耳朶を濡らしたがくぽは、すぐさまカイトのくちびるを塞いだ。触れると開くくちびるを舐め、その中に舌を差し込む。

「ん、ふ………っん、んくっ」

やわらかに歯列を辿り、舌を絡めながら流し込まれる唾液を、カイトは咽喉を鳴らして飲む。

久しぶりだ。

触れ合って、軽く弄る程度の口づけは交わしていたが、こうまで深く重なり、貪るものはたまごが生まれて以来、していなかった。

しょちぴるり

第4部-第7話

特に体温を上げていないカイトの口の中は、ひんやりとしている。いくら舌を絡め合い、興奮させたところで、体温が上がることはない。カイトが自らの意思でもって、弄らない限り。

「………カイト殿」

「ぁ、ん………っ」

請われて、カイトはがくぽの口の中へと舌を伸ばした。

入った瞬間にびくりと震えるのは、熱への反射的な反応だ。いつでも冷たいカイトにとって、がくぽの体温は高すぎるらしい。火傷しそうだと、爛れ落ちそうだと言う。

熱によって蕩けきった、甘い表情で。

「ん………」

「ふ……」

冷たい舌を受け入れ、しゃぶりながら、がくぽは堪え切れない呻きをこぼす。走る快楽に背筋が震え、カイトの肌を辿る手にさらに熱が入った。

冷たいだけではない。カイトの口づけは、常に薄荷が香る。

甘いのに、胸が透く薄荷水――夢中になって飲んでも、甘さで咽喉が灼けることもなく、腹がもたれることもない。

思考を蕩かせてふやかす絶妙な甘さとともに、体の中に溜まった澱を洗い流すかのような、清涼感。

胸が透いて体が軽くなり、思考が清明となっていくのに、相手への欲情は醒めることなく――

「ん、ん………っ」

夢中になってしゃぶられ、上がっていく体温に、カイトの鼻声が苦しさを帯びる。

普段でも火傷しそうなほどに熱いのが、がくぽの体温だ。興奮して上がれば、カイトにとっては焼き鏝を当てられているも同然になる。

「か………んっ」

「んん………っ」

苦しげな響きに顔を上げようとしたがくぽだが、すぐにまた、カイトのくちびるに埋まった。

痛みに眉をひそめながらも、陶然と蕩けたカイトは首に腕を回してしがみつき、がくぽの熱を求める。

「は、ふ………っ」

「………ふ…」

蕩けきって痺れ、応じることも覚束なくなったところでようやく、二人はくちびるを離した。

飲みこみ切れなかった唾液で濡れるカイトの口周りを、がくぽは丁寧に舐めて清める。カイトはくすぐったさに笑い、長く垂れるがくぽの髪を軽く引いた。

「カイト殿」

悪戯はいけないと諌めるがくぽに、カイトはまた笑う。

笑いながら、口づけの間もずっとがくぽが弄っていた胸に手を這わせた。

「ね、………」

「………はい」

やわらかに辿るだけの動きだが、がくぽは目を離せなくなって見入る。

すでに硬くしこる乳首を指に挟むと、カイトは軽く引っ張って示した。がくぽが先にした悪戯で痺れるそこを見せつけ、おねだりを浮かべた上目遣いになる。

「なめて………すって……さっきみたいに、………さっきより、もっと、……いやらしく、して?」

「………はい」

笑み崩れたがくぽは、強請られるままに口を落とす。

肉はなく、真っ平らな場所だ。なにより男としては細い部類に入るカイトは、さらにぺったりとした感触で、すぐに骨がある。

それでもがくぽに吸われてしゃぶられ、撫でまわされると甘い声を上げて悶え、よがって啼く。時として、ここを攻められるだけで極みに達してしまうこともある。

「ん、ぁ、あ………ぁ、ふぁんっ………っ」

ちゅうちゅうと音を立てて吸われ、カイトはぎゅっと目を閉じて体を丸め、啼く。長い髪をかき乱すようにがくぽの頭を撫で、さらに胸へと押しつけるように抱きしめた。

「ん、んん……っぁ、あ………っ、ん、がくぽ………っ」

丸みも肉もなく、のっぺりぺったりとしたカイトの胸を、がくぽは夢中になってしゃぶる。骨の浮く肌にかりりと牙が立ち、刺激に弱いそこには赤い痣が咲く。

