愚者の祝祭
妙に真剣な顔をしたカイトが、てってって、とがくぽの前へやって来た。なにやら懸命に、がくぽを睨む。
「あのね、がくぽ!」
「応?」
気圧されたがくぽに、カイトはわずかに口ごもり、それから毅然と目を合わせた。
「俺ね、がくぽより、アイスのほうが好き!」
「…………っ」
それ、わざわざこうやって宣言することなのか?
衝撃に目の前が暗くなりつつ、がくぽはどう返すべきかに悩んだ。
そのがくぽの着物の袷を掴み、カイトは懸命に引っ張る。
「がくぽ。がくぽより、アイスのほうが好きなんだからね!」
「………………………」
念まで押されたし!
どこか必死なカイトの表情を見ていられず、視線を移ろわせたがくぽは、ふと、カレンダーに目を留めた。
四月一日――
「………………っ」
「…………………」
カイトは顔を真っ赤にして、じいっとがくぽを見つめている。
がくぽはわずかに首を傾げ、それから微笑んだ。
カイトの瞳を、しっかりと見つめ返す。
「そうだな――俺も、カイトより、茄子が好きだ」
「………っ」
カイトの青い瞳が揺らぐ。
がくぽは微笑んだまま、不安に震えるカイトの頬を撫でた。
「お揃いだな?」
悪戯に瞳を輝かせてささやけば、カイトの表情はぱっと明るくなった。がくぽに飛びつき、うれしそうに頬ずりする。
「うん、おそろい!」
やれやれと思いながらも、がくぽはカイトをきつく抱きしめた。
なんだか、妙にしあわせな気分だ。
こんな愛情表現も、たまにはいい。
アイスのほうが、好き、だなんて。