しょちぴるり

第3部-第17話

「ん、んゃ………っぁ、あ、ぁんん………っ」

しつこく肌を辿られるのは、いつものことだ。カイトの肌はどこに触れても敏感で、がくぽは愉しくないところがないという。

けれど今日の触れ方は、なにか違う気がした。

いつものような、――貪られているような、感覚がない。

いつもいつも穏やかで、礼儀正しいがくぽだというのに、一度肌に触れると途端に豹変して、貪るようにカイトを味わった。

カイトはいつでも翻弄されて、かん高い声で啼きながら幾度も幾度も吐精し、がくぽの熱を受け止め、疲れ切って寝台に埋まった。

今とて、カイトのくちびるからは、ひっきりなしにかん高い声がこぼれる。

反り返った性器は痛いほどで、震えながら頂点を極めようとしている。

それでも――

「ぁ、はぁ………んっ………ぁんぅ、がく、がくぽ………ぉ………っ」

体をくねらせながら強請るカイトに、胸から下りて腹へと舐め辿っていたがくぽが、わずかに顔を上げる。

「ん、ね………い、きた……ぁ………イきた…………んっ」

「口で啜りますか?」

「ぁ、ん………ん、ん………っ」

言葉にならず、頷くことで強請ったカイトに、がくぽは微笑みを浮かべる。

おかしな言い方だが、穏やかな顔だ。

切羽詰まった、追い立てられたような雰囲気がない。

だからといって興奮していないわけでもなく、たまに触れるがくぽの下半身は、すでに兆して熱い。

「ぁ………ん、んんん………っは、ゃぁあ………っ」

痛いほどに兆す雄がちゅぷりと口の中に飲みこまれた途端、カイトの腰は激しく震えた。

敏感で我慢が利かないのはいつものことだが、与えられる感覚がすべて、異様に神経を刺激する。

含んだ途端に吐精されたがくぽのほうは、口の中に放たれたものを大人しく飲みこんだ。音を立てて啜り上げて、そのうえで再び、咥え直す。

「ぁ、ゃ、やぁあ………っそん、そんな、すぐ………っ」

「大丈夫です。ゆっくりしますから」

「ぁあう……っ?!」

ゆっくり――すると、どうなるというのか。

疑問に思うカイトだが、追求することは出来ない。

腰を跳ね上げさせて、カイトはがくぽの『ゆっくり』な口淫に晒された。

舌遣いの巧みさはいつもの通りだが、刺激の仕方が緩い。激しく舐めしゃぶるというのではなく、舐め解くといったほうがいいような感じだ。

気持ちいいのは変わらないが、息をつく暇がある。

考えをまとめる余裕こそないものの、カイトはひっきりなしに腰を震えさせながら、下半身に埋まるがくぽを見つめた。

逆巻く炎は、いつもの通りだ。

カイトの体を焼き、爛れさせ、がくぽへと蕩け繋いで共に燃え盛る。

それでも、いつもと違うと思う――勢いはそのままに、刺々しさだけ、失われたような。

焼け爛れる痛みは変わらないのに、炎の勢いは盛んだというのに。

カイトの体を辿るがくぽが、興奮しながらも穏やかであるように、身に纏う炎も、盛りながら丸みを帯びている。

「ん、んん………っぁ、こんな………っの…………や、ガマン、できなぁ………っ」

ゆっくり責められても、カイトは結局あっさりと吐精に追いやられた。

がくぽがどれほど気を遣ってくれても、肌が尖っている。刺激のひとつひとつに、自分でもおかしくなるほどに感じて、反応してしまう。

がくぽは再び口に受け止めたものを、咽喉を鳴らして飲みこんだ。

ちゅるりと音を立てて最後まで啜り上げると、濡れた自分の指まで名残惜しげに舐める。

「ぁ………は、がく……ぽ………」

見つめるカイトの咽喉が、こくりと鳴る。

震えながら手を伸ばすと、どうにか引っかかった長い髪を掴んだ。

「ね、おれ、も………おれも、なめたい………がくぽの、くちに………」

「………」

おねだりに、指を舐めていたがくぽは軽く眉を上げる。

