけだ。
昼間の興奮冷めやらぬままの、『新妻』からのプレゼント――
「カイト…」
「ん………んん、ふ……っ」
羞恥によっていつも以上に尖る体に震えるカイトに、がくぽは身を屈めて口づけた。
やわらかにくちびるを舐め、反射で差し出された舌を咥えて軽く咬む。
「がぁくぽ………」
「………」
とろりと蕩けた表情で甘く呼ばれ、がくぽは身を起こしてカイトの全身を眺めた。
羞恥に染まる肌を晒し、自分だけに見せる、特別な『花嫁衣裳』姿となったカイト――
「写真を撮っておきたい」