REC LECH RECK-02-

ひどく真面目につぶやいたがくぽに、カイトは全身を更なる羞恥に染めた。

わずかに拗ねたようにぷくんと頬を膨らませると、がくぽから顔を逸らす。

そのうえで、扇情的としか言えない横目で、可愛らしく睨みつけてきた。

「はずかしーもん………だめ…………」

「じゃあ、ビデオ」

「っ」

あくまでも真面目に吐き出したがくぽに、カイトは瞳を見開く。

しかしすぐにきりりと尖ると、しどけなくベッドに倒れていた体を跳ね起こし、がくぽの両頬をつねり上げた。

「このおばかわんこっちょっと外国に住んだくらいで、ニホン語忘れたかっ!!どっからどうやって、『じゃあ』でビデオに繋げた?!」

「いぃいっ!」

力いっぱいにつねり上げられて、がくぽはわざとでもなく悲鳴を上げた。

それでも容赦することなく、カイトはがくぽの額にごつんと額をぶつける。

「記録媒体に残されたら、恥ずかしいって言ってるんでしょ?!写真でだめなんだから、音も動きも残るビデオなんか、なおさらだめでしょうがっ!!」

「だからこそだろうがっ!」

両頬をつねり上げられつつも、がくぽは負けじと叫んだ。

「どう考えても、静止画で残すより動画で残したほうがいい。全身隈なく隙なく写せるし!」

「んだから、残されたらはずかしーからいやだって言ってんだろうがっニホン語っていうかニンゲン語を理解しろ、このだめわんこっ!!」

叫び返しながら、カイトの肌はこれ以上ないほどに赤く染まっていく。瞳も潤んで、もはや罪なほどに色っぽい。

頬をつねり上げるカイトの手を取ると、がくぽは自分の手でぎゅっと包み込んで胸の前に置き、わざと身を屈め気味にして、上目遣いになった。

「『結婚式』の様子は、記録に残しておくものだろう今日の昼間だっておまえ、さんざんにビデオを撮られただろうが」

「そ、………それとこれとはっ、……別っっ。だってどう考えてもこれ、AVにしかなんないしっ!」

「使うのは俺だけだ。なんの問題がある?」

「つか………っぅ………っっ」

さっぱり悪びれないがくぽの言葉に、カイトは絶句した。

そこはなにかしら否定を――されたら、嘘だと跳ね返すが。

くちびるを噛んで仰け反ったカイトの手を、ぎゅっと握り締めて自分へと引き寄せ、がくぽはさらに身を屈めると、殊更な上目遣いになる。

欲望を隠すことなく、まっさら素直にじじぃっとカイトを見つめた。

「俺のために、恥ずかしいこともしてくれたきれいなおまえを残しておきたい。記憶だけでなく、記録媒体に、確実に。夢ではなく、現実だったと確信できるように」

「ゆ、……夢方向、推奨……」

「カイト……」

カイトとがくぽなら、がくぽのほうが背が高い。

普段、カイトはがくぽを見上げたり上目で見つめたりすることはあっても、その逆はない。

それが今、がくぽは下の方から、嘆願を浮かべてカイトを見つめている。

低姿勢だ。

下僕体質で、わんこな振る舞いはよくやるがくぽだが、低姿勢というのとはまた違う。

滅多にない角度から見る恋人――『夫』の姿とその態度に、カイトはぐらぐらと揺らいだ。

そうでなくても、なんだかんだ言いつつ、甘やかしたがりだ。

「なあ、カイト………」

「………ぅ…っ」

ぎゅぎゅっと手を握り締められ、下からずずいと迫られて、カイトは呻いた。

日本にいたころから、そうだ。

滅多に熱中する様子を見せないがくぽだが、ことカイトに関してだけは、激しい執心を見せる。

いや――こと、カイトの淫らな振る舞いに関して、特に。

言い出したら、引かない。

それ以外のことでなら、引くことも戦略のうちとせせら笑いもするくせに。

欲望にはまっすぐ直球だなんて、なんたる不器用わんこ。

なんて不器用で、おばかで、――かわいいわんこ。

「…………ちょ、ちょっとだけ………だから、ね…………っは、ハメ撮りとか……っは、やだから、ね………っ?!」

「わかった!」

「んっ」

どもりながらのカイトの白旗に、がくぽはぱっと表情を輝かせた。

拗ねたように尖りながら羞恥に染まる目元にキスをすると、素早く身を翻し、ベッドルームから飛び出して行く。

「もぉ……」

残されたカイトは、もぞもぞと足を蠢かせた。

スイッチこそ入っていないが、まだローターが入ったままだ――撮られるというなら、先に抜き取っておいたほうがいいような、しかし。

「ぅう………っ」

せっかく抜いておいてもがくぽは、最初におまえがやってくれた姿をとか、なんとか言って、――

ハメ撮りはいやだと言ったのに、撮影中に入れられたら、尚更恥ずかしい。しかもがくぽは、こんなものはハメ撮りに入らないとかなんとか。

「……………ぜんっぶ予想できる………」

ため息をつきながら、カイトはもぞもぞと身支度を整え直した。

あほなことを思いついた自分が、少しばかり恨めしい。

とはいえ普段、ああまでは記録媒体にこだわらないがくぽが、残しておきたいと駄々を捏ねるほど歓んでくれたなら、それはそれで報われている。

――おそらく、報われている、と感じてしまう自分の思考が、いちばん、自分に罠だ。