カイトは舌を突き出し、がくぽを見つめた。

「ね……?」

「…………俯せになれますか?」

「ん……?」

問われて、カイトはもそもそと動くと、体を反した。がくぽへ背中を向けるような形で、顔だけ振り向かせる。

「がくぽ………っわっ?!」

これでいいと問うと、がくぽはカイトの足を掴み、体を引きずり上げた。

乱暴なようだが、器用に動かされたせいで痛みもない。

そのまま、がくぽの顔の上に性器を乗せるような形にされて、カイトは羞恥に全身を染めた。

「が、がくぽ………っ」

「あるでしょう、口元に」

「えあ………あ、ぅん」

「どうぞ?」

「………」

ずり上げられたことでカイトの性器ががくぽの顔の上にいったように、カイトの顔の傍にも、兆しているがくぽの雄があった。

舐めていいと赦されたが、カイトはもう一度、がくぽの顔を窺った。

がくぽのほうは気にすることなく、目の前に持って来たカイトの性器を眺め、わずかに顔をずらすと、小さな双丘に舌を伸ばす。

「っっ」

ちゅくりと窄まりを舐められて、カイトはびくりと跳ねた。

そこは、弱い。弱くないところがあるのか訊かれると困るが、そこを舐められるのは、ひどく弱い。擦り上げられる期待が高まって、腹の疼きが加速するのだ。

「ぁ………ぁっ、ぁ………っ」

舐められながら腰を揺らし、呻くだけのカイトに、がくぽは顔を上げる。

「カイト殿……」

「ん、ぁ………ぅん、ぅん………っ」

促されて、カイトは慌てて頷く。兆しているがくぽの雄を手に取ると、唾液をたっぷりと乗せて、伸ばした舌でべちゃりと舐めた。

「ん………っふ、んん………っ」

「………っふ」

唾液でべたべたに汚しながら、手を添えて擦り上げ、垂れるものを塗りこんでいく。舐めたいなら、いっしょに濡らせというのは、がくぽの教えだ。

カイトの蕾もがくぽが濡らすが、そこも濡れていると、さらに挿入がし易くなっていいからと。

教えられたまま、カイトはとろとろと流れて下のほうに水たまりを作りそうなほど、唾液を乗せて濡らす。

そのうちに、刺激されたがくぽの雄からも雫がこぼれ出し、カイトは陶然となってそれを啜った。

「んん、がくぽの………あじ………」

つぶやきながら、懸命に啜る。もっと出て来いと促すように、殊更に先端にだけ舌を這わせ、くすぐった。絞り出すように、竿も激しく手で扱く。

「………っふ……」

「っぁんっ」

堪えきれないがくぽの鼻息が、唾液で濡らされた蕾に掛かる。

びくりと跳ね上がったカイトは、わずかにがくぽのほうを振り返った。

尻に顔を埋めていて表情はよく見えないが、興奮に蕩けた気配はわかる。

「………ぁ、は…………ぁ………っ」

吐息をこぼすと、カイトは手に握ったままのがくぽの雄へと顔を戻した。

とろとろと自分で蜜をこぼすそこに、ちゅぷりと吸いつく。

「ん………んん………ちゅ、ちゅ………ん、はふ、ん…………」

「カイト」

「ぁ…………っぁ」

切羽詰まった声で、いつにない呼び方をされ、カイトの腹はきゅううと締まった。

欲しいほしいと、疼いている。

「ん………っ」

呼ばれた意味ももうわかるから、カイトは弄んでいたがくぽの雄をくぷりと咥えこんだ。咽喉奥まで突いても余りそうなそれを飲みこみ、舌を絡めながら引き出す。

濡れたそれを両手で扱きながら、舐めほぐし、啜り上げた。

「がくぽ………っちょーだい…………っ」

「………っ」

おねだりに、がくぽが息を呑んで、すぐ。

吹き出した熱に、カイトは口をつけ、咽喉を鳴らして飲みこんだ。

「ん………っんく…………っんく……っふ……っ」

こくりこくりと飲みこみ、残滓もきれいに啜り上げると、カイトは顔を離し、くちびるを撫でた。

口の中に残したものを舌の上で転がして、首を傾げる。

味が、違う――ような?

