さいころでぃあ・でぃ

「んぇっと、がくぽ……………」

「……………」

「ぇと………」

仕事から帰って来るや、家人への挨拶もそこそこに自室へとお篭もりしてしまったがくぽだ。

仕事先でなにか嫌な目にでも遭ったのかと、起動したばかりのがくぽを案じたカイトは、部屋まで追いかけた。

とはいえ強引に押し切ることはなく、廊下から声を掛けたカイトのことを、がくぽは不機嫌顔ではあったが部屋に入れてくれた。

が、そこまでだ。

がくぽはカイトに背を向けると微妙に離れた場所にどっかりと座って、以降、なにを話しかけてもいっさい応えてくれない。

だからといって、うるさいからと追い出されもしない。

なにか策があったわけではないカイトは二進も三進もいかなくなり、おろおろと部屋の中を見回した。

「ぁ」

その目が、綺麗に整頓され、出ているものがほとんどないがくぽの部屋の一角で止まる。

仁王像と同じオーラがにじみ出ているような気がするがくぽの背中と、そことをちらりと見比べ、カイトはこっくり頷くと立ち上がった。

「がくぽ、ちょっと借りるね?」

「は?」

『借りるね』と言ったときには、すでにカイトは借り済だった。

がくぽが許諾や裁可を下す間もなく、顔を向けたときにはカイトは『変身』し終わっていた。

「えと………まえ、は……しめない、ん、だっけ?」

「………カイト?」

カイトが移動したのは、がくぽが雑多な日用品のすべてを放りこんでいる押入れの前だ。そこから、がくぽが部屋着にしている浴衣を勝手に取りだすと、こちらもまた勝手に羽織っていた。ただし羽織っただけで、帯は締めていない。

無断借用や諸々以上になにかしら、壮絶に嫌な予感を抱いたがくぽの前に、カイトは思案顔でやって来た。

へちゃんと座ると、もともとの背丈の差をさらに開くように体を撓め、殊更な上目遣いとなってがくぽを覗きこむ。

「カイト」

「あの、ね………がくぽ。えっち、しよ?」

ほわほわと目元を染めたカイトは、もじもじしながらがくぽに乞うた。

揺らぐ瞳としばし見合ってから、がくぽはゆっくりと顔をしかめ、眉間を押さえる。

「カイト。それ、誰から聞いたアイディア?」

「トモダチのKAITO」

地の底を這うような低く抑えた声で放たれた問いに、カイトはあっさりと答えた。撓めていた体を起こすと、困惑した顔で、服の上から羽織った浴衣の襟をつまむ。

「がくぽの慰め方がよくわかんないって、相談したらね………『がくぽなんて、ちょーカンタンだよ俺がアイツの浴衣とか羽織とかちょっと引っかけて、えっちしよっておねだりしたら、一瞬で直るし』って」

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「単なる兄と弟でその慰め方はないと、どうして自分で気がつかないんだ、カイトは?!ましてやまったく疑いもなく実行するとか、いったい全体、なにを考えているんだいくら旧型だって、思考が謎回路なのにも、程があるだろう!!」

――懊悩も著しく、だんと食卓を叩いて叫んだがくぽに、向かい側に座るミクはわずかに仰け反り、隣に座る頼れる長姉の袖を軽くつまんだ。

「ああうん、ええとなんか………ごめんねなさい?」

もごもごと謝る少女の声は、動揺の極みにいるがくぽには届かなかった。

食卓に埋まりそうなほど項垂れたがくぽは、打ちつけた拳をぎりりときつく握りしめる。

「それで俺が本当に押し倒したら、ヤらせてくれるとでも?!というか、俺のかわいいカイトにいかがわしい知識を吹き込みやがって、どこの悪いKAITOとがくぽだ畜生、羨ましい!!」

「めーこちゃんめーこちゃんめーこちゃん、本音だだ漏れてるっぽいけど、大丈夫かなこのひと?!」

さらに引きながら訊いた妹と、食卓に埋まって敗北感に塗れる弟とを見比べたメイコは、軽く眉をひそめて吐き出した。

「いいわよもう、そこまでされたら食っちゃって」