わかってはいるものの、だからとどうする気もなく、カイトはストッキングを上げ直し、濡れた手袋を心持ち、伸ばした。

頭に被ったヴェールの位置もわずかに直し――どうしてもある異物感に足をもぞつかせたところで、カメラを持ったがくぽが戻ってきた。

カメラとはいっても、家庭用の小型のビデオカメラだ。今日の昼間もさんざんに活躍した。

中の記録媒体には、『ちゃんとした』ウェディングドレス姿のカイトが、微妙に落ち着かなげな風情でタキシードに身を包んだがくぽといっしょに、笑顔で残っている。

「カイト」

「んと、………立つ?」

羞恥に肌を染めながらも、きちんと要望を訊いたカイトに、カメラを構えたままベッドの端に腰掛けたがくぽは、仄かに笑って首を横に振った。

「横になっていていい。………立てないだろう?」

「………がんばれば、立てるもーん………」

がくぽが言いたいことは、あからさまだ。

ぷいと横を向いたカイトは、殊更に恥ずかしい下半身を手で覆い隠したまま、ベッドにころんと、仰向けで倒れた。

撮影中を表す光が点灯していて、がくぽのほうを見ることが微妙にいたたまれない。

「………ぴーすとか、しないからね」

「しなくていい。あれは萎える」

「なんか、したくなってきた………っ」

ぶつくさと言いつつも、カイトはころんと横たわっているだけだ。

その体の上へわずかに身を乗り出して、がくぽはつぶさに映していく。

カイトは落ち着かずに隠した下半身をもぞつかせ、横目にがくぽを見た。

「がくぽ………」

「カイト、手」

「………ぅー」

一度唸って抵抗したものの、カイトはため息ひとつで諦めた。

毒を食らわば、だ。

「………っふ…っ」

「わーらーうーなー……っ」

手を退かして晒された下半身に、がくぽが喜色を刷いた笑いをこぼす。

力なく抗議しながら、カイトは退かした手できゅっとシーツを掴み、露わにした下半身をもぞつかせた。

隠していただけで、特に触れていたわけでもないカイトのそこは、再び力を取り戻して、ゆるりと形を変えつつあった。

撮られるのはいやだと言っておいてこの状態では、いやだの意味が変わってしまう。

「撮られて興奮しているのか?」

案の定の問いに、カイトはシーツを掴む手にわずかに力を込め、横目にがくぽを睨んだ。

「がくぽにいやらしー目で見られながら、いやらしーことに使われるビデオ撮られてるんだと思ったら、こーふんしちゃったの………っ」

「………ふ…っ」

堪えきれないように、がくぽは身を屈めて笑う。

カイトはぺ、と舌を出してから、再び視線を逸らした。

そうしている間にも緩やかに形を変える場所を、がくぽが撮影しているだろうことがわかる。

落ち着かずにもぞつき、カイトはシーツを掴んでいた手を離すと、鮮やかに染まる自分の肌を撫でた。

「ぁ………は………、がくぽ……」

「………ああ」

呼ばれて頷いたがくぽの声がやさしく聞こえて、カイトはわずかに視線を投げる。

画面を確認しながらカイトの体を映していたがくぽは、ふいと顔を上げると、微笑んだ。

「今度は後ろだ。俯せになれ」

「もぉ………っ」

軽くぷくっと膨れてから、カイトは諦めた。

ここまでくればもう、どこを撮られても同じだ。

それでもおかしなふうに力が抜けていて、自分でもどうしてと思うほどにゆっくりと、ある意味焦らすように、カイトは体を反した。

俯せになれ、と言われただけだが、カイトはわずかに膝を立てて、がくぽへと腰を上げるような格好になった。

横向きにした顔の傍できゅむっとシーツを掴むと、ちらりとがくぽを窺う。

「これで、い?」

「ああ。よく見える」

「どこの話だ……」

腐しながら、カイトはこくりと唾液を飲んだ。

腰が揺れそうだ。そこにはまだ、ローターが――

「………自分で、こんなものを仕込むんだよな、カイトは」

「ゃ、そんなとこ………っ、ヘンタイ………っ!」

がくぽの指が、期待にひくついてしまう場所を撫でている。片手にはきちんとカメラを持ったままで、おそらく映されている。

カイトの抗議を気にすることなく、がくぽは物欲しげな窄まりに指を差し入れた。

「がく………っぁあん………っ」

中に入れたままだったローターが、ずるりとつまみ出される。

しかし完全に抜かれることはなく、入口からわずかに顔を覗かせるような形で止まった。

「ぁ、がくぽ………っゃだ、そんなの………っ」

「いやらしいぞ、すっごく。口がぱくぱくして、ローターに絡みついて」

「ぁぅう………っ」

説明してくれとは言っていない。

けれど説明されて、確かに反応が上がってしまう自分がいる。

もどかしい快楽に、カイトは涙目でがくぽを振り返った。カメラにも隠されてうまく顔が見えないが、興奮していることは確かなはずなのだ。

へちゃんと腰を落とすと、カイトはわずかに体を反した。

「カイト………っっ」

「ほら………やっぱり………っ」

抗議しようとしたがくぽが、息を呑む。

伸びたカイトの足が、興奮を示して張りつめるがくぽのものをぐにぐにと踏んでいた。