「ん………?」

「カイト」

「ぁ………っ」

考えこんでいると体を反されて、座るがくぽの膝の上に招かれた。

「ん………っ」

わずかでも、残っていたものをどうにか飲みこんだカイトに、がくぽは熱に潤む瞳を向けてくる。

「どうしました?」

「ん………なんか、がくぽの、味ちがうなって………」

「違う?」

訝しげな問いに、カイトはくちびるを撫でながら頷いた。

「うん。いつもより、おいしい」

「……………」

「ん、あ、あっ?!」

カイトが今まさに、啜り上げて飲みこんだばかりのものが、すでに硬さを伴って膝の上の小さな双丘を突いた。

「わ、ぁ…………」

「迂闊なことを」

「う、うか、うかつなに?」

「あなたが欲しくて、我慢出来ないということです」

驚いた顔のカイトに、がくぽはしらりと言う。

その顔からはそろそろ余裕が消えているが、やはりいつもと違う。追い立てられた、手負いの獣じみた光がない。

余裕はないのだが、別の部分では、余裕だとしか言えない。

「がくぽ?」

「入れても?」

「ん、ぅん」

なんだろうと探るカイトに、がくぽは微笑んで訊く。

頷いたカイトの姿勢を整えながら、小さく笑いが吹きこまれた。

「……今日のあなたは、やわらかいですね」

「え?」

そんなはずはない――柔軟性はいつも通りだし、肉付きも変わらない。

きょとんとしながら、カイトはわずかに瞳を細めた。舐めほどかれた蕾に、カイトがしとどに濡らした雄が押しつけられている。

きゅう、と締まる腹を見下ろし、そこに刻まれた赤い蕾を撫でてから、カイトはがくぽを見つめた。

「がくぽは………」

「はい」

「…………がくぽは、なんだか、しあわせそうに、みえる」

真面目な顔で告げたカイトに、がくぽはまさしく、しあわせとしか言えない笑みを浮かべた。

「はい」

「っぁ…………ふぁあ………っんっ」

確信に満ちた肯定とともに、がくぽが押し入って来る。いくら馴らされてもこの瞬間だけは微妙に緊張し、カイトは慌ててがくぽにしがみついた。

ふ、ふ、と短い呼吸を継ぐが、いつもよりきつくない気がする。

「ぁ………」

「やはり、やわらかい…………」

「んん、ふ………っめ、がくぽ………っめ………っみみ、なめなめして、しゃべっちゃ、めぇ……っ」

入れた当初は、馴れるまでわずかに体が強張って、がくぽがあちこちを刺激してくれることで、どうにか緊張をほぐすカイトだ。

がくぽはおそらく、いつもの通りにしてくれただけだが、今日のカイトはすでに勝手に蕩けていた。

刺激も必要なく、がくぽの言うとおりに『やわらかく』雄を受け入れている。

啼くカイトに構うことなく、がくぽは耳朶をしゃぶり、首へとくちびるを辿らせ、痛いほどに痺れる胸の飾りを含んだ。

「ぁあん、めぇ………っや、いっちゃ………っいっちゃうからぁ、おれ………っ………だけで、いっちゃうからぁあ………っ」

がくぽが突き上げなくても、カイトのほうが堪えきれずに腰を揺らめかせている。

覚えている自分の弱点に擦りつけるようにして、カイトはさらに体を跳ねさせた。

「ゃ、もぉ………っこんな、むり…………っガマン、できな………っ」

「しなくていい」

「っぁっ」

快楽による涙をこぼすカイトを抱きしめ、がくぽはそっとつぶやく。

「しなくていい――なにも、我慢など」

「………っぁ、ひぁああんっ!」

腰をつかんだがくぽは、ぐり、とカイトの体を捻る。堪えきれない場所をきつく刺激されて、限界が近かったカイトはあっさりと極みに追いやられた。

「ぁ………っは…………っ」

息を吐きながら力なく崩れ、懸命に縋るカイトを抱き直すと、がくぽは果てることなく押しこんだままのものを突き上げ始めた。

「っぁ、がくっ」

「カイト」

「っぁあんっ、ひっぅ…………ぁああっ」

名前を呼ぶと、カイトの声は甘さを増し、がくぽに縋りつく。

痛いほどに縋りつかれながら、がくぽは腰を突き上げ、カイトの中に己の欲望を放った。

「んんんっっんんっっ」

腹の中に満ちる熱にカイトは痙攣し、落ちそうになる体をがくぽはきつく抱きしめて、すべてを注ぎ切った。

「…………愛しています、カイト………誰よりも、なによりも………」

「ん……は…………ぁ……」

未だに収まらない痙攣に翻弄されながら、カイトは気がついた。

いつもと違う、穏やかに辿られる肌。

味が違った、がくぽの精。

やわらかくほどけた、自分の体――

震えながらも、カイトのくちびるは笑みを刷いて、抱きしめてくれるがくぽの髪を軽く引っ張った。

「あいしてる、がくぽ………」