仕事で疲れて帰って来たがくぽを慰める方法がよくわからないと、同じく『がくぽ』と付き合いのある友人のKAITOに相談したカイトだ。

その結果として、単なる兄弟でしかないがくぽに向かって、『えっちしよ』とおねだりするに至った。それも、がくぽの部屋着である浴衣を服の上からぶかぶかと羽織ってだ。

でぃあれす・さいころでぃ

くり返そう。

カイトとがくぽは、単なる兄弟に過ぎない。なり立てほやほやの新米だが、初心なのは恋人同士としてではない。兄弟としてだ。

だというのに。

「……………んと。え………っと。………………………だめ?」

がくぽの機嫌が芳しくならないようだと察して、カイトはおずおずと首を傾げた。相談した友人曰く、『ちょーカンタン』にがくぽの機嫌が上向くはずだったのだが。

「えと、………なんか、違った………かな。間違えた…………?」

「……」

せっかく美麗な顔立ちだというのに、がくぽが眉間に刻んだ皺は、なにかしらのものがつまめそうだった。深いだけではない。頑強だ。

がくぽの浴衣をぶかぶかと羽織ったまま、カイトは途方に暮れてあちこちへと視線を彷徨わせた。

その視線が、ふと止まる。揺らぐ瞳が、ゆっくりと見張られて大きく丸くなった。

「あ。あ………わかった。そっか、あ………そ、だよね………え、『えっちしよ』って、違うよね。『えっちしよ』なんて、おっかしいよね………!」

「……………っ」

ようやく気がついたかと、安堵半分。

言いながらふわふわと朱に染まり、こみ上げる羞恥を堪えようと両手で頬を押さえるカイトの様子に、がくぽの咽喉が勝手にぐびりと鳴った。

言葉もなく見入るがくぽに、頬を押さえる手の甲まで朱に染めたカイトは、羞恥に歪む笑みを向けた。ちょこんと首を傾げると、がくぽへとわずかに身を乗り出す。

「『えっちしよ』じゃないよね、がくぽ。えと、あの………えっち、してがくぽ、俺にえっち………して」

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「だから俺たちは、単なる兄と弟だと言っているだろう?!なのにようやく問題に気がついたかと思えば、語尾の言い換え?!それ以上にもっと、気にすべきところがあるだろう、他にいくらなんでも、思考が謎回路通り越して、魔回路過ぎる!!」

――懊悩も著しく、だんと食卓を叩いて叫んだがくぽに、向かい側に座るミクはわずかに仰け反り、隣に座る頼れる長姉の袖を軽くつまんだ。

「ああうん、ええとなんか………ほんとーにごめんねなさい?」

もごもごと謝る少女の声は、動揺の極みにいるがくぽには届かなかった。

食卓に埋まりそうなほど項垂れたがくぽは、打ちつけた拳をぎりりときつく握りしめる。

「そもそも年齢的にも稼働年数的にも俺より上で、間違いなく『兄』だろう、カイトはなのにまさか、『えっち』がなにするものかわからないとか言うのか?!だとしたら手取り足取り、いちからすべてフルコースで教え込みたい躾けたい俺色に染めたい!!」

「めーこちゃんめーこちゃんめーこちゃん、本音だだ漏れてるっぽいけど、大丈夫かなこのひと?!」

さらに引きながら訊いた妹と、食卓に埋まって敗北感に塗れる弟とを見比べたメイコは、こみ上げる諸々の感情を抑えこむように額に指を当て、静かに吐き出した。

「だからいいわよ、食っちゃって。無自覚でも、そこまで据え膳してんだから……」