快楽に丸まっていくカイトは、浮かせた腰を無意識に揺らした。

「が……くぽ………がくぽ………ぉっぱ……でな、けど………ん、すき……ぉれの、………すき………?」

「………出ていないのですか?」

喘ぎながら途切れ途切れに訊かれ、がくぽはしらりと首を傾げてみせた。つぷりと勃ち上がった乳首から口を離し、唾液に濡れそぼるそこにふっと息を吹きかける。

「っひゃんっ」

丸まっていたカイトの足に力が入り、挟みこむがくぽの体を締め上げた。腰が跳ねて、兆す場所がぶつかる。

がくぽは笑って、陽の光の下で見たならきっと、真っ赤に熟れ上がっているだろう場所に牙を立てた。

「っぁあ、ゃあぁんっ」

「………すっかり忘れていました。そうですね、こうまでしても、乳は出ていないですね」

笑いながら、がくぽは胸に牙の痕を刻み、勃ち上がった蕾をぴんぴんと爪弾く。そのたびにカイトは腰を跳ねさせ、がくぽの体に絡みついて縋る。

体の動きが不自由になっても気にせず、がくぽは爪弾いていた乳首をつまみ、きゅっと捻った。

「ひぁあんっ」

「乳は出なくとも、蜜は出ているのではないですかあまりの旨さに、つい夢中になりました。――どちらにしろ、いくら子供であっても共有する気はありませんが」

一際大きく跳ねたカイトに満足げに頷き、がくぽはあっさりと体を起こす。挟んで締め上げる足を軽く割り開くと、触れもしないのに反り返り、すでにとろりと蜜をこぼす場所への期待にくちびるを舐めた。

「ゃう………っ」

「こちらの蜜もまた、旨そうですね」

「ん、がくぽ………っ」

顔を間近に寄せてつぶやくがくぽに、カイトは身を捩る。太ももの付け根を押さえられていて、自由を奪われた体は恥ずかしい場所をわずかも隠せない。

当たる吐息もまた、体に劣らず熱い。

カイトは自由にならないまま腰を捩らせ、それでも足らないと手を伸ばして自分の雄を覆った。

「ん………っ」

特に弄ったわけでもないが、感覚が尖っている。触れるだけでも背筋を快楽が走り、カイトはぴくりと震えた。

「私がいるというのに、自分でなさるなんて………いけませんよ、カイト殿」

「ぁ、ちが………っぁ、ぁんっんんっ」

瞳を細めたがくぽは、隠された場所へとくちびるを寄せる。隠すカイトの甲をかりりと咬むと、力ない手をやさしく引き剥がし、とろりと蜜をこぼして濡れる場所に舌を這わせた。

カイトはじゅわりと、肉が焼けるような心地を覚える。もちろん現実には、そんなことはない。

それでも感覚的には焼ける心地を味わい、カイトはがくがくと腰を痙攣させた。この熱も、久しぶりだ。焼けて爛れるような危惧と、痛みと紙一重の蕩け落ちる快楽。

「め、がくぽ………め、ぁ、おれ……おれ、ガマン………できな、ぁ、きもち、い………っっ」

「どうぞ……」

「ぁぅうっ」

弱くないところがあるのかと訊いたほうが早い、カイトだ。ましてや久しぶりの快楽に、元からないに等しい堪え性はがた崩れだった。

ほんのわずかに舐め啜られただけで極みに達し、カイトは腰を震わせてがくぽの口の中へと放つ。

貪欲にすべてを吸い上げたがくぽは、顔を起こした。口の中のものをゆっくりと、飲みこんでいく。

さすがにここは、薄荷水とはいかない。

いかないが、癖になる。何度も何度も、カイトがもう痛いと泣いて、やめてくれと嘆願するまでずっと、吸い上げていたくなる。

束の間、欲望のままにそうしてやろうかと思ったがくぽだが、それより先にカイトの手が伸びた。

危機を察知したわけではないだろうが、蜜を吸い取られたばかりでしなだれる場所を過ぎ、その奥に秘された窄まりに指を掛ける。

「が……くぽ………がくぽ、ね………おれ、……おれ、ガマン、できな………おなか、きゅうきゅうして、がくぽ、ほしい………いっぱいいっぱい、おなか、すいちゃってる………」

