最近出来たばかりの弟、がくぽのご機嫌麗しくせんと、友人KAITOに教わった方法で努力奮闘中の兄、カイトだ。

でぃあれす・さいこ

その方法だが、同じく『がくぽ』と付き合いのある友人KAITO曰く、カイトががくぽの羽織か浴衣を軽く引っかけ、『えっちしよ』とおねだりするだけという。

一聴、非常に簡単な方法だ。実際教えた方も、『ちょーカンタンだし』と胸を張り、堂々主張していた。

ところで大事なことなので再度注記しておくが、カイトとがくぽは兄弟だ。なり立てほやほやではあるが、兄弟である。

「ん………ちがう………のこれも、だめ………ぇと、えと………っっ」

友人曰くの『ちょーカンタン』にがくぽのご機嫌麗しくなる方法だったが、やってもやってもカイトのがくぽはご機嫌麗しくならない。むしろどんどん、眉間の皺が深くなる。

服の上から浴衣を羽織ったまま、おろおろと『間違い探し』をするカイトを、がくぽは限界まで眇めた目で注視していた。

確かにがくぽは、年の差も微妙で、体格や諸々も微妙な『兄』のカイトを『カイト』と呼び捨てにしている。『おにぃちゃんvvv』と、愛らしく呼んだことはない。

だとしても、兄弟だ。カイトがこれまで、そのカテゴリから逸脱した行動を起こしたこともなかった。

がくぽも同様だ。呼び方ともあれ、振る舞いは兄弟としてずっと――

「ん………っん、ぁ………っわかっ、た………!」

ややして二度目のエウレカを叫んだカイトは、今まで以上に真っ赤に染まり上がった。今日いちばんの、羞恥の表情だ。

立ち上る蒸気が見えそうなほどに赤く染まったカイトは頬を押さえると、消えたいとばかりにぷるぷると頭を横に振った。

「は、はづかし………っ俺、おれ、なにやって………っちょ、ちょっと考えたら、すぐわかるのに、こんな間違い………ありえない………っっも、もぉ、やだぁ………っっ!!」

「………っ」

横に振りながら、泣きべそを掻いてかん高い声でさえずる。

がくぽは思わず、くぴりと咽喉を鳴らして唾液を飲みこんだ。もはや油断はしない。しないが、つい、惑乱するカイトに見入ってしまう。

羞恥極まったカイトはがくぽの視線にも気づかず、ぐっすんと洟を啜った。

「ふ、服の上から、浴衣なんて………おっかしいよねふつう、服を脱いで、浴衣羽織るんだよね?!なんで俺、こんな当たり前のこと………っ!!」

「カイト………っっ」

もはや畳に土下座状態で項垂れるがくぽに、カイトは潤んで熱を持つ瞳をちらりと向けた。

なんとか顔は向けていたがくぽと見合うと、羽織っただけの浴衣の襟をちょこんとつまんで、遠慮しいしい首を傾げる。

「あの、ね、がくぽ……………………………ぇと。ぬ、脱がない、と………………だめ?」

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「わかってない………っわかってない………っ!!わかってない………っっ!!『脱がないとダメ?』って、なんだ?!『脱がないとダメ?』って!!」

――懊悩も著しく、だんと食卓を叩いて叫んだがくぽに、向かい側に座るミクはわずかに仰け反り、隣に座る頼れる長姉の袖を軽くつまんだ。

「ああうん、ええとなんか………ほんとーにごめん…」

もごもごと謝る少女の声は、動揺の極みにいるがくぽには届かなかった。

食卓に埋まりそうなほど項垂れたがくぽは、打ちつけた拳をぎりりときつく握りしめる。

「『脱がないとダメ?』ってそんなの、脱がないと駄目に決まっているだろう?!脱いでこそ意味のある格好だろう脱いで、いちからやり直すべきなのに、どうしてここに来て躊躇うんだ煽られた俺の始末をどうつける?!カイトも兄ならきっちり、煽った俺の下半身の責任を取れ!!」

「めーこちゃんめーこちゃんめーこちゃん、本音だだ漏れてるっぽいけど、大丈夫かなこのひと?!支離滅裂もいーとこだよ!!」

さらに引きながら訊いた妹と、食卓に埋まって敗北感に塗れる弟から視線を逸らしたメイコは、虚ろな言葉を吐き出した。

「そういえば貰いものの、ちょっと高級なサバ缶があったわね………今夜の肴はそれでいいわ」