昼間の野辺だとわかってはいても、がくぽはカイトの体を開いた。
転がした体には、昨日の情交の痕が鮮やかに残っている。
しょちぴるり
第2部-第20話
「………ん……っ」
大人しく転がる体に伸し掛かり、がくぽはくちびるを塞いだ。
カイトは素直にくちびるを開いて、がくぽの舌を招き入れる。慣れてきたようだが、押しこんだ舌への応じ方は拙く、覚束ない。
弱みに付け込んでいるのかもしれないと思えば、本当ならこんなふうに与えられる体を、開くべきではないのだろう。
それでも求めずにはおれないから、がくぽは苦く笑う。
「がくぽ……?」
「……いえ」
薄絹を開きながら、がくぽはカイトの下半身を探った。ここのところ溜めっぱなしだったうえ、元々が旺盛な剣士であるがくぽは、すでに朝の時点で復活可能だった。
傍らに抱いて寝ていたのが、全裸のカイトでもある。
それこそ、朝から寝台を汚したいのを懸命に堪えて――
「………カイト殿」
「ぁ、んん……っ」
開いていって探ったカイトの下半身は、とろりと濡れていた。がくぽが触れるより先に、カイトの体はすでに快楽に蕩けていたことになる。
「………いつから、こうです?」
「ん………っ」
思わず訊いたがくぽに、カイトは羞恥に顔を歪めてそっぽを向き、自分の体を抱いた。隠すようなしぐさをされるとかえって煽られて、がくぽはやや乱暴にカイトの下半身を弄る。
「ぁっ、んんんっ」
「カイト殿。いつから、こうなっていました?」
びくりと跳ねたカイトにさらに伸し掛かり、がくぽはしつこく問う。
恨みがましそうな視線を寄越したカイトは、すぐにまた、瞳を伏せた。
「……………みた、とき…から」
「………」
端的な言葉を正確に拾うのは至難の業で、がくぽは眉をひそめる。
顔を逸らしたままのカイトは、自分を抱く腕にきゅうっと力をこめた。
「………がくぽが……どこに、どうやって、口づけしたか………おもいだしちゃって………」
「…………………」
がくぽは、さらに眉をひそめた。
おそらくメイコに指摘されて、自分の体に情交痕があることに気がついたときのことだろう。
あのとき、羞恥に染まって泣くカイトが哀れで、申し訳なくて、がくぽはせめて人目から隠せるようにと、己の着物を与えた。
そのがくぽを、カイトは拒絶した。
だから、思ったのだ――カイトにとっては意に染まぬ行為で、自分は弱みに付け込んだのだろうと。
しかし、もしかして。
「………衣擦れにすら、感じるほどですか?」
「ゃっぁんっ」
わざとくすぐるように軽く肌を撫でると、カイトは大げさなほどにかん高い悲鳴を上げて震えた。
昨日、この体を止められなかった理由のひとつだ。
カイトはあまりに敏感で、快楽に弱い。
ほんのわずかな刺激であまりにも震えて啼き、あっさりと快楽の極みに達するものだから、愉しくてやめられなかった。
カイトが極みに落ちて啼く姿を、どれほど恋うたかわからない。
そんなものを望む自分の醜さを、どれほど憎んだかわからない。
苛まれ続けたその苦しい二律背反の分だけ、がくぽはカイトを我慢出来ず――
「…………苦しいでしょう?すぐにも私を求めてくだされば、いいのに」
試すようにこぼすと、カイトはふるりと震えて、がくぽを見上げた。甘く睨まれて、がくぽのくちびるは笑みを刷く。
「………カイト殿?」
「…って、だって…………こんな、こんなの………」
「………カイト殿」
躊躇って空転する言葉に、がくぽは声を低めた。耳朶にくちびるを寄せて、舌を押しこむ。
「ひゃぁっあっ」
冷たく凍える場所を舐めて、がくぽはやわらかな耳たぶにきりりと牙を立てた。
「ぁっ、ぁああっ」