「………カイト」

「んんっ………っ」

閨の中、それもほんのわずかな瞬間だけこぼれる呼び方をされて、カイトは体を震わせた。

弱くないところは、ない。

がくぽからこうして、傲然と所有を主張する呼び方をされるだけでも、カイトは感じてしまう。

震えて力の入らない体を懸命に繰って足を開き、カイトは赤く染まりながら、自ら窄まりを広げて見せた。しばらくしていなくても与えられる快楽を忘れていない場所は、ひくついて情人を求める。

羞恥はあってもそれ以上に欲しいものがあって、カイトは潤む瞳でがくぽへと腰を揺らめかせる。

「たべさせて………がくぽの、………おなか、いっぱいになるまで………」

「カイト」

「ぁ………っ」

体温が上がり、息も荒くなった男が雄となって、カイトに伸し掛かって来る。闘気にも似た、欲に眩む雄の気配に圧されながら、カイトは安堵に解けた。

今でも、開かれる体への怖さは多少ある。

しかし上回るのは、貫く情人への愛情であり、雄と化しても忘れることのない、情人が掛けてくれる情愛だ。

自ら開いた足に手を掛けられ、さらに押し広げられる。浮かせられた腰に、同じ男であっても比べものにならないほど漲る雄が押し当てられた。

漲っても冷えているカイトのものとは違い、がくぽのそれは焼き鏝のように熱い。

「んぅ………っ」

「カイト………」

「ゃあ……っ」

腹に押し込まれる感触にぶるりと震えたカイトの耳朶に、がくぽは舌とともに、甘くどろりと蕩ける声を吹き込む。

がくぽはよく、カイトを甘いあまいと評するが、カイトは思う。

がくぽのほうが余程に甘い。そのうえ熱を持って、冷えたカイトをとろとろに蕩かしてしまう。

蕩かして掻き混ぜて、がくぽの『形』につくり直して――

「ぁ、あ、あ………っぁ、つい………ぁつぃ、の………ぁつい、がくぽ………っ」

「ああ………」

うわ言のようにつぶやいて啼くカイトの、過ぎる快楽にこぼれる涙を啜り、がくぽは腰を打ちつける。

カイトが意思を持って調節しない限り、いくら抱いても体は冷たいままだ。

冷たいまま、温まることはないはず――だが。

張り詰めるものを受け入れ、激しく掻き混ぜる場所はがくぽが熱を持てば持つだけ、応えてぬかるみ、温みを持っていくような気がした。

想いを込めて抉れば抉るだけ、熱でもって応えを返してくれる。

過程は愉しく、想いを返してくれる相手がさらに突き上げて愛おしくなり、がくぽの熱は募ることがあっても冷めることはない。

「カイト………っ」

「ぁああ……っぁ、あ、つ……ぃ………」

腹の中に熱を吐き出すと、カイトは仰け反って痙攣した。

苦鳴にも似ている嬌声とともに、カイトもまた極みに達して吐き出す。がくぽの熱に焼けた心地の肌が、温まることのない自分の体液で冷たく濡れた。

腹の中の熱さと外の冷たさと――沁みて行くような快楽に浸りこみ、カイトは茫洋と天井を見つめる。

そのカイトを抱えて離さず、このときばかりは甘えん坊になる情人はすぐさま、かりりと耳朶を咬んだ。

「っんっ」

「もう一度……」

強請るカイトは、上目遣いになる。

強請るがくぽは、耳朶に咬みつく。

「もう一度…………」

「ん、ん………っ」

弱くないところのないカイトは、弱点に咬みつかれての、蕩ける甘い声でのおねだりに抗せることもない。

未だ息も整わないうちのおねだりに頷き、がくぽへと絡みついた。