愚者の日常
ぴょんぴょんぴょん、と浮かれウサギの足取りでリンがやって来た。その笑顔は無邪気だったが、レンにはわかる。
ロクでもないことを企んでいる顔だ。
「レーンー♪」
案の定、声が邪悪に弾んでいる。そのまま、リンはにっこり笑って告げた。
「あのね、リンね!レンよりみかんが好き☆」
「…っ!!」
衝撃で回路が飛んだ。
倒れそうになってから危ういところで踏みとどまり、レンはみっともなく涙の滲んだ瞳でリンを睨んだ。
「俺だって、なあ!リンよりバナナのほうが好きだよ!」
「んなっ?!」
怒鳴ると、リンが瞳を見開き、強張る。
ざまあみろ、と泣きそうな心地で考えるレンに、リンの瞳に涙が溜まった。
「な、によなによぉ!レンのばぁああっかっ!リンだって、レンよりみかんのほうが好きよぉっ!!」
それはさっき聞いた!
二度も言われて、レンの回路がいくつかキレる。
「うるせえっ、俺だってリンよりバナナのほうが好きだ!」
再び怒鳴られて、リンの毛が逆立った。
「なによなによなによぉ、レンなんか嫌いきらいきらい!」
「うるせえうるせえうるせえ、俺だってリンなんか嫌いだきらいだきらいだ!!」
「レンのばかばかばかばかばか!」
「リンのぼけぼけぼけぼけぼけ!」
「ひどいよ、レン!リンがレンのこと大好きだって知ってるくせにぃっ!」
「ひどいのはそっちだ!俺がリンのこと大好きだってわかってるくせにっ!」
「みかんより、ロードローラーより、マスターより、レンのことが好きなんだからねっ!」
「俺だってなあ!バナナなんかと比べもんにならないくらい、世界でいちばん、リンのこと好きなんだぞっ!!」
怒鳴りあって、リンとレンは睨みあった。激しく火花が散る。
「リンのほうが、ずっとずっとレンのこと好きよ」
「そんなん、俺のほうがリンのこと好きに決まってんだろ」
主張は譲らず、ふたりは剣呑な眼差しを交わすと、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「なによ、もう知らないっ」
「勝手にしろよ、もうっ」
――同じ思考を分け合うふたりが、意思の疎通を図れるようになるのは、まだまだ先の話のようだった。