「………求めてください、カイト殿。これからは、すぐに。必ず」
「んんんっ」
届いているのかいないのか、カイトは与えられる感覚に痙攣をくり返すだけだ。
わずかにカイトから離れたがくぽは、ぷっくりと尖った胸の突起をつまみ、きゅっと押し潰した。
「ぁあんっ」
「わかったと、言ってください」
「んんっ」
「カイト殿。わかった、と」
「んぁっ、あ………ふっ」
命令のような願いが降って来て、カイトは快楽に歪む瞳を懸命に開き、伸し掛かる男を見上げた。
尊大なのに、いつものとおり、やさしい顔だ。
懇願されているのにも、似ている。
カイトはこくんと、頷いた。
「んっ、わ、………わか…………んんっ」
――カイトには、がくぽが答えを聞く気がないとしか思えなかった。
こちらの言葉が快楽に消されているのをわかっているはずなのに、しつこく激しく、感覚を追い上げる。
「んん………っぅ」
「カイト殿………わかったと、言ってはくださらないんですか……?」
「ふ………っぁ………っ」
そのうえで、責めるように求められて、カイトはほろりと涙をこぼした。
「ん、も………っがくぽの、いじわるっ………っっひぁあんっっ」
詰った瞬間に、つままれたままの場所が痛いほどに捻り上げられた。
すぐに手は離れたが、カイトはじんじんと疼く場所に呆然と瞳を見開く。
転がしていたカイトの体を抱え上げて、がくぽは座る自分の膝に乗せた。
顔の高さを合わせて、瞳を覗きこまれる。
「………カイト殿」
「ん………」
「カイト殿…」
苦しそうに求められて、カイトは痺れる舌を軽く突き出した。
がくぽはすぐさまカイトの舌を咥えて自分の口腔に招くと、絡めあい、牙を立てて、やわらかな肉を味わう。
「ん………っ」
ぶるりとカイトが震えたところで、口づけは解かれた。
カイトはがくぽの首に腕を回して擦りつき、すんと鼻を鳴らす。
「………やくそく。…………体、うずうずしたら………すぐ、がくぽのこと、よぶ………」
「………」
痺れる舌で吐き出した、覚束ないカイトの約束の言葉に、がくぽの気配はあからさまに緩んだ。
上機嫌になったかもしれない。
どうしてこんなことでと不思議に思いつつも、カイトは顔を上げ、がくぽを見つめた。
「………がくぽも。やくそく……して」
「はい。………なにを、ですか?」
いい返事はしたものの、そんな鈍感なことを言うがくぽを、カイトは甘ったるく睨みつけた。
「おれのこと、ほしくて、体うずうずしたら………すぐ、いうの………っ」
「………」
詰るように突きつけると、がくぽは切れ長の瞳を最大限に見開いた。
いつも冴え冴えと光る瞳が、熱を持って潤んでいる。
甘そうだと咄嗟に思って、カイトは舌を伸ばした。
眼球に触れる寸前で、がくぽは反射で瞼を下ろしてしまい、カイトの舌は粘膜に届かなかった。
「………がくぽ」
二重に責めるように呼ぶと、瞼を開いたがくぽはうれしそうに微笑んだ。
「約束します。………あなたが欲しくなったら、遠慮せずに言いましょう」
「ん………っぁ、ふぁっ」
満足そうに頷くカイトの後孔に、がくぽはするりと指を滑らせる。昨日、散々にがくぽを呑みこんで擦り上げられ、まだ微妙に腫れているような感じがする場所だ。
びくんと震えて強張ったカイトの頬に、がくぽは軽く口づけた。
「………痛いですか?」
「んん………んーん………っ、へーき、だから………っ」
「しかし、昨日は性急にことを進め過ぎました」
カイトの言葉など聞くことなく、がくぽは反省を述べる。
大丈夫だと再度主張しようとするカイトに、がくぽはあくまでもやさしい笑みを向けた。
「すみません。少し、そこに四つん這いになって……こちらに、尻を向けてもらえませんか?」